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青果流通を伝え、消費者と共に循環型消費を目指す 今、一番「語り合いたい八百屋」

宣伝会議 編集・ライター養成講座46期 卒業制作優秀賞 受賞
この文章は受賞作品を一部修正、追記したものです。


「インタビュー来られる前に学生の子が話を聞きたいって来てはったのですよ」
学生のみならず、食への感度が高い消費者などが、青果流通や食品ロスについて「相談してみよう。」「近藤さんなら分かるかもしれない。」と、京都市下京区の小さな八百屋に集まる。

「青果流通のことを伝えたい人は、いっぱいいるけど、実現するための手段をお持ちじゃないし、場がない。だからこそ、今まで伝えたいが伝える術がなかった大人たちと、これから未来を作っていって、若者たちを繋げる場所を育てたい。」とその店の店主、西喜商店の近藤貴馬さんは話す。

この記事の主役
西喜商店 4代目店主 近藤貴馬さん



店舗はBtoBの仕事の発信基地

京都駅から電車で二駅。丹波口駅を降りて徒歩5分ほどの場所に店を構える。創業は大正後期、現在の店主 近藤貴馬さんは四代目。ご両親とフルタイムのメンバー1人の4人で営業されている。主な仕入れ先は、京都市中央市場。売上比率は、京都市内の飲食店や大型施設への納品が8割、残り2割が店舗販売だ。
 
「店舗はアンテナショップ。お客さんと交流をして、リアルで品揃えをアピールするとともに、 ウェブで情報発信して、B to Bの方で売り上げを作っていくっていう考えでやっていて。」と近藤さん。
西喜商店は、創業当初、店舗販売が主だったが父親の代で店舗は閉店。JRA栗東トレーニング・センター専門の卸となった。当時、東京に住み、大手エンタメ会社で仕事をしていた近藤さんは、Uターンで地元へ戻り、家業を継ぐことを決意。その時に作った事業計画の一環で店舗機能を復活させた。

店頭には胡瓜やキャベツ、人参といった一般的な野菜から、スーパーには並ばないような特殊な野菜まで数多く揃える。主な取引先である飲食店の注文品と同時に仕入れるため、料理人お墨付きの高品質な青果物をお値打ちで手にいれることができる人気店だ。

店を継いで、8年が経つ。先代の父親からは顧客を引き継がなかった。ホームページを作り、ブログ、SNSの発信も欠かさず行なってきた。次第に、存在を見つけてもらえるようになり、一度もプッシュ営業をかけずにリード顧客の獲得に成功。以降、地道に販路を広げてきた。



市場の食品ロス問題

八百屋を継いで現在までの8年間、青果流通のリアルを間近で見てきた。しかし、青果流通の実態や市場の存在が社会で知られていないことに、近藤さんは危機感を抱いていた。
その中でも特に問題として挙げているのが、需要と供給のギャップで青果市場に滞留する買い手がいない野菜や果物についてだ。

そもそもこの現象は、天候による生育状況や産地リレーの不良、人為的ミスなどが原因される。それにより予定数よりも多く市場に入荷し、供給過多が起こっている状態を指す。(卸売市場法の規定により、産地から市場へ入荷した商品は受け取り拒否をすることができない)このような時は、場内に出入りしている小売へ「追っ付け」「付ける」と呼ばれる商慣習※のもと、発注量より多く買ってもらう。これで売り手が見つからない場合は廃棄となる。だが小売機能がない業者は、お客さんの発注数ちょうどでしか仕入れができない。もし「付け」を引き受けることができても、よっぽどのことがない限り、売り捌けない。  
つまり、場内に出入りする全ての業者が「付け」を受け入れられるわけではないのだ。そのため、比較的販売に自由が利きやすい、西喜商店といった小規模小売店が中心となり「付け」を受け入れることとなる。

※「追っ付け」「付ける」
発注数よりも多く納品、伝票計上をすることを指す業界用語。基本は売り手買い手の両者が同意した上で行われる。買い手は必要以上の商品を仕入れることになるため、困った時にお願いができる関係性を互いに、日々構築していくことが重要となる。

