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ほんとうに研究者になっていいのかという葛藤と、自分に合った研究分野を見つけるまで(3)

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MBPhDの合格通知をもらって周りの自分に対する目がガラッと変わったことに気づきました。絶対に受からないだろうと思っていたであろう進路相談の先生からおめでとうのメールが届き、先生方はキャリア志向の優秀な生徒として見ているような幹事でした。友人から色々聞かれることも増えました。私自身は何も変わっていないので、すごく変な気分でした。

夏のインターンでは、肥満症を神経科学、行動学の知見から分析するような実験をやらせてもらいました。内分泌系の分野ではとても有名なラボで、私の実験と同様の実験はネイチャーやサイエンスなど名だたる論文になっていたにもかかわらず、私自身は自分のやっていること、実験手法に納得することができませんでした。先生はよくしてくれて、博士号の生徒にも取ってくれると言ってくださいましたが、限界を感じました。人間相手の実験だとさらに様々な要素のコントロールが難しいことが一番の原因でした。そんな中、隣で遺伝子の解析をされているポスドクがいて、話を聞くうちにその軽量的な側面や、分子レベルのことを解き明かすプロジェクトに徐々に心惹かれていきました。あとは昔からコーディングには興味があったので、コードを駆使して暗号から情報を取り出す彼女の姿はとてもかっこよく映りました。

そんなこんなでインターンも終盤にさしかかり、ラボの先生は博士号に取ってくれると言って下さり、どうしようかと思いました。その頃、MBPhDのコースを取り仕切っている先生は、ラボ選びについて生徒へのアドバイスとしてこうおっしゃいました。「兎に角資金が潤沢にあって、たくさんネイチャー誌などに投稿しているところにしなさい。」私の夏のインターンのラボの名前を聞いて、先生は「(いい論文を出すしお金持ちだし)いいラボだ」「でも、3年間することも考えて、他のラボの話も聞いてみてもいい」というアドバイスをくださいました。

インターンのラボには医師の方がたくさんいらっしゃったので、博士号から今後長期的なことも含めて相談してみることにしました。3人ほどの全て女性の、臨床をしながら研究されている先生方からお話をききました。私の直属のポスドクの先生は、「このラボもいいけど、私は自分の博士号で臨床研究をして、今実はあまり特殊なスキルを身に付けられていないことを後悔しているから、本当にこのラボでやりたいのか考えた方がいいよ」といいました。

後ろに座っていたポスドクの先生はMBPhDをした方で、今しばらくの臨床期間を経て専門を決めたあとその臨床の専門分野の研究をするために研究を始めた方でした。彼女は「MBPhDはしないほうがいい。私はMBPhDをしたことを後悔している」といいました。その理由は第一に、将来選択する専門と違う分野の研究をしてしまうとその専門に志願するときに有利にならないこと、第二にしばらく研究から遠ざかってしまうと研究の技術は急速に進歩するので再び研究に戻ってきた時にそれが時代遅れで何の役にも立たなくなっていることでした。

もう一人のポスドクの先生は「このラボで働くのはよく考えてからにした方がいい。ボスは人を選ぶタイプで、結果を重視するので、合う人には合うけれども潰れてやめてしまった博士号の生徒がいる」とおっしゃいました。

結果的に私はそのラボで博士号をしないことにしました。理由は、学生である最後の期間の博士号の間に、身に付けるのが難しい新しいスキルを取得したいと思ったからでした。夏の経験から、漠然とコンピューターができるようになりたいと思っていました。大きなラボだったので勿論そういった側面のあるプロジェクトにも参加できると言ってくださいましたが、解析は私の隣に座っているポスドクひとりにほぼ任されていたのを知っていたので、効率を重視すればその人に頼むことになってしまいそうだったし、自分にやらせてもらえて、そのためにもっとドライのサポートのある研究室の方がいいと思ったからでした。ただ、コンピューターで何ができるようになりたいかは全くわかっていませんでした。むしろ何ができるのかも分からないような状態から離脱したいといった段階でした。もうひとつの理由は、臨床でそのラボの分野には進まないだろうな、となんとなく思っていたからでした。でも、じゃあどの分野、というのもはっきりは決まっていませんでした。

斯くしてまったく手探りの状態から研究室探しが始まりました。


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