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聖書や神話を知らんと理解できんアートが多いのでエピソード別にまとめてみる(旧約聖書篇2) 〜創世記「天地創造」(アダム誕生以前)

1000日チャレンジ」でアートを学んでいるのだけど、いわゆる芸術って、旧約聖書や新約聖書、ギリシャ神話などをちゃんと知らないとよく理解できないもの多すぎません? オマージュなんかも含めて。ついでに小説や映画なんかも含めて。
それじゃ人生つまらないので、アートをもっと楽しむためにも聖書や神話を最低限かつ表層的でいいから知っときたい、という思いが強くなり、代表的なエピソードとそれについてのアートを整理していこうかと。
聖書や神話を網羅したり解釈したりするつもりは毛頭なく、西洋人には常識っぽいあたりを押さえるだけの連載です。あぁこの際私も知っときたいな、という方はおつきあいください。
まずは旧約聖書から始めます。旧約・新約聖書のあと、ギリシャ神話。もしかしたら仏教も。
なお、このシリーズのログはこちらにまとめていきます。


ということで、「その2」は旧約聖書のド頭「天地創造」から(その1はこちら)。

いろいろな本を読み比べると、天地創造みたいなわりとシンプルな場面でもいろいろな解釈があって(たとえば「我々にかたどり、我々に似せて、人を造ろう」という神の言葉の「我々」とは誰なのか、唯一神ではないのか論争)、いろいろ地雷を踏みそうだw

でもまぁド素人が絵を見ながら感じるままにエピソードの表層を知っていくのがこのシリーズの狙いなので、細かいことはさらっと通り過ぎることにする。


天地創造は創世記第一章に書かれている。

神は6日間で世界を創り、7日目に休んだ。
ちなみに、この1日は24時間と考えるべきではなく、神の尺度での1日、という説も多いらしい。そりゃそうだ。24時間じゃ無理

4日目までは自然環境整備。
5日目6日目で一気に魚・鳥・動物と人間を造っている。

おもろいなぁ、と思うのは、地の生き物(動物や人間)よりも、魚と鳥が優先され、5日目をフルに使っていること。

考え方としては、魚と鳥までが自然環境整備なのかもしれない。
なぜなら「繁殖」を命じてる。
繁殖に時間がかかるから5日目をフルに使ったということかと思う。

つまり、魚や鳥は「地の生き物と人間の食べ物」として先に造って、多くを用意した、ということなのかもなぁ、と思った。

だいたい、先に動物や人間を造って、後から魚や鳥を造ると、造った端から食べられちゃって繁殖できないかもしれないしね。


1日目 光と闇を分け、昼と夜を呼んだ。
2日目 大空と水を分け、大空を天と呼んだ。
3日目 地と海を造り、植物を芽生えさせた。
4日目 太陽と月、星を造り、昼と夜を治めさせた。
5日目 魚と鳥を造り、繁殖を命じた。
6日目 地の生き物を造り、土のちりから人を創造した。

7日目 天地万物が完成し、自分の仕事に満足し、休息をとった。



人間(アダム)を造るあたりから急にアート作品が増えるので、今日は「アダム誕生以前」に絞る。

この辺の出来事を「解説」した一連の絵画の中で、一番好きなのはミケランジェロのこれ。『太陽と月、植物の創造』

有名なシスティーナ礼拝堂天井絵の一部である(クリックすると大きくなります)。

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どこが好きって、「なんでお尻丸出しなんだ !?」ってとこw

※  いやいや、よく見たら薄いピンクのベールが羽織られているので丸出しではないのでは?というご指摘をいただきました。あ、そうか、これ服なのか。。。白いお尻にしか見えなかったw
でも、このまま話を進めます。


というか、左の人、誰?って思うよね。

これも異説があるけど、同じ画面に同じ神が出ているとみるのが妥当だと思う。髪も服も一緒だし。

つまり、神が太陽(神の右手)と月(神の左手)を造ったあと(原典では「創った」ではなく「造った」らしい)、左に移動して植物を造っている。それが同画面上で描かれている、ということ。

いや、逆か?
3日目に植物を創って、4日目に太陽と月を創っているから、左の「お尻丸出し」が先で、そのあと、グリッと振り返って怒った顔して太陽と月を創ったってことか。

いやいや、実は順番どうでもよくて(なぜならシスティーナ礼拝堂の天井絵はこのあと前日に終えたはずの『大地と水の分離』の場面が来る)、ミケランジェロは、天井全体の絵や色のバランスを見て、あえてここに植物創造の場面を持ってきた、ということかもしれないな。