「店があったら『もうちょっと並べといてや、お客さんにちょっと聞いてよ』みたいな感じになるから、それで余ったものが来る。」と近藤さん。続けて、「小売を復活させていなかったら、流通におけるロスの問題について気づくのが、もっと遅かったかもしれないです。小売店舗があるので、市場のおっちゃんが父親経由で持ってきたことがきっかけで気付いた」と話す。
一度流通に乗った以上なんとか消費してもらうようにお願いするのが八百屋の仕事という信念のもと、積極的に「付け」に応じ、場内の食品ロスへ貢献をしてきた。
「付け」で仕入れた野菜は、「レスキューチャレンジ」と名付け、随時発信。その日のうちに店舗で売り切ることがほとんど。事前に注文をすれば、詰め合わせBOXとして通販で取り寄せることも可能だ。

筆者が通販で注文した「覚悟の食品ロス削減野菜ボックス」
公式サイトから注文可能。ヤマトのクール便で最短日で届く。
特大青なす、にんにく、レタス、アスパラガス、じゃがいも、ルッコラなど。
計13品 ¥2,160(別途送料)(出荷日によって内容変動あり)

それらとは逆に需要過多が発生することもある。原因は供給過多の時と同じである。品薄、価格の高騰が起こるが、あの手この手を使い、各業者は商品をかき集める。しかし、西喜商店のように飲食店向けに納品する業者は、市場にないと分かっていても、なんとかして探し出さなければならない。
例えば、決められたメニューで使用している胡瓜が大雨で高騰品薄。しかしメニューは変更できないため、どうしても胡瓜が必要。
一本¥200の高値であっても、かき集めなければならない。このような状況は日常茶飯事であり、季節の変わり目“端境期“では特に起こりやすい。また、異なる商品で供給過多、需要過多が同時に発生することもあり、需要と供給のアンバランスさに関係者は頭を悩ませる。
しかしこの状況は当たり前という認識のため、問題は放置されたままだ。卸売市場法の改正や業界の改編で大きく変わる可能性があったとしても、すぐに変わることは難しい。


https://nishikisyouten.com/news/naimononedari/

そのことについて近藤さんは、「今ある状態をずっと同じ仕組みでずっとやっていても本質的な解決にはならない。今あるものを循環させるためには、消費者から変わる必要がある。消費者が求めるから、みんな消費者に合わせてしまう。そのために新しい消費循環の仕組みは作らないとダメだなって思っていて。」
「でも、消費者が欲しいものを選び求めていく行為がダメだとは思わない。あくまでも偏りなく両輪で向き合っていきたい。」
「将来的には、ないものねだりではなくて、あるもの探しの消費社会、循環型流通が実現できたら理想」だと語る。


青果流通で仕事をする人は必読の漫画「八百森のエリー」など、
近藤さんの興味関心が凝縮されたような本棚


八百屋としての実践と企画の場
『コミュニティーキッチン』

八百屋業と並行して、株式会社Q'sを設立。京都 河原町御池にあるQUESTION内コミュニティーキッチン「DAIDOKORO」に役員として参画している。

「ないものねだりではなく、あるもの探しの消費社会」を実現するために、これまで発信されてこなかかったような、青果流通や一次産業の情報を伝え、交流の場にしたいと数多くの企てをこの場所で行なってきた。実際に農家を呼び、生産されている野菜を使ってみんなで“農家メシ”といった、なかなか実践できないイベントを、日常的に開催している。

「流通の現状、課題、社会との繋がりとかって、今までほぼなかったわけじゃないですか。いろんな人が交流できる、その食の情報発信拠点みたいなものに八百屋が関わっていることが非常に価値だと思う」と近藤さん。

