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「稚拙で猥雑な本能寺の変」2

○シーン2 京都(蛸薬師通り)・現代
 
喧騒。バスや車が通る大きな通りがそばにある感じ。
出張に来たサラリーマン・織部治と明神健一郎
明神がグーグルマップを見ながら来る。

織部  「もしもし、もしもし」
明神  「あれ?ここどこ?おかしいな。四条烏丸があっちだろ?てことは・・・」
織部  「もしもし。明神くん!勝手にどんどん行かないでくれる?」
明神  「織部さん誰に電話してるんですか」
織部  「明日香だよ」
明神  「明日香?」
織部  「娘」
明神  「ああ、織部さんの娘さん」
織部  「そう。3ヶ月ぶりに娘に会っていいって許可が出たの」
明神  「誰の許可ですか?」
織部  「別れた奥さんだよ。うるさいな」
明神  「それで電話。でも出ないってことですね」
織部  「そう」
明神  「チャッキョされてんじゃないですか?」
織部  「チャッキョ?」
明神  「着信拒否です」
織部  「着信拒否?そんなはずないでしょ。おかしいなあ」
明神  「知りませんよ。ほら行きますよ。こっちです」
織部  「(地図を見て)違うよ。あっちだって」
明神  「何言ってるんですか?こっちですって」
織部  「(地図を見て)あっちだってば」
明神  「徳川不動産ですよ」
織部  「そんなの分かってるよ。あっちでしょう」
明神  「織部さん、ここは文明の力を信じましょうよ」
織部  「何?」
明神  「グーグルマップです」
織部  「グーグルマップ・・・もう時間ないんですよ。先方さんとの待ち合わせに遅れたらまずいんだからね。京都まで出張に来て契約取れなかったらもう最悪ですよ」
明神  「車が売れればいいんでしょ。何とかなりますよ」
織部  「折角の大口のお客様を怒らせたらダメだって言ってるんです。遅刻なんて有り得ないんだからね」
明神  「だからこっちですって。京都のことは任せてください」
織部  「そうなの?明神くん京都詳しいんだ」
明神  「織部さん、京都は住所で調べても何にも分からないんですよ。京都は『通り』の名前で調べるんです。何何通り上がる、とかそういう感じで」
織部  「なるほど『通り』の名前ね」
明神  「だからグーグルマップだと迷っちゃうんですよ」
織部  「明神くん。今君が見てるのは?」
明神  「グーグルマップです」
織部  「だから迷ってるんだよ!何してるんだよ君は」
明神  「契約取りましょう!」
織部  「遅刻したら明神くんのせいですからね」
明神  「いや、グーグルマップのせいですけどね」
織部  「この見積もりは命より大切なものなんだからね。絶対に無駄にしちゃいけないんだからね」
明神  「はいはい」
織部  「もう!ここは何て『通り』?」
明神  「えーと、蛸薬師通りって書いてありますね」
織部  「蛸薬師通り・・・(地図を見て)えーと蛸薬師蛸薬師・・・」
明神  「本能寺・・・」
織部  「本能寺?」
明神  「ほら、本能寺跡って」
織部  「本能寺跡・・・明神くん、ここで本能寺の変が起こったんだよ」
明神  「本能寺の変」
織部  「明神くん、戦国時代は男のロマンだよ」
明神  「花の慶次はいいですね。確率変動はロマンです」
織部  「パチンコの話じゃないんだよ」
明神  「パチンコだってロマンじゃないですか」
織部  「あのね、織田信長って知ってる?」
明神  「知ってますよ。よく泣くスケート選手でしょ?」
織部  「違うよ。戦国時代のスターだよ」
明神  「スター?」
織部  「そのスター信長がここで家臣の明智光秀に殺されたの」
明神  「殺人事件ですか」
織部  「その事件が本能寺の変なの」
明神  「本能寺の変・・・何で本能寺事件じゃないですか?」
織部  「え?」
明神  「そもそも本能寺の変の変ってなんなんですか?」
織部  「知らない。なんだろう?・・・じゃなくて明神くん、早く行かないと本当に約束の時間に間に合わなくなるよ」
明神  「織部さん!」
織部  「ん?」
明神  「あの穴なんですか?」
織部  「穴なんていいから。穴?ほんとだ」
明神  「何であんなとこに穴が空いてるんですか?」
織部  「なんだろう?」
明神  「あれじゃないですか?埋蔵金的な」
織部  「そんなはずないでしょう。もしそうだったとしてもこんなとこにあったらとっくに発掘されちゃってるでしょ」
明神  「少しは残ってるかもしれませんよ」
織部  「残ってるはずないでしょ」

明神、穴の中に入っていく。

織部  「ちょっとちょっと明神くん。ダメだよ」
明神  「大丈夫ですって。ちょっと調べるだけですから」
織部  「ダメだろ。おい早く出て!」
明神  「ヤバイ!」
織部  「明神くん?」
明神  「ダメだ落ちそう。織部さん、手!手!」
織部  「え?ちょっと明神くん!」

織部手を貸す。

織部  「ほら。握って!」
明神  「引っ張ってください」
織部  「わかった。せーの!」

ガラガラと明神の足場が崩れて落ちる明神。

明神  「あっ落ちちゃう!」
織部  「ちょっとそんなに強く引っ張らないで!おい!ダメだって!」

二人して穴の中へ落ちていく。
流されていく音からメインテーマへ。

「稚拙で猥雑な本能寺の変」

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