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これは、あなたの開放宣言/短編小説


PM3:00 
公園のベンチでコーヒーを飲んでいた2人。
さっきまでアニメの話なんてしていたから笑顔の残る表情まま
今日の夜ご飯の提案をするかのように私は話した。

 
「無理に私に会おうとすることを辞めなよ」


風が吹き肌を撫でた。
やっと言えた言葉に私はどこかホッとしていた。
でも彼の顔を見ることはできなかった。

見てしまったら「おわる」事がわかっていたからだろうか。
少しでもこの時間を伸ばしたいからだろうか。
自分の感情がよくわからないまま私はコーヒーを一口飲んだ。

優しい苦さにホッとしながらも、
無性にシロップを足したくなった。

甘さを求めるなんてまるで弱い自分の心を表しているようだった。


また風が吹き頬を撫でた。
いや違った。それは彼の手が自分の頬を覆っていたのだった。
彼が言葉を紡いだ。

優しさに溢れた言葉を受け止めながらも
私は首を縦に振ることはできなかった。

だって私たちは付き合ってはないのだから。
都合のいい状態で会っていた。

でもいつしかその頻度は多くなり、
彼が自分にのみ時間を費やしてくれていることにも気づいていた。
だけど私は、気づきながらも目を瞑っていたのだから。


でも、こんなに優しい人をこれ以上消費してはいけない。
ちゃんと大事にしてくれる人と出会ってほしいと、
いつしか思うようになった。

優しいあなたは、
これから関係を変えればいいと言うだろう。


ごめんよ。
私はそんな簡単に変わらない。
それを分かっているから、ここに宣言するんだよ。


これはあなたの開放宣言。
終われば始まる。だからありきたりな言葉を君に贈ろう。

「どうか幸せになってね」


PM5:00
私は1人帰路についた。
恋ともよべない一つの関係が今、おわった。

風が吹き頬を優しく撫でた。
もう涙を拭ってくれる彼はいない。


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