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君はロマネスク実験を知っているか?

 ある時期において、相対性理論というバンドの影響力はすさまじいもので、フォロワーバンドはもちろん、明らかに参考にしているバンドが至る場所に存在していた。直接的な影響はないだろうものの、同じ枠組みで捉えられているようなバンドだっていた。それは相対性理論というバンドが演者、リスナーに与えた影響が途轍もないものだったということの証であろう。

 時は2024年。直接的にその影響を音にする、声にするバンドはすっかり鳴りを潜めている。本家本元ですら動いていない。コピーバンドが水面下で活動を続け、その火が消えないようにしているのが現状だ。そんな中、突如現れた2人組。それがロマネスク実験だ。

 現在、サブスクでは2曲が配信されており、YouTubeなどでもその楽曲を聴くことができる。一聴してわかるように、ここには相対性理論の血が流れている。といっても、ただトレースしているとかではなく、自らの肉体にその養分をしっかりと吸収したうえで、音楽を咀嚼し、今の時代のものとして楽曲を打ち出している。

 その歌声はアンニュイさを感じさせながら(決してアンニュイではないのがミソ)も、どこか強さ(それは声の太さとかではなく、歌うということへのはっきりとした意思)を感じさせる。やくしまるえつこのように、記号化された歌詞をウィスパーのような質感で、感情というものを排除したように歌うというものではない。ここには感情がある。血が通っている。そう、フォロワーの多くが歌において一番大事なものとして捉えていただろうものを、あっさりアップデートしているのだ。それを簡単に言うなれば、歌を歌としてしっかり歌っているということ(当たり前だと思うかもしれないが、ここがフォロワーとの決定的な違いだと思う)。

 アレンジもそれっぽくは聴こえるところもあるけれど、明らかに今の時代のもの。あの時代のあの感じ、あの空気感ではないのだ。2024年だからこそ鳴らすことができるものなのだ。コロナ渦以降の閉塞感の中で生み出された音楽の先にある何かをつかんでやろうという意識のもとに生み出されているというべきか?

 2人組ユニットではありながらもバンドで演奏されることが想定されているのか、過剰に音を重ねたデスクトップ発の音楽にはなっていない。シンプルにバンドサウンドになっている。それは情報量の統制がしっかりと行なわれているからだろう。メロディだって、単純に良いメロディというものを追求しているのだろう。そして、その楽曲は一度聴いたら耳に残る印象的なものが多い。楽器のフレーズひとつひとつをとってもそうだ。

 そう。つまりは何ひとつ無駄がないのだ。必要なものを的確な形で積み重ね、あるべき姿として構築していく。あれを加えたい、ここをこうしてみたいという欲望は、作り手であれば必ず抱えるはずだ。しかし、そこでしっかりとふるいにかけることが出来ている(もちろん、ふるいにかける行為は誰だって行なうだろうが、その振り落としの絶妙さがここにはある)。だから、どの音色、フレーズもしっかりと印象に残り、楽曲が聴く者に沁み込んでいく。それは頭の中で見せたい姿が明確にあるだけでなく、自分たちの存在意義をすでに理解しているからだろう。

 そんな二人。ブレインである成山まことの上野耕路と成田ハネダを足したようなその姿は明らかに才能の塊といった風情だし、ナラかほはフロントに立つシンガーとして、ポップアイコンとして完璧なたたずまいをしている。この2人、音楽だけでなくルックスまでも完ぺきではないか!
 この先、この2人組がどのようなスタイルで音楽を創り出していくのか、楽しみで仕方ない。もしかしたら、音は違えど、ブレイン+アイコンという「2024年に生まれたピチカート・ファイヴ」としてこれからのインディシーンを担っていくかもしれない。当の本人たちはそんなこと1ミリも考えていないだろうけど。

 ただ一つ言えること。それは。

 ロマネスク実験。要チェック。ということだ。

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