ギャラクシー号に運ばれて

2月9日は彼女との交際9ヵ月記念日だった。
この日の夜、私は初めて、東京より遠くまで行く夜行バスに乗り込んだ。

大阪・京都から東京より北、福島を結ぶ高速バス路線はひとつしかない。
出発時刻も乗り場もよく知っていて、何度も見送っているのに一度も乗ったことがなかった夜行バス・ギャラクシー号に、私は今回初めて乗り込んだ。
片道10時間以上の長旅だ。
座席の選択が良かったのか悪かったのか、自分の前の乗客には恵まれなかったが(私が乗り込んだ時点で真っ平らに背もたれを倒していた)、後ろの乗客の方が非常に親切で、遠慮して少しだけしか背もたれを倒さなかった私に「もっと倒して大丈夫ですよ」と気遣ってくださった。

途中渋滞にはまったりしつつ、満席の乗客を乗せてギャラクシー号は東へ、そして北へと進んでいく。
夜を過ぎて朝になり、ふとカーテンの隙間から外を覗くと、そこらじゅうに雪があった。
この時点で既に福島県には入っていたようである。
関西でも北部・日本海側では雪も降るが、私の住むエリアでは雪がばっさり降って積もる、なんてことはほとんどない。

それからさらに2つほど停車地を過ぎて、福島駅で降車した。
スーツケースを携えて辺りを見回す。
と、こちらに気づいてぱっと表情の晴れた人物が目に入った。
愛しい恋人だった。
互いに、わっと抱きしめ合った。

福島駅からさらに北に向かって、私は初めて、豪雪地帯である恋人の郷里に降り立った。
景色を白く染める雪は例年より少ないというが、田畑の地面を真っ白の下に覆い隠し、太陽の光を受けてきらきらと輝いていた。
初めて見る景色なのに懐かしささえ感じたのは、街並みがどことなく私の故郷の街に似ている気がしたからだろうか。

雪灯篭まつり、木彫りの鷹、踏みしめた雪の感触。
伝統行事、文学館、旧県庁、ご当地の文具店。

飛ぶように時間が過ぎていく。

帰りのバスの時間が迫ってくる。
時間なんて忘れて、まだ、もっと、ずっと、一緒にいたい。
まだそんなわけにいかないことは、頭では分かっているけれど。

彼女の前では泣かないと決めていたのに、泣いてしまった。
二日間なんて、すごく短かった。
関西と東北の遠距離恋愛で、すぐにまた会えるわけじゃないって分かっているから、涙が溢れて止まらなかった。

夜の高速道路、流れていく光。
地元に帰るための、バスのチケットを確認する。

関西へと向かう夜行バス・ギャラクシー号が、駅前のバスターミナルに停まっていた。
運転手にチケットを渡し、スーツケースを預け、彼女のところに駆け戻って抱きしめる。
絶対、また来るからね。

私たち、どうしてこんなに遠くにいるのだろう。
こんなに遠くにいて、年に数回しか会えないなんて。

バスの窓越しに、泣きじゃくる彼女と手を合わせる。
彼女が関西に来るときもそうだけれど、別れのときにいつも彼女が泣いてしまうから、ごめんね、寂しい思いさせてごめんね、って。
こんなに遠くて、ほんの少ししか会えなくて、それでも私を選んでくれてありがとう、って。

バスが動き出す。
彼女の姿が後ろに流れて、見えなくなる。
バイバイ、またね。
そんなこと言わなくていいように、早くしたいね。

走り出したギャラクシー号の中で、私もしばらく泣いていた。

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