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2023.6.15 【全文無料(投げ銭記事)】人の能力を引き出す“三方良し”経営

日本は、“明るい希望を持つ青年の比率が先進国中最低”です。
今回は、この事態から脱する道について書き綴っていこうと思います。


自分の将来に明るい希望を持っていますか

内閣府による平成30年度の『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』によれば、
<自分の将来について明るい希望を持っていますか?>
という設問に、
希望がある 18%
どちらかといえば希望がある 42.6%
で、先進7ヶ国中では最低の数値でした。

これまで短期業績指向、派遣社員・パート・アルバイト化、生産拠点の海外移転といった『株主良し』経営こそ最先端の経営ともてはやされてきましたが、その結果が経済の長期停滞であり、貧富の差の拡大であり、若者の希望喪失なのです。

経済協力開発機構(OECD)が発表した日本の労働者の時間当たりの賃金は、1997年に比ベマイナス8.2%、物価上昇分を差し引いた実質賃金もマイナス10%と、先進国の中で唯一減少しています。
20年以上も貧しくなる一方では、将来に希望が持てないのも当然でしょう。

平均的な収入でもこんな状態ですから、低収入の人々はもっと悲惨です。
厚生省の調査によると、現在の日本で約600万人の男性が年収200万円以下で暮らしているとのことです。
その多くはパート、アルバイト、派遣などで雇用自体が不安定です。
これでは結婚もできません。

30~34歳の男性の未婚率は、1970年には僅か11.7%だったのが、2010年には47.3%にもなっています。
未婚男性の約85%は、「いずれ結婚するつもり」と答えながら、結婚への障害として挙げられている理由の第一が“結婚資金”、第二が“結婚のための住居”です。
結婚したくともできないというのでは、将来の夢を持てないのも無理はありません。

国家の元気を取り戻さなければなりませんが、その方法は分かっているのです。
世界史上の奇跡とも言える、近代日本の経済発展を成し遂げた先人たちに聞けば良いのです。

世界恐慌、関東大震災、敗戦を乗り越えた奇跡の経済発展

一人当たりGDP(国内総生産)の歴史的推移を見ると、日本は明治初年は世界(欧米諸国、中国、韓国)に対して、80%の水準でした。
鎖国の間に、狭い日本列島の中で収容能力限界ぎりぎりの人口を抱えていたのです。
それが昭和15(1940)年、大東亜戦争の前年には、世界の150%の水準に急伸します。
中国、韓国、ロシアを追い抜き、西洋諸国との距離も大分詰めました。

敗戦により、また世界の90%の水準に落ちますが、1960年には140%と戦前に近い水準に到達し、それから1970年には260%、1990年には360%と急成長を遂げます。
アメリカに次いで世界2位となりました。
これが世界史に残る高度成長の結果です。

この過程は、決して順調なものではありませんでした。
例えば、大正12(1923)年の関東大震災あり、昭和5(1930)年以降の世界大恐慌あり、また昭和20(1945)年の敗戦がありました。
我々の先人たちは、これらの混乱を乗り越えて、世界有数の経済大国を築き上げたのです。

先人たちはどのように、これらの危機を乗り越えたのでしょうか?
その事例を以下で紹介します。

松下電器の飛躍をもたらした『三方良し経営』

例えば、関東大震災からの復興が本格化し始めた頃、東京では極端な品不足のために、電気器具などは災害前の数倍の高値となっていました。
松下幸之助率いる松下電器は、関西に製造拠点があったので、生産面は被害を受けませんでした。
そこで、東京では市況に数倍の値段で電気器具を売れば、濡れ手に粟の大儲けができる状態でした。

ところが幸之助は、
「非常時なので、今まで納入した分の販売代金は半額払ってくれたら結構。これから納入する分は、震災前と同じ値段でいくらでも供給します」
と顧客に伝えました。
「ええっ!」
と、得意先の主人たちは目を輝かせました。
当然、松下の製品は飛ぶように売れます。

このような利他心は顧客の心を打つものです。
今までの代金支払いは半額で結構と言ったのに、結局はどこも全額を納めてくれました。
中には恩義に感じて、わざわざ東京から大阪まで支払いに来てくれるお得意先もいました。

これが『買い手良し』の事例ですが、こうした安価な電気器具の提供で、復興もそれだけ早く進んだでしょうから、『世間良し』にもなっていました。
更に、松下電器はこの一件で東京での信用を一気に確立し、関西メーカーから全国メーカーへの飛躍にも繋がったのです。
即ち、『売り手良し』でもありました。

