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ーあなたもきっと味わう。これがカルト宗教の恐怖だ。ー映画『マリグナント』

2022年7月、世界を震撼させた日本の総理大臣殺害事件。そこで大きな社会問題として浮き上がってきたのが宗教問題です。特に『宗教2世』問題は注目を集めました。

日本では古来より多くの宗教が根付いていることから、カルト宗教や怪しい信仰を持った集団も少ないくないのだとか。例えば、突然家に来る訪問勧誘。

一見、優しく手を差し伸べてくれる集団に見えることもありますが、その団体がカルトの集団である可能性も高いようです。

映画界でもカルトを話題にした作品はたくさんあります。中でも『ミッドサマー』や『ウィッカーマン』は歴史を作った有名な映画ですね。

今回ご紹介する『マリグナント』もカルトをテーマにした物語。鑑賞者の感情が抉られるような、カルト作品ならではの楽しみを存分に味わえるショート映画です。

映画『マリグナント』の魅力と解説を展開していきます。
ぜひ、SAMANSAで作品のチェックもお忘れずに!



<作品時間> 16分24秒
<監督> Morgan Bond & Nickolas Grisham
<あらすじ>
看護師の見習いとして働くぞ女性・チャイナ。彼女の母親・デビーが人里離れたテキサスで、乳がんの『治療』をしていることを知り、久しぶりに会いに行くことに。その日は母親の誕生日だった。

家に到着すると現れたのは、母親ではなくルームメイトの男。チャイナは間違った家に入ってしまったと慌てるも、その男はデヴィンと名乗り招き入れてくれるのだった。

チャイナは少し奇妙に感じながらも、デビーと笑顔で再会をする。仲良く話している親子だったが『治療』の話になると重い雰囲気になってしまう。

どうやらデビーが治療について話はしたくない様子。それを察知したチャイナは、暗い思いをさせたくないデビーを励ますのだった。

そんな中、訪れたデビーの誕生日パーティ。チャイナはデビーと親しい人が集まったように感じるが、カルト集団だったことに気づく。
やがて親子の間に亀裂が入っていく・・・。


◎カルトをテーマに繰り広げられるヒューマンドラマ

この映画の大きなテーマとなっている『カルト』。そもそもカルトとはどういうものなのでしょうか?

カルトは宗教や政治、心理的な要素を使って人を集めたり、お金を集めたりする宗教的集団のことです。

私たちがどの宗教に信仰するかは自由です。これは信教の自由、つまり国民に与えられた一つの権利として定められています。

しかしその信者を騙し、利益を得ようとする悪質な集団が『破壊的カルト宗教』とも言われているようです。

その怖さを象徴するのがマインドコントロールと洗脳です。

この映画では、チャイナの母親がまさにマインドコントロールされた状態。それに気づくも簡単には覆すことができないチャイナの姿が描かれています。

カルト映画の醍醐味は矛盾。いくらカルト宗教が悪いと理解をしていても、カルト側の考えに納得させられる鑑賞者も多いでしょう。

そこがこの作品の面白い視点であり、怖さでもあります。
相手に思いやりを持つことで、逆に自分の心が抉られたような感覚を持ってしまう・・・。

果たしてあなたはこの映画を通して何を感じるでしょうか?

チャイナの思いに共感しますか?
それともデビーの状況に共感をしますか?

2人に共感をしてしまうことで、どうしたら良いのかわからないと思う人もいるかもしれません。

◎デビーがカルトにたどり着いた経緯とは?

チャイナが家に到着すると、デビーはすでにカルトに入信していました。
ルームメイトのデヴィンと暮らし、ハリーという人物を崇めていました。これには、チャイナも驚きを隠せません。

しかし、なぜデビーはカルトに入信していたのでしょうか?
考えられる理由は2つあります。

まずは、これまでのデビーの家族関係。

後半、デビーの誕生日パーティのシーンで注目すべき言葉があります。

「乳がんは母親としてのストレスで。特にあなたが出て行った時から・・・」

カルトに入信する人は『寂しさ』や『孤独』を深く抱えていた特徴があります。デビーはまさにその1人。

乳がんで路頭に彷徨っていたデビーにとって、このカルト集団が最後の救いの手だったのです。

2つ目の理由はこの場所の医療体制。

注目すべきは、冒頭で歌われていた『歌詞』と『車でチャイナがしていた会話』です。

こちらが歌の歌詞。
「何を信じたらいいのか。神はどこにいるのか。」

こちらが車の中での会話の一部。
「病気でひどい頭痛に悩まされ、医者にたらい回しにされた。医者が薬漬けにしようとしたんだ。」

おそらくデビーも同じ状況だったことが考えられます。

家族は遠くにいるから相談できる人がいない。病院に行っても同じことを言われて薬漬けにされる繰り返し。もう打つ手段がない・・・。

そして行き着いた先がカルトに入信すること。カルトに入信する意識はなくとも、そこの人々を信じた結果だったのかもしれません。

これであなたも、カルトへ入信したデビーに寄り添えてしまいませんか?


◎チャイナはカルトを受け入れたのか?

この物語の最後は、2人が抱き合ってデビーの誕生日をお祝いする様子で終わりを告げます。

ここで明かされなかったことが1つ。
チャイナもこのカルトに入信をすることになったのか?という点です。

この考察では、チャイナはこれからもデビーのそばにいると考えます。
その理由は大きく2つ。

最初に、チャイナがパニック障害を抱えていたこと。
パニック障害は簡単には完治しない、心の病のひとつです。

つまりは、チャイナ自身も心の問題を抱えていたということ。
その内容は、看護師の仕事状況やデビーの体の状態なのかもしれません。

チャイナにも心の隙があったのです。

そしてカルトのリーダーである、ハリーがチャイナを誘導する言葉。

「デビーを救えるのはチャイナではないよね。救えるのは本人だけなんだ。」
「だからデビーに何かあった時のために、そばにいてあげるべきなのではないか?」

これらの言葉に「はい」と答えるチャイナの姿がありました。おそらくハリーの言葉で「私にできることは、デビーのそばにいてあげること」と悟ったのでしょう。

元々はカルトと全く反対の立場にいたチャイナ。
看護師である彼女は、医学的根拠がない限り何も認めることができません。

一方でカルトは、全てが心次第。明らかな根拠はなく、信じるか信じないかで全てが決まってしまう。

チャイナの心情が変わっていく姿こそ、この映画の一番の魅力でしょう。

◎あなたは何を信じる?

もしあなたがチャイナと同じ立場に立ったとしたらどうなると思いますか?

カルト宗教だとわかった上で、母親を信じてあげることができるでしょうか? 母親の考えを尊重してあげることができるでしょうか?

仮にカルトを信じなかったとして、母親を言い聞かせても簡単に取り戻せないのがカルトの怖さです。なぜなら、マインドコントロールをされているから。

結局、言い合いにしかならない。
デビーとチャイナの喧嘩がそのことを象徴しています。

どちらにも共感できてしまい、そこからどうにもすることができない・・・・。その矛盾に自分の心を抉られてしまう。

これこそ、カルト宗教が与える恐怖。
ぜひ、映画『マリグナント』で味わっていただきたいです。

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