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「稚拙で猥雑な本能寺の変」4

●第2幕
○シーン4 美濃の里・平太の家前

しずとたねが薪割りをしている。

しず  「ほい」
たね  「さっ」
しず  「ほい」
たね  「さっ」
しず  「ほい」
たね  「はあ・・・」
しず  「たね、ホラ何してんだ」
たね  「姉ちゃん腹へった」
しず  「兄ちゃん帰ってきたら沢山土産くれるから頑張ろ」
たね  「でも兄ちゃんいつ帰ってくるんだ?」
しず  「もうじき。もうじきだ」
たね  「もうじきもうじきもうじきもうじき。聞き飽きた」
しず  「だからもうじきだって」
たね  「生きてるよね」
しず  「兄ちゃんが死ぬはずない」
たね  「そうだな」
しず  「織田様の軍勢が負けるはずないだろ」
たね  「そうだな」
しず  「そうだ」
たね  「そうだな」
しず  「ほら頑張ろう」
たね  「うん」

二人、薪割りに戻る。

平太声 「しず!たね!」
しずたね「兄ちゃんだ!」

平太が織部を連れて戻ってくる。

平太  「戻ったぞ」
たね  「兄ちゃんだ!兄ちゃんだ!」
しず  「おかえり兄ちゃん!」
平太  「おう。元気にしてたか」
たね  「うん」
織部  「明日香?」
しず  「?」
織部  「明日香だ!」
しず  「何すんだ」
平太  「こらやめろ」
織部  「あ、すいません・・・あんまり娘に似てたんで」
しず  「そいつは?」
平太  「ああ、これは・・・」
織部  「はじめまして。織部治と申します」
たね  「織部?」
織部  「はい」
たね  「織部は土産か?」
平太  「土産ではない」
織部  「こちらの娘さんたちは?」
平太  「俺の妹だ。こっちがしず」
しず  「(会釈)」
たね  「たねだ。何だその着物?変なの」
織部  「変?・・・そう、変だねえ」
たね  「変だ!変だ!変だ!変だ!」
平太  「こら」
織部  「しずちゃんとたねちゃんね。よろしくお願いします」
たね  「兄ちゃん、褒美はもらったのか?」
平太  「褒美?いや・・・」
たね  「ダメだったのか?」
平太  「ああ」
たね  「ダメだったのか」
平太  「すまん」
たね  「そうか・・・腹減ったなあ」
平太  「しず、メシは?」
しず  「ないよ」
たね  「一昨日から何も食べてないよ」
平太  「ダメな兄ちゃんでごめんな」
たね  「はあ」
しず  「仕方ないよ」
平太  「でもこれからはずっとお前たちと一緒だ」
たね  「そうなのか?」
平太  「ああ、戦は終わったからな」
たね  「じゃあ兄ちゃんはもう戦に行かなくていいのか?」
平太  「ああ」
たね  「やった!」
しず  「良かったな」
たね  「でも腹減った」
平太  「腹減ったな。ごめんな」
織部  「あのー」
平太  「何だ?」

織部、鞄の中から焼きそばパンを出す。

織部  「これしかないんだけど、良かったら」
平太  「なんだこれは?」
織部  「焼きそばパンです」
平太  「焼きそばパン?」
織部  「えーと、食べ物です」
しず  「食べ物?」
たね  「食っていいのか?」
織部  「いいよ。食べて」
平太  「待て」
たね  「兄ちゃん?」
平太  「こんなもの見たことないぞ。本当に食べ物か?」
織部  「食べ物ですって」
平太  「怪しいな」
織部  「だったら食べなくていいです。僕はそれでも全然いいんです」
平太  「じゃあお前、先に一口食べてみろ」
織部  「いいですよ。何なら全部食べちゃいますけど」
しず  「!」