このように、『売り手良し』『買い手良し』『世間良し』を同時に追求するのが『三方良し』経営の根幹です。
日本のあちこちに『三方良し』を追求する経営者がいたので、国全体が急速に発展するのも当然でしょう。

三方良し経営のパワーは従業員から

しかし、三方良し経営はなぜ、それほどパワーがあるのでしょうか?
私は、“三方良し経営は、人間の利他心のパワーを引き出す”からではないかと考えています。

まず、従業員のやる気と力がどれほど企業の業績を良くするかについては、日本電産株式会社創業者の永守重信氏が実績で示しています。

例えば、赤字287億円も出していた三協精機を買収した時には、一人もクビにすることなく、数人の役員を送り込んだだけで、翌年には150億円の黒字に転換させました。
僅か1年のことですから、同じ社員が、同じやり方で、同じ顧客に、同じ製品を製造・販売していたのです。
変わったのは、社員の意識だけでした。

永守氏は三協精機を頻繁に訪れ、社員と杯を交わしながら話をしました。

<なんでみんなと飯を食うかというと、食事をしたり、一杯飲んでできる話ならだいぶ様子が違ってくるから。
ばか話でもしながら、わかりやすく話をする。
みんなの質問を受け付ける。
細かい話も出てきます。昼間働いているが、立ち作業でしんどいとか、休み時間になったら椅子が足らんとか言うわけや。
そんなことなぜその場ですぐやらんのかわからんけど、そういう意見がいっぱい出てくる。
……それを全部解決していくわけですね、順番に。>
(日本経済新聞社編『日本電産 永守イズムの挑戦』)

立ち作業でしんどいのに、休み時間の椅子が足りない。
企業には、この手のすぐに解決できるような問題がいくらでもあります。
それを放っておくと、ムリ・ムダ・ムラが積み重なって赤字287億円となるのです。
そして、そういう無数の小さな問題を社員が解決し始めると、あっという間に150億円の黒字になります。

『株主良し』経営で、人件費を減らそうと正社員を派遣社員、パート、アルバイトに変えたら、このような社員による問題解決のパワーは出てきません。
社員のやる気と問題解決能力を最大限に引き出すところから、三方良し経営のパワーが出てくるのです。

利己心の株主良し経営、利他心の三方良し経営

人間の能力を引き出す方法においても、株主良し経営と三方良し経営では異なります。

株主良し経営は、人の利己心を刺激して動かします。
まず株主は、自分の利益を最大化するために、優秀な経営者に高い給料で雇います。
特に、自社株を買う権利を与えて株価を上げれば、自分も儲かるようにします。

経営者は能力の高い管理者を給料で釣って、経営目標に邁進させます。
そのためによく使われる手法が目標管理です。
半年程度の短期的な目標を立て、それを達成したらボーナスを積み増ししてニンジンをぶら下げます。
管理者は、自分の部下を同じ仕組みで働かせます。
よく働いたらニンジンをやり、ダメな社員には減給、降格、クビといったムチを与えます。

こうして株主良し経営は、人間のニンジンが欲しい、ムチは嫌という利己心を刺激して働かせようとします。

それに対して、三方良し経営が刺激するのは、人間の利他心です。
社内の同僚のために尽くしたいという『売り手良し』、顧客に喜んでもらおうという『買い手良し』、世の中のために尽くしたいという『世間良し』、こういう利他心が従業員を動かすのです。

マズローの『欲求5段階説』で比較してみれば

利己心で人を動かす株主良し経営と、利他心で動かす三方良し経営、どちらが効果的でしょうか?
米国の心理学者アブラハム・マズローの『欲求5段階説』が、その答えを与えてくれます。

この説は、人間の欲求を5段階のピラミッドで現したもので、それぞれ低次の欲求を満たすと、その上の欲求を求めるようになるといいます。

下から説明すると、
⑴生理的欲求: 空気、食料、水、空気、性など、人間が生き延びていくために必要な欲求。
⑵安全欲求: 病気、事故、暴力、失業などからの保護
⑶社会的欲求: 家族や地域、職場などの共同体に所属し、受け入れられる。
⑷承認欲求: 共同体の中で価値ある一員として、一目置かれる
⑸自己実現欲求: 自分自身の能力や適性を最大限に発揮して、本来の自分を実現する

