ほどけた靴紐を結びなおす /短編小説
あぁ、、、なんて単調な日々だろうか。
毎日ゼンマイを巻かれているみたいに、
決まった時間に起きて決まったものを口にする。
いつものようにセットをして着替えていつもの電車に乗る。
仕事をしてお昼を食べて、また仕事に戻る。
1時間前後の残業をして道中のコンビニで缶チューハイを手にする。
味わっているのか味わってもいないのか分からないスピードで、
食べ物を体内に押し入れシャワーに入る。
湯船を溜めている時間が煩わしくて、
いつからか浴槽は飾りに変わった。
わずかな自由時間は動画視聴で終わり眠りにつく。
僕の毎日はこれで完結。
単調な毎日のせいか感情も単調になった。
誰かを強く思うこともなくなり、
1人で過ごす休日に何も感じなくなった。
これはもう孤独ルートまっしぐらかな、(笑)
世間は一体どんな毎日をすごしているのだろうか。
SNSの中に溢れるような丁寧な暮らしや、
誰かを強く思いながら過ごしているのだろうか。
街に流れる音楽は、
こんな毎日でも何十億以上の価値があるんだよと唄っている。
本当に僕の毎日にはそれほどの価値があるのだろうか?
そう思ってしまうくらいには皮肉めいてた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
朝、何回目かのアラームで起きた。
いつもより少し起きるのが遅かったせいか慌てて家を飛び出す。
こんな日に限ってよく信号にひっかかる。
今日はついていない。
そう思っていた矢先の事、真後ろで大きな音がした。
「え?なに??」
振り返るとそこには、小学生の女の子が盛大にこけていた。
見た感じ膝を負傷していそうだ。
小さな女の子だったので、きっと泣いてしまうだろうなと思いながら
大丈夫?と声をかけるために近づいた時の事だった。
その子は今にも泣きそうな、でも踏ん張っているような
何ともいない顔のままゆっくりと立ち上がった。
そしてびっくりすることに鞄から絆創膏を取り出して貼ろうとしていた。
でも痛かったのだろう。
震えるその小さな手は絆創膏をうまく扱えない。
だけど彼女は諦めない。
「強い子だと思った」
僕は、その小さな女性の手助けをするべく膝をついた。
パッと顔をあげたその子の顔はびっくりしていたけれど
一呼吸おいてから静かに
「ありがとう。お兄ちゃん」
そう言った。
信号が青になった。
こけたばかりの彼女は躊躇なく走り出した。
その姿になぜか僕はハッとさせられたんだ。
あぁ僕はこけるのが怖くて、
勝手に自分に言い聞かせて暮らしていたのかもしれない。
単調な毎日を作り出していたのは自分の心だ。
こけてもまた立ち上がって走り出せる彼女の毎日は
いったいどんな景色なんだろうか。
無性に知りたくなった。
だから僕はゆるんだ靴紐を結びなおし、ジャケットのボタンをしめた。
そして一目散に会社に向かって走り出した。
僕の人生は今日から、また始まる。
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