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〜親子の複雑な思いに人々は何を感じる?〜映画『暗闇はまだずっと向こう』

近年、大きな問題の一つともいえる高齢化社会。科学の進歩により人の寿命が伸びている事実の裏に、高齢者を支える若者が少なくなっていることが問題となっています。

実は、親を介護したり面倒をみる子どものことを『ヤングケアラー』と呼ぶことが主流になってきたようです。

家族に何かあったら支え合うことは確かに必要なことかもしれません。しかし『介護する子どもと介護される親』の関係になると生じてしまうのが、お互いの気持ちの差。

自分の将来を歩きたい子ども。本当はもっと自分の人生を歩みたい、やりたいことを精一杯やりたい。でも面倒をみるべき親がそばにいる・・・。

一方で親の気持ち。子どもがそばにいてくれるのはとてもありがたい。しかし、子どもの未来の足かせになっているのではないか・・・。でも、このままそばにいてほしい。

家族という一番身近な関係だからこそ複雑になってしまうお互いの気持ち。そして、そのような気持ちは簡単には言い出せないもの。

映画『暗闇はまだずっと向こう』は、そんな楽しくも複雑な関係になった親子の物語を描いた作品です。

現代のテーマとも照らし合わせることができる感動のヒューマンドラマ。あなたはこの2人を見て何を感じますか?


<作品時間> 9分43秒
<監督> Bonnie Moir
<あらすじ>
体が衰弱し、息子・ルークに介護をされながら高齢者施設で生活をしていた父親。そんな父親にルークから突然の電話が。その内容は、ルークが父親のそばから離れるという連絡だった。

ルークとの写真を見返しながら、懐かしい思い出に浸る父親。蘇って来るのは息子と過ごした楽しい記憶の数々。しかし、その記憶が現実を苦しめてしまうのだった。

そして思わずルークに電話をする父親。
電話にでないルークに入れた留守電の内容とは・・



◎親と子どもの絆を描いたヒューマンドラマ

ヤングケアラーとして生きる息子・ルークとその父親の絆を描いた物語です。物語は父親の記憶を辿っていく形で進んでいきます。

この映画は、冒頭にも述べた現代の社会情勢を訴えた作品の一つともいえるでしょう。その問題こそ高齢化社会。

現代が高齢化社会であることは多くの人が認識していることかもしれません。しかし高齢化社会に直面した現実を味わうことは、決して多くないのではないでしょうか。

いろいろな家庭の形があります。しかし、中学生や高校生時代の青春真っ只中で親の介護に直面する子どももたくさんいるはず。

この映画は、そういった現実に向き合っている家族の、繊細な感情を感じることができる作品です。

注目していただきたいのは2人の思い。一見すれば、仲良く過ごしている家族に見えるかもしれません。しかし、そこに隠された本当の思いはポジティブだけではなかったはず。

この映画を通して、お互いに隠された複雑な感情を共感していただきたいです。

そしてもう一つの注目は父親の役作り。

彼の姿はまるでドキュメンタリーを見ているかのよう。リアルな映画の世界へ引き込んでくれます。セリフだけではない『ただ生きている姿』がとても魅力的。細かな仕草にも目が離せません。


◎父親役のキャラクターが輝く

この映画で絶対に注目していただきたいのが父親の演技です。まず、衰弱した体の状態。映画のフィクションとはいえ、父親のキャラクターはリアルそのものだと思わされました。

そして繊細な演技。いかにも衰弱している様子を信じこませてくれる仕草。一定方向を見つめた目線、よだれ、話し方、テレビを見る姿、体が震える感じなど全ての要素に全く嘘を感じさせません。

まさに演技していることを忘れさせる演技。

最後に電話をする姿は圧巻でした。口に力が入らず、よだれを垂らしてまで必死にルークに電話する演技は鑑賞者の胸を熱くします。

◎父親の行動の数々

父親と息子・ルークとの関わり合いには、父親の心情がたくさん表れていたことがわかります。

注目してもらいたいシーンが2つ。それが、冒頭の入れ歯をわざと外すシーンとスーパーでお菓子を何個も取り上げるシーンです。

ここからわかることは素直になれない父親の性格。こういった行動は、相手から自分に意識を向けて欲しかったり、かまってもらいたい時に起こすような行動ですね。

父親がいかに寂しがり屋な人間だとわかりますね。でも、そんなことは素直にルークに言えるわけがありません。だから、そうした行動に表れているのだと思います。

実は、この寂しがり屋で素直になれない性格がこの映画でおいて重要なことだったり。最後のシーンへ大きなつながりをみせているのがわかります。

◎父が息子に言えなかった言葉とは・・・?

父親がルークに一番伝えたかったこと。それが最後のシーンに隠されています。その言葉が「愛している」です。

しかし、その映画の魅力はそれだけには留まりません。『愛しているをどのタイミングで発言をしているのか』がポイント。

それが『留守電が切れた後』でしたね。

ルークに電話をしようとしていた父親。
しかしルークは電話に出ず、留守電を残すことになってしまいます。

そこで、父親は蘇ってきた思い出を語ることをしますね。しかし、途中で留守電が切れてしまいます。そして最後に漏らした言葉が「愛している」。

実は父親がここまでして「愛している」を言えない理由があったのです。
その大きな理由は2つ。

まず関わってくるのが、上記でも述べた父親の性格です。素直になれない父親は最後までこの言葉を伝えることができませんでした。

そしてもう一つは父親の優しさです。
実はこの「愛している」という言葉、ルークにとっては苦しみとなってしまうのはおわかりですか?

おそらくそれに父親は気づいていたのでしょう。

「もし、愛しているとルークに言ったら彼を苦しませてしまう・・・」
言いたくても言えなかった「あいしてる」の5文字。この言葉には深い思いが込められているのがわかりますね。


◎息子の視点に立ってわかること

なぜ「愛している」がルークにとっては苦しみとなってしまうのでしょうか。それはルークの視点に立つとわかりやすいと思います。

外見では父親と楽しそうに過ごしているかのような描写の数々。しかし、彼も思いはそれだけではありませんでした。

そんな様子を垣間見せたのが、後半のルークが父親の元を離れるシーン。ルークは将来のために勉強をしていたのです。

ルークには歩みたい自分の未来があったということ。

「家族として父親を介護しないといけない・・・」
「でも自分の将来のためにやりたいことをやりたい」
「でもそうすれば、父親を悲しませることになってしまう・・・」

これが彼の本当の思いなのではないでしょうか。ルークにとって父親の存在は足でまといになってしまいます。でもそんなことは父親に言えるわけがないのでした。

これが先ほどの「愛している」がルークにとって苦しみとなる理由です。
もしかしたら「愛している」がなかったからこそ、踏み出せた一歩だったのかもしれません。

約10分の作品に隠された2人の複雑な思い。そしてヤングケアラーに直面した人の現実。あなたも、言葉にできない親子の思いを体で感じてみてはいかがでしょうか。

映画『暗闇はずっと向こう』はSAMSANSAで配信中!


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