涙には味がある
漫画を読んでいた。
寝転がって。
涙が私の頬を伝う。
いや、頬を伝ってはいない。
寝転がっていたので、目尻から耳へと落ちていったが正しい。
そこに愛犬ポッキーがやってきた。
私の涙をペロリと舐める。
雨上がりの水たまりや浴室の洗い終わった水をしきりに舐めたがる水分マスターのポッキーである。
感動の涙はさぞかしうまいのだろうと私は思った。
顔をべろべろと舐められてしまうなあ、と心のどこかで考えた。
しかし、ポッキーは私の涙をひと舐めすると、ぷいとそっぽを向いてどこかへ行ってしまった。
なるほど、しょっぱかったんだな。
涙は海の味なのだ。私の体内を占める水分は約55%。海は地球の70%。15%ほどの差はあるが、海は生命の源であるように、きっと私の体内の水分も海のように塩辛いに違いない、と思った。
いや、そんなわけはない。
体内の水分が塩水なわけがない。
けれど、涙はしょっぱいという印象が私にはある。
それに頬を伝い、口まで到達する時、涙はしょっぱい。
私は経験として涙はしょっぱいと知っている。
果たして、本当に涙はしょっぱいのだろうか。
しょっぱい。確かにしょっぱいらしい。
私はアキュビューを信じる。
バイオフィ二ティユーザーだが、アキュビューを信じる。
しかし、こんな説がある。
悔し涙はしょっぱくて、感動の涙はそれより甘い。
そんな話もあるらしい。
今回私が流した涙は悔し涙ではなかった。
リラックスした状態で流した涙であり、副交感神経優位の状態であったはずだ。多分、悔しい時に流す涙よりしょっぱくはない、はずだ。
私はその時、自分の涙を舐めとるべきだったと反省をした。味見すべきだったのだ。自分の涙を。
だって人の涙は味見ができない。
そもそも泣いている人に「ちょっと味見させてもらえませんか?」なんて声をかけることはできないし、夫の涙を味見させてもらおうにも、夫はそもそも泣かない。
ワンチャンあるとすれば、息子達が泣いている時であろう。父親に怒られて泣いている息子にすすすと寄っていき、息子の涙をさっと私の右手で拭う。左手で慰めるように息子の頭を撫でて、その隙に右手についた涙をぺろりと舐めればなんとか味見はできるかもしれないが……キモイ。変態みがやばいので、やめておいた方がいい気がする。せめて涙を味見するのであれば、自分のだけにしておこう。
そんな誓いを新たにした私の頭に一つの疑問が沸いた。いや、湧いた。
そもそも犬の味覚はどうなっているのだろうか。基本的に塩味のついたものは食べさせないようにしているし、餌なども塩味はついていない気がする。もしかすると、ポッキーは涙に甘みを感じなかったわけではなく、塩味が苦手なのかもしれない、という仮説を私は立てた。
なるほど。ポッキーは涙がしょっぱくてあまり好きじゃなかった説が有効なような気がしてきた。
きっとポッキーは私の涙に多少の塩味を感じ、それ以上舐めることができなかったのかもしれない。命の危険があると感じた可能性もある。
決して私の涙が薄汚れていたわけでも、毒物を体内から排出する化け物かもしれないと思われたわけではないことを祈りたい。
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