織部の手から焼きそばパンを取り上げて、しず一口食べる。

織部  「あっ」
平太  「しず!」
しず  「(もぐもぐもぐもぐ)」
平太  「どうだ?」
しず  「何これ?」
織部  「どう?」
たね  「美味い?」
しず  「たね」
たね  「うん!」
織部  「どうぞ」
しず  「兄ちゃん」
平太  「お、おう」

しず、パンを3つに分けて平太とたねに渡す。

織部  「美味しい?」
たね  「こんな美味い食いもん初めてだ」
平太  「お前何でこんなものを持ってるんだ?」
織部  「え?えーと、僕の田舎の名産品なんです」
平太  「そうか。田舎はどこだ?」
織部  「東京です」
平太  「東京?」
織部  「なんか東のほうです」
平太  「へえ、東のほうか」
織部  「ええ」
しず  「はい(と織部に渡す)」
織部  「僕はいいよ。食べて」
しず  「食べたから」
織部  「何日も食べてないんでしょ?」
しず  「うん・・・」
織部  「僕は大丈夫だから。ね」
しず  「ありがとう・・・」

パンを食べるしず。

たね  「それ何だ?」
織部  「これ?これはゴミだね」
たね  「くれ」
織部  「いいよ(パンの入ってた袋を渡す)」
たね  「透けてる・・・姉ちゃんシャカシャカってほら。面白れえ」
しず  「綺麗だな」
織部  「こんなもので喜んでくれるんだ・・・あーあ、明日香に会いたい」
平太  「おい」
織部  「はい?」
平太  「その袋をみせてくれ」
織部  「え?鞄ですか?ダメですよ」
平太  「いいから見せてみろ」
織部  「あっ」

鞄を取られ中身を見られる。

織部  「ダメだって言ってるのに」
平太  「これはなんだ?(見積書)」
織部  「・・・これはお守りみたいなもんです」
平太  「お守りか。なんだこの棒は?(ボールペン)」
織部  「これは、筆です」
平太  「筆じゃないだろう」
織部  「筆なんです。こうやって(字を書いてみせる)」
平太  「お前、字が書けるのか?」
織部  「当たり前じゃないですか」
平太  「そうか、お前は字が書けるのか」
織部  「・・・何かすいません」
たね  「兄ちゃん痔ってなんだ?」
織部  「痔じゃないね、字だね」
平太  「字?字は・・・」
織部  「字・・・字の説明しろって言われても・・・」
しず  「字が書けると遠くの人に自分のことや思いを伝えられるんだ」
平太  「そうだ」
たね  「へえー痔ってすげえな」
織部  「痔じゃなくて字だからね」
たね  「織部教えろ」
織部  「え?字を教える?でも」
たね  「なんだ?」
織部  「未来が変わったりしないかなーって」
平太  「俺からも頼む。こいつらに字を教えてやってくれ」
織部  「いやあでも」
たね  「織部、教えろよ。織部!」
織部  「わかりました。教えますよ」
たね  「やった」
しず  「ありがとうございます」
織部  「大丈夫かな・・・大丈夫でありますように」
平太  「おい。これは何だ?」

 鞄から日本史の本を出す。

織部  「ギャー」
平太  「どうした?」
織部  「何でもないです。返して下さい」
平太  「ん?何か書いてあるな」
織部  「ダメー!見ちゃダメー!」
平太  「読めないから」
織部  「え?」
平太  「読めないから眺めさせてくれ」
織部  「あ、はい」

平太、本を眺めるように見ている。
忠興と秀満が来る。

忠興  「何をしている」
織部  「あ、こないだの!」
平太  「明智光秀様の家臣、秀満様と忠興様だ」
織部  「どうも」
秀満  「それは何だ?」
平太  「これですか」
織部  「何でもありません。これは何でもありません」
秀満  「貴様には聞いておらん。平太それは何だ?」
平太  「これは織部殿のものです」
秀満  「貸してみろ」
織部  「いやダメです。絶対にダメです!」
忠興  「お前にそんな権利はない。貸しなさい」
平太  「織部殿」
織部  「ダメです。だってあなたたち明智光秀の家臣ですよね」
忠興  「だからなんだ」
織部  「もう絶対にダメだから!出したら消えちゃうから」
忠興  「消える?いいから貸せ!」
秀満  「何を隠してる。武田の足軽(抜刀する)」
しずたね「キャー」
平太  「何してんだ。出せって」
忠興  「(も抜刀し)出さねば斬る」