人間をカネで釣る株主良し経営は、生理的欲求、安全の欲求という低次の欲求で人を動かそうとします。
しかし、ある程度の処遇を受ければ、これらの欲求は満たされてしまいます。
そうなると、さらにカネで動かそうとしても、人はより高次の欲求に移ってしまいますから、効果はなくなってしまうのです。

それに対して、三方良し経営では、従業員には適度な処遇を与えて生理的欲求は満たします。
更に職場の安全活動を一生懸命やり、いきなりクビにしたりもしませんので、安全の欲求も満たします。
こうして低次の欲求を満たした上で、三方良し経営は更に高次の欲求を満たそうとするのです。

まずは和気藹々あいあいとした職場作りを心掛けて、所属の欲求を満たします。
更に、社員各自が自分の得意な技能を磨き、皆が力を合わせるチームワークで事業成果を追求します。
その過程で、一人ひとりが“処を得て”、承認の欲求と自己実現の欲求を充足させていくのです。

低次欲求はすぐに充足して、それ以上、人間を動かしません。
そういう低次欲求だけに訴える株主良し経営と、人間の所属、承認、自己実現という高次の欲求を充足させようとする三方良し経営。
どちらが経営としてパワーがあるかは明白でしょう。

労働はヤハウェの罰か

人間の生理的欲求と安全の欲求だけを刺激して働かせようとするやり方からは、西洋や中国で根強い歴史を持つ奴隷制の名残りのように見えます。
奴隷ですから、如何に食べ物を貰って命を繋ぐか、主人に愛想を売ってムチで打たれないようにするか、生理的要求と安全の欲求を充足するために一生懸命働きます。

派遣社員、パート、アルバイトなど、低賃金で働かせ、いつでもクビに出来る仕組みとは、こうした奴隷制に根付いた労働観です。
それを衣食足りた現代社会でやっていこうとするのですから、甚だしい時代遅れです。
こういう職場で使われる青年たちが、自分の将来への希望を持てなくなるのも当然でしょう。

特にキリスト教の旧約聖書では、アダムとイブが絶対神ヤハウェの命令に背いて智慧の木の実を食べてしまい、その罰としてエデンの園から追放され、働かざるを得なくなったと説きます。
労働はヤハウェの罰なのです。
この労働観では、人々はお金が貯まったら早く退職、即ち罰から解放されて、アダムとイブのように楽園でのんびり暮らすことを目指します。

ですから、財産を貯め込んだ成功者たちは、エデンの園で安逸に暮らします。
奴隷の如く働かされる労働者とエデンの園で遊び暮らす成功者。
これでは同じ共同体の同胞とは言えません。

もっとも、キリスト教の良き伝統を受け継ぐ人々は、博愛精神を発揮して、様々な奉仕活動に取り組んでいます。
余暇に従業員にボランティア活動を奨励したり、利益の中から多大な寄付を行う企業もたくさんあります。
こういう良き伝統に目覚めることが、欧米企業を株主良し経営から救い出す道なのです。

三方良しで自分の一隅を照らそう

一方、古事記では高天原にも田があり、神々が農耕に勤しんでいました。
また『天の機織女はとりめ》が天つ神のための御衣も織っています。
労働とは神々も行い、また更なる上位の神を祀る神聖な行為なのです。
こういう労働観に立てば、従業員が『売り手良し』『買い手良し』『世間良し』のために働くことは、人間としての崇高な働きとなるのです。

こういう労働観を基盤に、三方良し経営は、一人ひとりの従業員の所属、承認、自己実現の欲求を満たそうとするエネルギーを引き出し、それを原動力に『売り手良し』『買い手良し』『世間良し』の利他心を発揮させようとします。

これは、明治天皇が五箇条の御誓文を出された時の国民へのお手紙(御宸翰)に、
<天下億兆、一人もその処を得ざる時は、みな朕が罪なれば(国民が一人でもその処を得られなければ、それは私の罪であるから)>
と言われて、その一人ひとりが“処を得る”という理想を実現しようとすることです。

こうして従業員一人ひとりが処を得て、同僚のため、顧客のため、社会のために役立っているという実感を持ち、そうした従業員のエネルギーが結集されて、企業も国全体も繁栄していくというのが、『和の国』の人々と企業のあるべき姿です。

この姿が一般的になれば、もっと多くの青年たちが、
「自分の将来は明るい!」
と思うようになるでしょう。
三方良しは企業経営に限らず、各人の置かれた小さな一隅でも実践できます。
それによって、自分の置かれた一隅を照らしていきましょう。

最後までお読み頂きまして有り難うございました。
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