それにしても、なんでわざわざお尻見せてるんだw

このふたつ横にある有名な『アダムの創造』の絵を見てわかる通り、神はピンク色のワンピースみたいのを着ている。

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裾は長そうなんだけど、なぜこの絵ではマヌケにお尻見せてるんだろう。

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ミケランジェロがわざわざこう描くからには、何かしらの意図があると思うのだけど、いまのところどの本にも解は書いていない。

ボクは、もしかしたらスピード感を出そうとしたのかな、とも思う。
神はすごい勢いで飛び回っているのだ。
マンガで使う「スピード線」が発明されていないころのことだから、布の動きでスピード感を出すしか方法がなかったのかも。

で、左右を飛び回る速度がすごすぎて、お尻までめくれ上がった、ということなのかも。

※ お尻丸出しじゃないなら、この説は意味ありませんねw


あと、この神のお付きの者たちは誰だ?
神の横にいるということは天使か?
でも天使にしてはしょぼい。

奥のお付きは出来たての太陽を見て「ま、まぶしい」って言っている様がしょぼいし(顔も悲惨だ)、手前のお付きは「主よ、さすがです」とゴマをすっているコスイ奴のように見える。だいたい天使にしては顔が意地悪というか、みんな悪人面だ。

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というか、神、怒ってるよね
威厳とも取れるけど、上の『アダムの創造』での神の柔和な表情に比べても、他の神の登場場面と比べても、えらく怒ってる。

しかもお尻丸出し。

なんだろうなぁ、この絵。すごい好きw
わりと飽きずに見てられる。



ちなみに、システィーナ礼拝堂の天井絵をもう少し見てみる。

ミケランジェロ、これを上向きに描いたの、ホント重労働だったろうなぁ。
首痛いし、腕もぷるぷるしたはず。しかもすぐ乾いちゃうフレスコ画だ。

ええと、どこに何が描いてあるかを順に見ると、

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1. 光と闇の分離
2. 太陽と月、植物の創造
3. 水の分離
4. アダムの創造
5. エバの創造
6. 原罪と楽園追放
7. ノアの燔祭
8. 大洪水
9. ノアの泥酔

つまり、上の「お尻丸出し」の絵は2番だ。
一番有名な『アダムの創造』(映画『E.T.』のモチーフになった例の指を近づけてるヤツ)は4番。


ついでなので、もう少し紹介すると、上の絵の「1」はコレ。『光と闇の分離』

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神の左手のあたりが「光」で、右手から下が「闇」かな。
(神の顔がわかりにくいけど、これ、顔を上に上げ、あごひげを見せている。

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ちなみに、神から見て右下にいる男性は、イケメンとしてこの天井絵の中の一番人気で、イタリアの切手にもなったことがあるそうだ。

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このイケメンの右肘下にたくさんある不思議な物体を「亀頭」と見る説もある。この辺を解説した本などはまだ探し中。わかり次第追記します。


アダム誕生前のもうひとつの絵『大地と水の分離』はこれ。
上でいうと「3」だ。

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上で書いたように、『太陽と月、植物の分離』のあとにくるのは順番的におかしい。

でも、『アダムの創造』の隣にあるとちょっと天井絵全体のバランスが崩れる気がするのは確か。

というか、システィーナ礼拝堂の天井をよくよく見ると(上の方の全体絵をクリックして拡大してみてください)、ひとつおきに天井構造(もしくは装飾)としての梁みたいのが四角く出ちゃっている

その部分には、大きな絵を描けないから、四隅に人間を配して、『光と闇の分離』や『大地と水の分離』みたいな劇的にしにくい絵を小さく入れた、ということかもしれない。

たぶんミケランジェロはそうやって全体のバランスをとったんじゃないかな。知らんけど。



さて、ミケランジェロ以外のも見てみたい。

これはヒエロニムス・ボスの『快楽の園』の扉絵。
あの、有名な奇っ怪かつ奇妙きてれつな絵の裏側だ。

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これも諸説あるみたいだけど、絵の左上に小さくいるのが「神」で、「天地創造」の3日目(陸と海の分離)を描いているというのが有力っぽい。

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・・・こう見ると、神は孤独だな。
   宇宙にひとりぼっちだ。

というか、神は「老人で、白髪かつヒゲが長く、裾の長いワンピみたいのを着てる」というのが世間の定説だったのだな。


下の絵も、老人で白髪でヒゲが長く、裾の長いワンピみたいのを着てる。

ティントレット『動物の創造』
5日目と6日目。人間以外の動物を造ったのを全部入りで描いている感じ。

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この絵、出てくる動物は、鳥と魚以外の種類が少ない。
ウサギ、鹿、馬、ハリネズミ、犬?、スカンク?、トカゲ、くらいしか見えない。

んー、この時代、アフリカ大陸にいた動物群はまだあまり知られていなかったのかな・・・

と思ったら、あのラファエロはサバンナみたいのを描いている
動物いっぱい知られてるじゃん!