市場は行政が広報活動を行うことが一般的だ。しかし、展示のみの資料館や安く生鮮食品が購入できる一般開放日が主な活動であり、どうしても一方通行な発信となってしまう。
非常に複雑な業界のため、内部の仕事や青果流通が抱える事情などは、有識者でないと理解が難しいため発信がしにくい。市場運営を行う卸売業者や仲卸の発信も増えてきたが、本質的な流通の話は消費者に届きづらい。そのため、市場に集まる人たちのコミュニティーも広がらず、存在を知るコアな関係者があつまる閉鎖的な業界となってしまった。そこに風穴を開ける唯一の場所がこのコミュニティーキッチンだ。


「八百屋としての発信は、食への意識が高い人しか伝わらない。しかしここには10代20代の若者も来てくれる。彼らの世代は循環型消費みたいなことが当たり前に染みついている。でも、青果流通のことや一次産業のことは、まだ知識として知らない。ここに農家とか漁師とかを招いて会うだけでも、価値があるし、そこにちゃんと流通の知識とかをつけていけば、 5年後、10年後の消費の形って変わっていくんじゃないかなと思って。」
「日々リアルな消費者と向き合って、そこでの実践、経験をコミュニティーキッチンに持ち帰り、集まった人たちと循環型消費を考えていく。この現実と理想の両輪をしていきたい」と話す。


地域で泥臭く生きる、働く、仕事を作ること

 古い業界内で新しい形の八百屋を目指す西喜商店。これまでの人生の決定を裏付け、大きな影響を受けた原体験があると近藤さんいう。

 学生時代、地域づくりボランティアの派遣を行うNPO法人bankup(当時はNPO法人学生人材バンク) 中川玄洋さん(以下玄洋さん)と鳥取県智頭町の農村イベントを企画する機会があった。学生なりにできる田舎での夏祭りを企画した。地域の方が企画会議の時間を設けてくださり、計画は順調に進んだ。そこで近藤さんは、一生忘れない出来事を目にする。

「企画会議が終わったあと、窓の外から、怒鳴り声が聞こえてきて。何かなと思って見たら、僕らと話してくれていたおっちゃんと、その上のおじいちゃんと喧嘩しているんですよ。」

よその地域から来た若者が何かやろうとしていることに対し大変お怒りになり、口論になっていたという。その仲裁に入ったのが玄洋さんだった。そのことは特に玄洋さんからは何も明かされぬまま、イベントは開催され、無事大盛況となった。
「あの時怒っていたおじいちゃんが、終了後僕らのところへ握手しに来て。『ほんまにありがとう』言うて。めっちゃ喜んでくれて。すごく嬉しかった。よう、思い出したら、あの時玄洋さんが収めてなかったら こういうことにはなってないし、多分この握手に至るまでに、絶対なんか言ってくれたと思って。そこで玄洋さんの存在に感動してしまって。」

この原体験を通して、地域で泥臭く生きる、働く、仕事を作ることのすごさを目の当たりにした。当時は地域活性化のようなことが仕事になるというイメージが社会的にもなかった。しかし、八百屋を継ごうと決めた時、この原体験がキッカケとなった。

現在、青果業界は斜陽産業と言われ、全国的にも倒産が相次ぐ。時代に合わせた淘汰ではあるが、生き残った企業も変化し続けていかなければ、業界全体の企業価値が底上がらない。さらには、古い慣習、高齢化、進まないDX、若手不足などが相まり、益々厳しい状態だ。

今ある枠組みと環境の中で、自分は何が出来るか。

地域で泥臭く生きる、働く、仕事を作る
持続可能な青果流通の実現のため、今日も近藤さんは人々と語り、未来を見つめる。




取材協力:西喜商店、青果流通に詳しい有識者のお二人
事前取材で訪れたところ:京の食文化ミュージアムあじわい館

書いて撮った人:さとうあやか
普段は業務用青果卸のCS。青果流通当事者。
新規事業よりも、既存の仕組みを知り、広めたいという思いから、4年前に業界へ飛び込む。競り人試験が受けられる年次を迎えたため、受講を機に、念願の執筆に至った。



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