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息子の自炊に鹿が出てくる(鹿が出ない編)

息子の自炊の様子が面白いので書こうと思う。

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昨年、大学入学と同時に一人暮らしを始めた息子。それから約1年半が経った。ときどき耳にする自炊の話が不思議な感じになってきたのでご紹介したい。

息子の自炊物語の肝として「鹿」が出てくるのでこのタイトルにしたが、鹿が出てくるくだりまでが長くなってしまったのでひとまず鹿の前で区切ることにしたらおかしなタイトルになってしまいました。ごめん。ちなみにタイトル画像のおいしそうなやつは「ロースト鹿」です。

この記事は大学1回生の自炊生活1年間の記録、とお考え下さい。

遠方のため電話及びlineによる取材を試みた。
※文中では息子の名前をJ男(自炊なので)とします。


3月末 一人暮らし開始


自炊の心意気
「はじめから、自炊はしっかりやろうと思ってた」

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▲姉と寿司を取り合うJ男。すでに自炊への意気込み十分。

食いしん坊で、入園前に牛乳の飲みすぎから「カルシウム過剰摂取」と医師に注意された経験のあるJ男。
18歳になり筋肉も付き、自炊に対する意欲は十分だった。

ちなみに親からの仕送りは月々10万円。その中で家賃・光熱費・食費もろもろまかなうように決めた。筆者がパートで毎月10万稼いではJ男に仕送りするといういたちごっこ(?)が始まった。

自炊初日

引っ越したその晩。

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▲夜9時22分、空の惣菜パック。食後の画像しかないことから青年の空腹がしのばれる。「スーパーのちらし寿司は冷たかった」とJ男は語る。

J男「入居してからわかったんだけど、キッチンにコンロがついてなくてしばらく煮炊きできなかった」

大学は地方にあり、合否発表から入学式まで時間がなかったので、現地に足を運ばず大学生協の情報だけで住む家を決めた。自炊への意気込みをのぞかせていたJ男は「コンロはガスの二口(ふたくち)がいい」と主張し希望通りの物件を選んだが、実際は二口コンロが入る大きさのキッチンというだけでコンロは持ち込みだった。
というわけで意欲は十分だったが自炊初日のメニューは、炊いたご飯とスーパーで買ってきたちらし寿司となった。

珍妙なメニュー・・・これがリアルだから!

ガスコンロはなかったが、入居と同時に長期レンタルの家具&家電が到着するように手配したので炊飯器と机はあった。しばらくは白飯と出来合いのお惣菜で過ごした。

J男「自炊初期は白ごはんドットコムを参考にすることが多かった」

白ごはんドットコム。基本の丁寧な食事のレシピを丁寧に解説してくれる丁寧なサイトだ。(正式名称は白ごはん.com)

息子が18にもなって米の炊き方すらわからず、白ごはんドットコムにお世話になる━。
親として米の炊き方も教えていなかった自分の怠惰を恥じ入り感謝しよう。
白ごはんドットコム、ありがとう。

甘味に支えられる

J男「やっぱり実家を離れて初めての一人暮らしで心細いし、まだ友だちもいないから精神的にも実質的にも孤独で辛かった」

そんなときはどうしたのだろうか。

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生活費の予算を度外視して美味しいケーキを食べて孤独を慰めたというJ男。甘いものは心の栄養なのである。世界中のパティシエが喜びそうなエピソードだ。

ケーキを食べても気が晴れないほど悩み、病んでいた時期は生活費の予算を度外視して怖そうなライブハウスに行ってみたりもした。

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▲大阪・十三(じゅうそう)にあるライブハウス

J男「十三、怖かった」



大学生ライフが始まる

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▲入学式の写真はこれ1枚のみ。


先輩のおごりを断る
4月はサークルの勧誘シーズンである。
令和の世もサークルの説明会に行くと先輩が食事をごちそうしてくれる。
J男もいくつかのサークルで説明会に参加してはごちになったが、次第に「おごられることから派生する上下関係のようなものが嫌になって」おごられに行くのをやめた。
「へー、そうなんだ」と電話口で彼の語りを聞く私の脳裏に今井美樹のヒット曲『プライド』が流れた。

各エピソードに初めての一人暮らしに対する気合いとそこから生まれる「いきり」が感じられてよい。大学1回生の春ならではの趣きである。

正式な自炊スタート

「栄養は積極的にとろうと思ってた」

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▲肉野菜炒め・キュウリ入り、トマト、白飯。

ガスコンロが届いて初の調理。意外とちゃんとしている。炒め物にキュウリを入れるなど手練れのやりそうなことだ。これは偶然ではなく中華料理を意識した確信犯だったらしい。J男「野菜炒めがべちゃっとしちゃったが、まあうまかった」

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▲ゆで鶏胸肉、ゆで汁を利用したスープ、トマト、白飯。

高校時代から筋トレにハマったJ男にとって栄養のある食事とは鶏胸肉のことなのだ。胸肉のゆで鶏とゆで汁スープ、これは私が教えたレシピである。

同時に「鶏胸肉は100g50円以下なら買え」という知恵も授けた。

待ち焦がれたガスコンロの到着によりJ男の意気込みにも火がつき、怒涛の自炊生活に突入する。

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・初のチャーハン
・初の刺身定食オレンジ添え
・初のスパゲティナポリタン
・初のジャーマンポテト&唐揚げ
・初の親子丼の初の失敗 など

