殺人出産 村田沙耶香

殺人出産

やばい、やばすぎる、村田沙耶香で一番好きな作品。
元々価値観の壊れた世界を作るのが得意な作家。壊れたは違う。私たちとは違う価値観の世界を作るのが得意な作家だ。
今回はその世界へと引き摺り込むのが上手かった。
作品は産み人の妹が主人公で進んでいく。
10人産んだら1人殺していい世界。
なんて残酷でシステムちっくになってしまった世界だろうと思った。無差別に殺す人を選べるのも理不尽。そして殺す権利が全員にあるのも恐ろしいと思った。
もしかしたら隣の席の子がふとした時に、、生きていくのに更に息苦しくなりそうだと、今のスマホによるカメラがある世界よりきついな、、、と考えていた。それが間違い、後半の一行で僕の価値観がひっくり返った。

こんな残酷な世界がですか。突然死を宣告される「死に人」や、その遺族の悲しみを想像したことがおありですか?」
「突然殺人が起こるという意味では、世界は昔から変わっていませんよ。より合理的になっただけです。」

その通りなのだ。ただ殺人に対して世界が優しくなっただけなのだ。

突然殺されることは何も変わっていない。逆に殺す条件がでてやりにくくなっているのだ。裁判で殺人が起きても服役すればいい人におかしいと思った事がある。この世界なら僕はもしかしたら納得してしまうかも知れない。命がけで10人産むので許す世界に。
足元が揺らいだ気がした。

そしてその後主人公の妹に質問者は諭される。

「あなたが信じる世界を信じたいなら、あなたが信じない世界を信じている人間を許すしかないわ」

「昔の世界も今の世界も、遠く感じます。大きな時の中で世界はグラデーションしていて、対極に思えても2つの色彩は繋がってる。
だから、今、立っている世界の「正常」が一瞬の蜃気楼に感じるんです。」

実は主人公は読者目線かと思いきやもうこの価値観との苦しみから乗り越えた人物だったのだ。

混乱していく、自分の目線だと思ってた人が実はもう飲み込んでいた人だった。じゃあ私は?今、納得している?この質問者は?まだ飲み込めないのか、苦しむのか

かわいそう

この本は村田沙耶香の真骨頂が出ていて作者1の傑作だ。

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