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あなたはまるで"遅延性の毒" /短編小説


”これは私の恋愛物語。”


そんな見出しとともに私は携帯に文字を打ち込んでゆく。
なかなかまとまらない言葉を打っては消してを繰り返しながら
少しずつ進めていく。

でも、あまりにも進まないから私は画面を切り替えてインスタを開いた。


思わず手が止まる。
彼が新しいストーリーを上げていた。


すぐに見たい気持ちと、
絶対に足跡をつけたくない気持ちが交差する中、
一度画面を閉じた。

「はぁ。。」

ため息が漏れる。


彼はよくあるマッチングアプリで出会った同い年の男の子だった。
物静かで言葉足らずだが、心の優しい人ではある。
でも、自分のタイプ的に合わないことは直感的に感じた。

だから初めて会った時、
もう2回目はないな、、、って思っていた。


そんな気持ちを裏切るかのように、
彼は何度も誘い、連絡をしてくれて、
ついには自身の家に歯ブラシを用意してくれるようになった。

料理好きな自分に合わせるかのように増えていく調味料
趣味に合わせるかのように焚きはじめたお香

いつのまにか、
私の生活の一部のように入り込み始めた彼に私は依存していた。


でも、人の心は長くは続かない


私の火は少しずつ燃え上がっていくのと反比例するように
彼からの連絡は減っていったのだった。


会いにきてくれることも会おうといわれることもなくなっていた。


その現実が妙に切なくて悲しくて私は自ら連絡をすることをやめた。
するともう携帯はならなくなった。


頻繁に上がるストーリーの彼はとても楽しそうで、
私の存在の不必要さを物語っていた。
消してしまいたいという気持ちと、
繋がりを残していたいという気持ちが戦っている結果、

今もこうして更新されるストーリーとにらめっこしてしまうのだ。


早くこんな生活から抜け出してしまいたかった。
でも抜け出せない。
私の中に彼の残像が残り続ける限り。


「あなた」という毒は、今日も私をむちゃくちゃにする。


そう思いながら、閉じたインスタを開き
更新されるストーリーをそっと開いた。


とっても楽しそうでいいね。

fin.

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