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全国自然博物館の旅㉛滝川市美術自然史館

「羽毛恐竜よりも、ごつごつした鱗の恐竜が好きだ。恐竜は冥界のモンスターだからこそかっこいい」
ご年配の恐竜ファンには、そういう意識をお持ちの方も多いのではないでしょうか。昭和の恐竜復元の雰囲気を感じてみたい方は、一度、北海道の滝川市を訪ねてみてください。きっと、図鑑を夢中でめくっていた子供時代の記憶が、大迫力の恐竜たちと共に甦ってくるはずです。


オールド恐竜ファンよ、北海道に集え!

滝川市は札幌市から北の方角に80 kmほど離れた街です。筆者のような他の地方の旅行者は、新千歳空港や札幌市内からレンタカーを借りて自然史館に向かうことになります。
長距離運転となりますので、休憩を挟みながらゆったりと参ります。旅は焦ったら負けです。どんなときも、のんびりと行きましょう。

札幌から少し長めのドライブ。滝川市美術自然史館に到着です。
自然史館の周辺にはたくさんの木々が植えられています。目の保養になる癒しスポットですね。

滝川市美術自然史館は、自然史部門と美術部門を有する博物館です。本地域は古代の海洋哺乳類タキカワカイギュウの化石産出地ということもあり、自然史館の古生物展示はとっても見ごたえがあります。
建屋の周辺には「化石の森」という緑地が設けられています。木々の優しい雰囲気に包まれて、長距離ドライブの疲れも吹っ飛びます。また、建屋の前の広場にはタキカワカイギュウの産状化石レプリカも設置されているので、自然史館へのワクワク感がさらに刺激されます。

自然史館を取り巻く「化石の森」。心が洗われて、滝川市の暖かさを感じます。
地内の広場。滝川市で発見された古代海洋哺乳類・タキカワカイギュウの産状化石のレプリカがあります。

気持ちが暖まってきたところで、満を持して入館。本館のスターであるタキカワカイギュウの展示はもちろん、昭和世代の恐竜ファンを熱く燃えさせる展開が待っています!

エントランスホールの壁面。タキカワカイギュウの生息環境が再現されたアートです。

ノスタルジーあふれる大迫力の自然展示施設

懐かしき昭和の恐竜図鑑の世界

昭和生まれの方、昭和世代の親御さんから恐竜図鑑を見せてもらった方は、古代の世界がとてつもなく過酷な環境だと認識されているのではないでしょうか。
そこらじゅうで景気よくマグマを噴き上げる火山、怪獣のごとく血みどろの闘争を繰り広げる恐竜たち。そんな昭和の復元環境の世界へと誘ってくれる特別な展示施設が本館です。まずは、生命誕生以前の世界から見ていきましょう。
ご年配の方は、入った瞬間から「子供の頃に見た図鑑の世界だ!」と思われるかもしれません。

地球の誕生から始まる自然史の展示。昭和の自然科学図鑑のページをイメージさせる画風ですね。
生命が広がる前の地球環境は、極めて過酷なものでした。大気や海洋を循環する物質も、現代とはまったく違っていました。

冥王代の回廊を抜けて展示ホールに出ると、オールド恐竜ファンのテンションは最高潮に達することでしょう。
ご年配の方々が少年少女の頃に、図鑑で見た姿そのままのティラノサウルスが出現します。ゴジラのような立ち方、圧倒的な存在感、並ぶ者のない強者のオーラ。ノスタルジーをたたえた恐竜の王の姿に酔いしれましょう。

ティラノサウルス降臨! 昭和の恐竜図鑑そのままの、上体を突き上げた復元姿勢です。
ゴジラ型に復元されたティラノの全身骨格。若い人には馴染みないかもしれませんが、ほとんどの昭和の恐竜図鑑では、肉食恐竜はこのような姿勢で描かれていました。
旧復元のティラノサウルスの模型。現代の復元図とはかけ離れています。昭和世代の人々には、こっちのティラノの方が親しみやすいのではないでしょうか?
こちらは昭和版のアナトティタンの復元模型。カモノハシ恐竜とも呼ばれる大型の植物食恐竜です。昭和では「トラコドン」という名前で通っていましたが、現代では有効な学名ではありません。

