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はじまりと終わりの春

4月。この村に越してきてから、ちょうど1年が経った。
こどもたちに自然の中で暮らし学ぶ体験をさせたくて、十勝の村"中札内"で、わたしたち親子は山村留学をしている。


1年の終わりとはじまり

1年単位で行われるこの山村留学という制度では毎年、決断と別れの季節がやってくる。

3月に、同期生の3家族を見送った。昨年の4月にわたしたちと同じく山村留学に来た家族は、それぞれの事情で、元いた環境へと戻っていく。
村の人たちのあたたかい送り出し。出発前夜にがらんとした部屋に集まり呑み語らう。出発時刻にまた集まり、お見送り。
車にパンパンに荷物を積んで旅立って行く家族に手を振る。
同じく荷物パンパンの車でこちらにやって来たわれわれの当時のことを思い出し、さらに来年の自分たちの旅立ちを重ねる。

わたしたちは、もう一年こちらに残ることにした。素敵な自然の中での生活をあと少し体験してみる。

絶対に残りたい、と口々に言っていた子どもたちだが、帰る友達を見送るたびに、さびしさは感じていると思う。
楽しかった1年間だが、次の1年を楽しめるかは自分たち次第だ。

別れあれば出会いあり、
今期から山村留学にくる方々も今週到着。
迎える側の気持ちを体験すると
なにものかもわからないわれわれ家族を親身に迎えてもらった、そのありがたみが沁みる気がする。

少ない集落で、一人一人の存在は重い。
だからこそしっかりと関係を結んでいく。
今年もみのりある一年になりますように。

「ひとり2年生」を体験した息子には、4月から同級生ができる。
娘はいよいよ6年生。同学年は増えずに逆に2人減っての5人。
新しい関係性の中でそれぞれに新しい体験が待っている。たくましく生きよ、子どもたちよ。

春の十勝ふたたび

3月末、暖かさがやってくると、一面の白だった畑エリアも雪どけて、あっという間に土が姿を見せた。
黒々と広がった畑に、うっすら少しだけ残る雪と白い山々とのコントラストが綺麗だ。
びっしり背の低い緑の草が広がっている畑もある。急に緑!雪の降る前に植えていたのだろうか。あの凍れる寒さの中、雪の下でこの緑たちがじっと眠っていたかと思うと、生命は力強い。

気温がマイナスからプラスの世界に転じた暖かさの中、生き物たちの動きも活発。
雪解け後の畑で、うごめく白鳥たちを見た。
長い首を器用に曲げて、土にくちばしをさしこんでは、なにかをついばんでいる。
冬前に見た石のようにじっと動かぬ姿とは違い、活動的な春の白鳥たち。

うちの庭にも鳥たちが姿を見せる。冠雪を溶いて緑の葉を見せる木々の合間、チルチルピチピチというさえずりが忙しい。コ、ココ、コツコツとキツツキが木を鳴らす。
そんな声をバックに、キャンプ椅子を持ってきて庭に座り、畑を眺めている。
水分が凍らないので、ようやく洗濯物も外干しできるようになった。強めの春風の中、洗濯物が揺れている。

そういえば去年この村に来たばかりの4月もこんな風景だったかなぁと思う。が、「長い冬明けの春」の感覚を味わうのは今回が初めて。凍れる冬のあとは、何でもないことの全てが、うれしさに満ちている。

4月に入り中札内の道の駅も再開。このあと4月20日頃より、閉じられていたガーデン系の施設、産直の販売所なども続々と開くらしい。
桜はまだ咲かない十勝だが、どんどんと始まる何かに、北国ならではの春を感じている。

庭の裏の畑の雪もまだらになった
雪解けの庭に咲く福寿草と鳥


初心忘れず

そもそもなぜ山村留学しようと思ったのか、は旅立ちの記事にも書いた。
あまりに便利すぎる環境におそれを感じ、不便の中で生きるを体験させたかったからというのが大きい。
不便と自然の脅威がある中で生きる体験。

1年を過ごしてみて、その目的は十分に体験できていると思う。

関西の、かなり便利な都会に住んでいたわたしたち。家から3分も歩いたら、コンビニとドラッグストアと飲食店に行くことができた。
住民票はコンビニで取ることができたし、宅配は1日の中で選んだ希望時間帯にきっちりやってきた。
夜にも明々とした街灯が道路を照らし、ふらりとコンビニへ向かう見知らぬだれかにも出会ったりした。

今は車で10分行かないとお店が何もない。
1番最寄りで何かがが買えるのは集落に一つしかない自動販売機で、夏はそれを楽しみに風呂上がりの夜にお金を握りしめて通った。村に飲食店もあるが、16時か17時には営業を終了する。

宅配便は毎日届くが、1日1回しか通らないらしく、時間指定が意味をなさないエリアだ。
届けてくれるだけでありがたく感謝しかない。

一方で、田舎だからこそ便利なところもある。
まず、駐車場が混まない。停められずにぐるぐるする、なんてことは一度もない。役所も混まない。いつでも空いていて、役場に来てる村民いま自分1人、ということもよくあるレベル。なので、窓口で待ったこともなく、いつでも即対応してもらえる。
村のイベントが安くて豪華なのもいい。夏はトラクターにも乗れる収穫体験や寄せ植え講習会、冬はイグルー作りやスノーモービルなど、面白体験が目白押しで、子どもはほぼ無料かお昼代500円だけ、のような値段設定。それなのに、先着20名がずっと埋まらないくらい、申し込めばほぼ必ず参加できる。

何をもって便利というか、それはどういうことを大事にするかで変わるのかも。
忙しい中でいつでもなんでもできるのが便利としたら、それができないから不便かというと、必ずしもそうではないかもと思うようになった。

毎日の生活を余計なストレスなく送れて、ささやかな楽しみを持てること、それも便利だ。

あと1年、不便で便利な村での暮らしを送り、人生を考えてみる。

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