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結果から原因を考えることの罠|安易な説明に要注意

以前、僕が仕事の営業において良い成績を出していたことがあり、うまくいっている原因を教えてほしいと上司から言われていたことがあります。

成績が良かった要因は複雑なもので、顧客が僕の話に信頼を置いてくれたからかもしれないし、僕が話を聞く姿勢を真摯だと感じてくれたからかもしれません。正直なところ僕にはわからないのです。

それでも、上司からは原因を「ファクト」として示してくれ、と言われてしまったので「信頼を置いてくれた」とか「真摯に話を聞いた」といった、ふんわりした情報は求められていませんでした。

なぜかと言うと、その上司は商談の成約率を向上させるためのプロジェクトを担っており、商談マニュアルなるものを作ることを経営陣に命じられていたからです。

そういうわけで、ファクトとして僕が実施していたことを考えたところ、商談の後に顧客に向けて挨拶やその後の様子を伺う連絡を、必ずしていたことを思いつきました。それをファクトとして上司に伝えます。

こうして、そういった商談後に顧客に連絡をするアプローチは「商談後フォロー」と名付けられることとなり、商談の成約率向上の掟として「商談後フォロー」をすることが他の社員にも命じられることとなります。

「成約が高いのは、彼が商談後にフォローをしているからだ」というわけです。

その後「商談後フォロー」は全社員に定着することとなります。報告された記録を見る限りでは、全員必ず「商談後フォロー」を実施していそうです。

しかし、月日が経過していくと「商談後フォロー」は、商談が成約しなかった時に「商談後にフォローはちゃんとしたのですが」と、成約しなかった言い訳として利用されるようになってしまいました。

フォローをしていた当の本人である僕からすると、そんなに単純なことではないだろうと思っています。

もちろん、商談後に関係性を築こうとするアプローチが有効だった可能性はありますが、成約ができた理由は商談後のフォローだけではありません。

僕の上司は経営陣にもっともらしい説明をするために、良い結果から原因を探り、その原因をもとに結果を説明しているのです。

しかし、ここには「フォローをしていなかった場合にも成約していた」可能性が考慮されていません。

フォローしたのは、営業のノウハウがよくわかっていなかった当時の僕が「やれるだけのことをしよう」と必死に行っていたアプローチのうちの一つに過ぎないのです。

このように結果から原因を考えることは、真実を見逃してしまうことに繋がってしまうので(もっともらしい説明をすることが目的でないなら)気を付けた方がよいでしょう。

例えば、タバコを吸うことは発がん性を高めることは知られていますが、だからといって肺がんに罹ったその人の原因がタバコであるとは限りません。

タバコを吸ったことはないが、それでも肺がんに罹ったことがある人を何人も見たことがあります。

にんじんジュースを飲んだらがんが治ったとか、キノコを食べるようにしたらがんが治ったとか、そういった結果から見た事実は、結果から原因を考えていることで起こる錯覚です。

もしかしたらにんじんやキノコが良い影響を与えているのかもしれませんが、にんじんジュースを飲んでいなくても治っていたかもしれない可能性とキノコを食べていなくても治っていたかもしれない可能性を完全に見落としています。

不確実で予想できない出来事が起こった時、その出来事は起こる前には一切予想ができなかったものです。

しかし、事が起こってからはあたかも全てわかったように説明されてしまうことが多くあります。

世の中は複雑に絡まっているので、私たちにわかっていることは大して多くありません。安易に結果から原因を考えて過ちを繰り返すのではなく、起こった出来事を受け入れることの方が大切です。

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