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白には戻れないグレーな夜/短編小説


「ごめん、、俺はクズだ。ごめん、、、。」

数時間前までパートナーになる可能性のあったこの人は、
お酒に溺れて呆気なく”ただのセフレ”に成り下がった。
だから言ったのに。

”少しでも真剣に考えているなら家に帰って、
遊びのつもりなら最初からそう言って家に来ればいい
どっちつかずで綺麗ごと言うのが一番質悪いからやめて”


無駄に傷つきたくもないし、
気持ちを消費したくない。
そして自分は遊びのつもりでも相手が違った時には、
その気持ちを弄ばないように対応しよう。

そう決めているからこその私の言葉を簡単に覆してきた。
でも覆された事実に対して怒りよりも呆れが勝っている私は
この結果に慣れ始めていた。


結果を積みかさねるたびに、
何かが塗りつぶされているような気がするけれど、
それが何かかは分からない。


ただ思うことは一つ。
人間はこんなにも欲に弱いのだろうか。
グレーな人間ばかりなのだろうか。


なんてことを考えながら相手に合わせた行動をする私。



10代の頃の真っ白だった頃に戻れたらと無性に思った。

帰るのが名残惜しくて終電の数分前まで話し続けた駅
一生昼間でいいのにと思うような時間
その全てに胸に高鳴りを覚えていた私は、、、、

もういない。


涙が出そうになった。


「本当にごめん。でも俺は、、、、、」


何かを勘違いしたこの人は何かを呟いている。
違う違う違う、そんなことで泣いているわけではない。

もう取り戻せないような当時を思い出して、
その時と今の現実のギャップに悲しくて泣いたのだから。



なんなら、あなたの行動で泣けないという事実に気づいて、
むしろどんどんドライになる自分に切なくて
より涙が止まらなくなる始末だ。


でも、本当の事なんて言えるはずもなくて。
無言のまま腕の中に納まっていた。


そんな事実を隠そうとする真っ黒な夜と、
明るみに出そうとする月と星の光。

2つが合わさって浮かび上がった姿は
「グレーな私」だった。


あ~~~、もう白には戻れない。


こぼれる涙を枕に押し付けて、
私は静かに瞼を閉じた。

聞こえてくるのは二度と会うつもりのない人の寝息。



もうこんな夜を過ごさない。と何度目かの誓いを胸に
腕枕から頭を下ろして眠りについた。



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