追い詰められる織部。

織部  「出します出します。出せばいいんでしょ出せば」

本を出す織部。

秀満  「貸せ。変な書だな」
忠興  「読み辛いですが歴史書のようですな。ほら大和朝廷のことがここに」
秀満  「おお。源平合戦のことも書いてあるな」
織部  「もし僕が消えちゃったら責任取ってくださいよ」
平太  「何言ってんだ」
秀満  「織田信長・・・」
忠興  「御屋形様のことが」
織部  「ダメ!そこまでにして下さい!お願いします。そこまででー」
秀満  「うるさい」
織部  「ああ、消えるー」
秀満  「なんだこれは」
忠興  「本能寺の変・・・本能寺にて明智光秀が謀反を起こし織田信長が討たれた?」
織部  「神様―!」
秀満  「おい。これはどういうことだ?」
織部  「消え・・・てない。良かったー」
秀満  「どういうことかと聞いておる」
織部  「ああ、あなたがたがそれを読んでも歴史は変わらないってことです」
秀満  「そんなことはどうでもいい。光秀様が御屋形様に謀反を起こすとはどういうことだ」
織部  「えーそれはですね・・・」
秀満  「・・・こんな出鱈目を。許さん」
織部  「違うんです。これは僕が書いたんじゃなくて」
秀満  「誰が書いたのだ」
織部  「えーと、えーと、天照大神です」
秀満  「天照大神?」
織部  「はい。僕は天照大神の使者としてこの預言の書を持ってきたんです」
秀満  「預言の書?ふざけたことを申すな」

本を忠興に渡し、抜刀する秀満。

織部  「やめてー」
秀満  「覚悟!」
しず  「これをご覧ください」

やきそばパンの袋を見せる。

秀満  「なんじゃこれは?」
しず  「織部の食べ物が入っていた袋です」
秀満  「見せてみよ」

しず、袋を秀満に渡す。

秀満  「・・・透けておる」
忠興  「透けてますな・・・」

雄たけびを上げる秀満と忠興。

秀満  「これは噂に聞く『天女の羽衣』ではないか」
忠興  「天女の羽衣。この世のものとは思えぬ」
秀満  「・・・これはお前のものか」
織部  「はい」
秀満  「何故こんなものを持っておる」
織部  「それは、私が天照大神の使者だからです」
秀満  「天照大神、本物か?」
忠興  「本物かと」
織部  「すいません。刀をしまってもらっていいですか」

秀満、納刀し忠興と土下座する。

秀満忠興「ははーっ」
織部  「分かっていただけましたか」
秀満忠興「ははーっ。ご無礼お許しください」
織部  「いやいやいやいや分かってくれればいいんですいいんです」
秀満  「あの、お名前をお聞かせ願えますか」
織部  「僕ですか?織部と申します」
秀満  「織部様、もう一度預言の書を見てもよろしいでしょうか」
織部  「大丈夫だと思います。どうぞ」
秀満  「どこに書いてある?」
忠興  「こちらです」
秀満  「ここか。天正一〇年六月・・・二月後か」
忠興  「織部様」
織部  「は、はい」
忠興  「この預言の書が間違ってるなんてことは?」
織部  「ありません」
秀満  「(期待を込めた目で織部を見る)」
織部  「変わっちゃったら僕がどうなっちゃうか・・・」

それぞれ天を仰いで。
暗転。

<5>に続く


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