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当たり前なことは大事なこと

『あー、やってらんない!』 
つい、思ってしまうこと。
家族が嫌いという訳ではない。
でも、私の中で沸々と湯が沸くように温度が上昇している。

『お義母さんの介護』
一年前に交通事故にあった。それ以来、右脚が不自由になって介護を要する事態となった。元々一緒に暮らしている。何をどうすれば良いのか意思疎通は取れていたのでそんなに苦痛ではない。
しかし、腰をかがめる動作が多く少し腰痛が気になり始めている。
「ミカコさん、いつもありがとう」
「いえ、そんなお義母さん、お礼なんて」
お義母さんからそう言われる度うれしい反面、どこかプレッシャーになっている。

『三歳の育児』
お義母さんの介護同様、育児も腰をかがめて三歳の息子と同じ目線になるように話しかけている。
何が良くて、何が悪いかなんてまだまだわからない年頃。
言い聞かせているつもりがだんだん口調が強くなってしまう。
叱っているつもりが怒っているのだ。息子もそれを察知して泣き始める。
その悲しくなった気持ちも汲み取れず、日常の忙しさにかまけて見逃してしまっている。

『夫の愚痴』
「またさぁ、部長が急な仕事を振って来るんだよ。コッチの身にもなってくれよってかんじだよなぁ」
夜中11時過ぎに帰ってくる夫。会社まで1時間半かけて電車で通っている。企業戦士。
家は郊外に一軒家を建てて35年のローンを払っている。
仕事が嫌でも人間関係が悪くても会社だけは辞めないでほしいと、私は心の中で願っている。

『私』
家計を支えるためパートに出たいと思っているが、お義母さんや息子のことを考えるとなかなか踏ん切りがつかない。
家の中で悶々としているより、外に出て違った環境に身を置いてストレス発散した方が良いのではないかと思っている。
時々…ここから居なくなりたいと思ってしまうことがある。

もうすぐ12時になる。
夫はまだ、帰ってこない。
面白くもないテレビを見て待っている。
何やってんだろって思う。
すると、玄関のドアが開く音がした。
「ただいま〜」
「なに? 飲んで帰ってきたの?」
酒臭い夫に腹が立った。
「じゃぁ、このご飯は要らなかったのね!」
私は、夫のために作っていた夕飯を皿ごとゴミ箱へ捨てた。
「何やっているんだよ! もったいないことして!」
夫は、けげんな顔をした。
「私だって…自由になりたい時があるんだから…」
絞り出すような声で泣いて言った。

時が止まったかのようにシーンと静まり返るリビング。

夫は、静かな口調で私の背後から抱きしめて言った。
「ミカコのそういう苦しい気持ちを今まで見過ごしてきた。ごめん。
大切なことを毎日家族のためにしてくれているんだよね。
当たり前だと思っていたことがとっても重要なんだよね。
ありがとう。」

私は、救われた気持ちになった。
この夫を支えていきたい。
この家族と共に生きたい。
やっぱり私はこの家族が好きだ。

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