ラファエロ「動物の創造」

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ちゃんとライオンもキリンも象も猿もいる。なんならユニコーンっぽいのまでいる

ちなみに、有名なピーテル・ブリューゲルの孫、ヤン・ブリューゲル(子)も同じ題材で描いてる。
この絵の奥の方ではアダムの誕生と思える光が見える。まぁ同じ6日目だし。

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ヤン・ブリューゲル(子)は、太陽と月、大地と植物の創造も描いてる。
ミケランジェロの「オラオラ」な怒ってる神に比べると、なんかとっても優しく、愛に満ちた創造ではある。

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でも・・・線が細すぎるね。
威厳がない。なんか崇拝できない。

これに比べると、ミケランジェロの神はやっぱ「崇拝できる」感じは強いなぁ。ドーーン!

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ちょっと変わったところも。

これは、ウィリアム・ブレイク『日の老いたる者』
イギリスでは大人気の絵画だ。

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これは神がコンパスを手に天地創造している様を描いているようにも見えるが、ブレイク独特の神秘思想によると、この男の名はユリゼンといい、「人間の創造主であり、天から遣わされ見間違われた悪魔」とのこと。

この辺、いろいろ調べてるんだけど、よくわからない。
ブレイクって「幻視」の人で、言ってることが独特でよくわからん。もうちょっとわかったら追記します。


ちなみに、下のは13世紀にフランスで作られた「道徳聖書」の挿絵の「天地創造」の場面。
やっぱコンパスで正確に造ろうとしている。

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でも、これ、ダメだと思うんだよね。
完全に頭の光輪に「ラテン十字(つまり十字架)」が見える。つまりこれ、イエスになっちゃってる。

まぁキリスト教を広めるための「道徳聖書」だったのだろうから、イエスに寄せたんだろうけど(三位一体だから間違ってはいないのだろう)、神は神として、イエスとは分離して描いてほしかったな。


ロシアの巨匠イヴァン・アイヴァゾフスキー
リアリティある絵で有名な海洋画家なのだけど、「天地創造」と題する絵を描いている。この抽象的に描かれた光・・・この格好は・・・こりゃ神か。そうか神だ。なるほどー。こう描いたか!な、一品。

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最後に、天地創造としてはわりとよく取り上げられる天井絵を載せて終わることにする。

ヴェネチアはサン・マルコ大聖堂の天井絵
ヴェネチアに行ったことある人は一回は見たことがあると思う。

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この写真で言うと、内側の円のだいたい9時くらいのところに鳩が飛んでる。これが第一日目と言われている。

そこから反時計回りに物語が進み、外円に向かうらしい。

よくよく見るとなかなか面白い。
内円で植物まで造って、外円は魚や鳥、動物が造られ、アダムが創造されている。天使の増殖も面白い。

ただ、これも頭の光輪が十字架だよなぁ・・・w


ということで、思いのほか長くなった。

次回からはもうちょいエピソードを細分化しないと厳しいかもしれない。

まぁゆっくり書いていきます。
次回は「アダムとイブ(エバ)」をやります。



このシリーズのログはこちらにまとめてあります。

※※
間違いなどのご指摘は歓迎ですが、聖書についての解釈の議論をするつもりはありません。あくまでも「アートを楽しむために聖書の表層を知っていく」のが目的なので、すいません。

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この記事で参考・参照しているのは、『ビジュアル図解 聖書と名画』『イラストで読む旧約聖書の物語と絵画』『キリスト教と聖書でたどる世界の名画』『聖書―Color Bible』『巨匠が描いた聖書』『旧約聖書を美術で読む』『新約聖書を美術で読む』『名画でたどる聖人たち』『アート・バイブル』『アート・バイブル2』『聖書物語 旧約篇』『聖書物語 新約篇』『絵画で読む聖書』『中野京子と読み解く名画の謎 旧約・新約聖書篇』 『西洋・日本美術史の基本』『続 西洋・日本美術史の基本』、そしてネット上のいろいろな記事です。




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