興味のおもむくまま初めてのレシピへの挑戦と成功と失敗が繰り返され、勉強そっちのけで料理のPDCAに精を出す日々だった。

食い物の恨みを晴らす

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先のGIF画像をご覧の方はお気づきだろうか。トマトとチーズを交互に並べたサラダ「カプレーゼ」が多数登場している。これは自炊初期あるあるの一つ『実家時代の食い物の恨みを晴らしがち』を体現したものである。

好物でもきょうだいと分け合わねばならなかった実家時代。とくにカプレーゼのようなめったに出ないおしゃれ料理は「1人ふた切れまで厳守」と親(私)に命じられるので欲求不満が募った。結果、自炊メニューに頻出する。
満足はしたがチーズの値段が高いこともよくわかったのでブームは徐々に収束を見せる。また秋冬になると、カキフライ事件の恨み(※)も存分に晴らした。

※育児ノイローゼ時代のナーバスな母親(筆者)がカキフライを揚げたが、中まで火が通った確信が持てず食中毒を恐れ子供たちの目の前で「こんなものはこうだよね!」とほかほかのカキフライを生ごみ箱に勢いよく捨てたという恐ろしい事件。「秘儀・オイスターダストシュート」とも呼ばれる。

早々にやってきた金欠

おばあちゃんのコロッケ

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新生活には何かと予想外の物入りがあり、サークルに所属して友人が増えるとともに遊び活動が活発になりJ男は金欠に悩む。お金の感覚が未熟なため10万円が意外とすぐなくなることがわからない。半分は家賃と光熱費に消えることも実感としてまだ身についていないのだ。金欠はダイレクトに食生活に反映された。

連日のふかし芋と、祖母からの手作りコロッケ&ロールキャベツのクール宅急便で命をつなぎつつ、ウーバーイーツで働くようになる(ウーバーイーツは週払いなので助かるのだそうだ)。キャンセルが出た王将弁当×2を「食べていいよ」と言われさらに命をつなぐ。

J男「おばあちゃんのコロッケとウーバーの弁当は本っ当にありがたかった」

こうして若者は食欲とリンクさせて感謝の心を育んでゆく。


凝り出す

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これも青年の自炊あるあるの一つであるが、J男は料理に凝り出す。

まずカレー。

夏にかけて、YouTubeの人気料理サイト「だれウマレシピ」の無水キーマカレーにはまってそればかり作る。はじめはカレールーを使っていたが次第にカレーの奥深さに目覚め(つまりカレーにかぶれ)、東京カリ~番長のレシピ(メシ通)でスパイスカレーを初めて作る。カリー猛者の梁山泊である大学カレー部にも顔を出し、チキンビリヤニにも手を出す。

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カレー愛に火がついた頃のJ男のSNSの投稿より。理系らしくゼロの概念とカレーの概念を対比させている。

そして皮。

手打ちパスタ、手打ちラザニア、手打ち餃子の皮に夢中になる。もちろんパスタマシーンなどない。若さと体力に任せすべてが麺棒と包丁によるお手製である。リタイア後の男性がそば打ちを始めるのは男の中に「粉を打て」と命じる遺伝子があるのかもしれない。

友だちも増えたので秋冬にかけて料理の腕を披露するべく「鶏胸肉パ(ーティー)」や「カリーパ(ーティー)」「ぎょパ(餃子パーティー)」を自宅友人宅問わず盛んに催し人にふるまう喜びを知る。

和食への回帰

冬。凝りが高じて、一周回って日常的な料理を丁寧に作り出す。

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▲きみはお母さんか。

・だし巻き卵  ・いか大根、ぶり大根 ・新じゃがの煮っころがし    ・あじのたたき  ・ぶりのあら汁 など

この頃頼りにしたのは、大人気料理研究家・山本ゆりさんのレシピと、故・小林カツ代さんのレシピ本だった。

しかしやはりここでも「凝り」が顔を出し、こういうものも作った。

冬場の凝りと言えば・・・

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サムゲタン。どこで売っているのかこの鶏は。

息子の手料理でもっとも食べてみたいのはサムゲタンである。

筆者はまだサムゲタンという料理を食べたことがない。未サムゲタンである。なんとおいしそうな。

コロナウィルスの影響でJ男は長らく帰省していないし、東京から遊びに行くこともはばかられる。いつかJ男が帰省した日には「母への感謝」をたっぷり詰めたサムゲタンをつまみにビールとサイダーで乾杯しようではないか。

今年度の1回生の皆さんへ

息子の自炊とは直接関係がないが言いたいことがある。

今年の大学1回生は受難の時代だ。とくにJ男のように地方で生活を始めた1回生のことを考えると、ウィルスのせいで見知らぬ土地で友だちと遊ぶこともできず学校にも行けず、他人の子であれ胸がつぶれる思いがする。

みんな。心を病んでしまう前に尻尾をまいて実家に戻ろう。それが不可能な場合は以下の2点を試してほしい。

・とにかく1日に一回は外出すること。用がなくてもぶらぶらするだけでも。新しい街には発見があるよ。

・毎日自炊をしてみること。完璧じゃなくていい。

外の空気と人の気配を感じること、そして自分で手を動かして無心になって料理を作って食べること。この二つを守っていればけっこう正気を保てると経験上思うのでよかったらぜひ試してみて下さい。

最後まで読んでいただいてどうもありがとうございます。みたかの小さなプリン屋さんでした。

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この自炊物語の続き『息子の自炊に鹿が出てくる(ついに鹿が出る編)』はこちらです。note公式お気に入りマガジンとフード記事まとめにピックアップしてもらいたくさんの方にお読みいただいています。ぜひご覧ください!!↓↓↓



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