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一点を見つめる女性の目線の先

バス停に女性が一人佇んでいた。

私は自転車を漕ぎならが、反対側の道路にいる女性を一瞥する。どうにも哀愁が漂っていて、私は視線を逸らすことができないでいた。

六十代くらいの女性だろうか。髪はショートカットで、少し疲れているような表情が見てとれた。春はなんだか疲れるよね、と私は心の中で一点を見つめる彼女に声をかける。

新年度が始まり、慌ただしいと感じることが多い。

特別に忙しいと言うわけではないが、なんだか慌ただしい。気候は暖かかったり寒かったりと、自律神経が崩れやすい時期でもある。

周囲でもなんだか調子が悪そうだったり、メンタルが不安定な人もいて、多少なりとも影響を受けてしまう自分がいる。

しかし、彼女は何を見つめているのだろうか。
いや、何も見つめてはいないのかもしれない。

私は想像してみる。その視線の先を。

※以下は全て私の妄想です。
なお、自転車を漕ぎながら妄想することは危険ですので、推奨しておりません。

彼女の目の前には一つの飴玉が落ちていた。

赤い飴玉だった。どこに巣穴があるのかもわからない蟻たちが、その飴玉を運ぼうとしていることに彼女は気がついた。

そもそも、飴玉はなぜここに落ちているのだろうか、と彼女は疑問に思った。
袋に入っていない飴玉である。飴玉は基本、個包装されたおやつである。

飴玉が落ちている理由として、可能性があるのは以下の五点だと彼女は考えた。


① 誰かが個包装された飴ちゃんを包み紙から出した瞬間に、落としてしまった。

② 口の中で飴玉を転がしている時に、背後から現れた知人に驚かされて吐き出してしまった。ちなみに飴玉を舐めていたのは近所の高校に通う男子高生で、背後から現れた知人は彼が恋心を抱く女子高生だった。彼は吐き出した飴玉を彼女に見られることがなんだか恥ずかしくなり、飴玉を足蹴にした。コロコロと転がった飴玉は、バス停の前の道路付近まで転がったが、彼にそんなことは関係ない。すぐさま女子高生に「何するんだよ〜」と声をかける。これほどまでに心ウキウキする春が来るとは、昨年の受験期には想像だにしなかったことだ。高校受験頑張ってよかったな、少年。

③ 老人が久しぶりに飴玉を舐めた。最近、舌の筋肉が衰えているらしく、飴玉がつるりと喉の奥に落ちていった。「やべえ、オラ死ぬ」と思った老人は、なんとかこの危機を乗り越えなければと渾身の力を込めて、そして気合いで食道を動かした。カハっと吐き出された飴玉は老人との別れを惜しむことなく、にべもなく転がっていった。

④ 神様が雨と飴を間違って落とした飴玉。貴重な品。

⑤ お目目がくりくりとした天使のような女の子が、「ママ、アメたべたいみたい」と横にいたお目目がぱっちりとしたおしゃれなお母さんに声をかけた。「まだアメは食べれないわよ。喉に詰まらせると大変だからね」とお母さんは女の子を優しくいなした。女の子は「ワタシがたべるんじゃないの。ありさんがたべるの」とアリの行列を指差して言った。「あら、可愛いこと言うじゃない。さすが私の子」とお母さんはカバンからアメちゃんを取り出して、女の子にあげた。女の子は両手をあげて喜ぶと、お母さんから飴玉を受け取った。そして、そのまま飴玉をパクりと口に入れた。「ママ、だまされてやんの」と女の子はしたり顔で、飴玉を口の中で転がした。騙されてイラッとしたお母さんは、「出しなさい」と女の子の背中を軽くパチンと叩いた。女の子は勢いよく飴玉を口から吐き出した。そして女の子は転がる飴玉に向かって小さく舌打ちをした。「ち、次からは別の手を考えないと」と。


さて、どれが正解だろうか。
果たしてあの飴玉はどのようにしてあの場にやってきたのだろうか。そこがどうしても気になるのだ、と一点を見つめる彼女は真剣に考えている。



なんのはなしですか。





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