見出し画像

母とは分かり合えない、でもふたり旅は楽しい

私たちは分かり合えないタイプの親子だ。母は自分のデザインした商品が何万個と流通するのを喜び、私は手作りの短歌集が10冊売れたのを喜ぶ。母は感情のまましゃべったり怒ったりする癖があり、私は受け流したりその場を去ったりして逃げることがある。そして母は酔うとよく私のことをなじり、私は決してこんな母になるまいと誓う。分かり合うことを諦めて距離を取ることが、この数年でやっと板についてきた関係だ。ここまで長かった。

とはいえ私たちにも共通点はそれなりにあって、特に目立つのは旅行が大好きということ。もしくは私が旅行好きの母に影響を受けたということ(そういえば祖母も旅行好き)。そして私たちは分かり合えないのに、5回もふたりで旅行した。旅行中は基本的に、仲良く助け合って過ごした。旅の不思議。魔力。効力。そういうものの恩恵を受けている。

ちなみに今までふたりで行ったのは、タイ、ベトナム、北海道、台湾、サンフランシスコ。コロナ禍以前で私が大学生だった5年間ことだ。たいてい母が繁忙期に疲弊し「どっか行きたい」と言い出して私を誘う。お金はないけど旅行がしたい私は、出してくれるならと乗っかる。そして母が行程のほとんどを決めて予約して準備して、私はついていく。最後のサンフランシスコだけは私が行くと決めて母が乗ってきたのだが、現地での行程やホテルはやはり母が大部分を決めた。お金を出す人に選択権があるのはもっともである。いわんや我々の関係をや。

そして旅行というのは、どうしたって私たちをウキウキさせる。機嫌が良いので喧嘩になりにくい。さらに母は英語が苦手(と言うが散々海外出張に行っているからたぶんできる、私より下手だから私の前では話さないだけ)なので母は私を頼るかたちとなる。そうして私たちは日常と違う関係性を築き、1週間ほど楽しく過ごす。たくさん美味しいものを食べ、知らない場所に行き、あれこれに感動する。そして帰国したら、短い余韻に浸ったあと元の関係に戻るのだ。魔法の時間が終わる。

もしかしたら母の中には、もっと違う感情や考えがあったのかもしれない。なんとなくわかる気もするが、それは勝手に書けない。もちろんわかってないこともあるだろう。いずれにせよ書けない。

この記事が参加している募集

眠れない夜に

これからの家族のかたち

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?