本館で昭和らしさを感じさせてくれる大きなポイントは、壁面に描かれた環境復元画です。羽毛の生えた恐竜はどこにもおらず、生き物たちは総じて怖そうな怪物風に描かれています。まさしく、昭和の古生物図鑑の挿絵ですね!

展示ホールの壁面に描かれた古代の環境復元図。恐竜図鑑をよく見ている人なら、昭和に描かれた絵画だと一発でわかるでしょう
「なんだこの怪獣は?」と思われるかもしれませんが、肉食恐竜アロサウルスです。当時の復元図は、やや怖めの画風で描かれる傾向にありました。
古生代の海の環境復元図。ダンクルオステウスをはじめとする古代魚が描かれています。こちらは現代の復元図と比べても、それほど差はありませんね。
ペルム紀の陸上生態系の復元図。中央のイノストランケヴィアは私たち哺乳類に近い動物なのですが、昭和当時の古生物学では爬虫類の一種だと思われていたためか、凶暴なトカゲのような姿となっています

本館で特筆すべきなのは、多数の古生物の骨格標本です。恐竜をはじめとする太古のスターたちの共演は壮観! 時代を越えた生命のパレードが始まります。

小型植物食恐竜プロトケラトプス。角はありませんが、トリケラトプスと同じ角竜の仲間です。
全長2 mに達する大型両生類エリオプス。ワニのように恐ろしい水辺のハンターでした。
ペルム紀の単弓類コティロリンクス。樽のような胴体が特徴的であり、体重300 kgほどあったと思われます。
ケナガマンモスの全身骨格。現在のゾウよりやや小柄ですが、それでも大型動物であることに変わりありません。

こういった地方博物館に来ると、古生物ファンは珍しい標本や模型はないか探してしまいます。もちろん、マニア垂涎のコアな顔ぶれがたくさんいます。
個人的なお気に入りはアンフィビアムスとオフィルデルペトン。これほどマニアックな古代の両生類の復元模型が見られるとは、正直めちゃくちゃラッキーだと思います

古生代の生物・アンフィビアムスとオフィルデルペトンの復元模型。トカゲとヘビに見えるかもしれませんが、どちらも両生類です
約5000万年前に生きていた肉食哺乳類パトリオフェリスの頭骨。当時の食物連鎖の上位に君臨する名ハンターでした。
古代の大型イヌ科動物ダイアウルフの頭骨。「ウルフ」と呼ばれていますが、現生オオカミとは遠縁だったと考えられています。

2階エリアの展示は現生動物がメインとなっています。立ち並ぶのは、あらゆる脊椎動物たちの骨格標本。骨の構造を見ることで、彼らの体が解剖学的にいかに精巧なものであるのかを理解できます。

2階の展示エリア。様々な動物たちの骨格標本が立ち並んでいます。
ゴマフアザラシの骨格。ヒレを構成する指の骨の形状がしっかりわかります。
ニワトリとフンボルトペンギンの骨格。同じ鳥でも解剖学的はどのような違いがあるのか、じっくり見比べてみましょう。

総合的に見て、パワフルな展示が多く、昭和世代のみならず多くの人々が大興奮できる内容となっています。最強の巨大なティラノサウルスの佇立する姿には、きっと子供たちも大喜びすると思います。

2階壁面には、プテラノドンとオオワシの実物大パネルが設置されています。やはりプテラノドンのサイズは桁違い!
2階から見たティラノサウルス。怖くてかっこいい、それでこそ恐竜の王ティーレックス!

郷土の誇り! 雄大なるタキカワカイギュウ

滝川市が世界に誇る古生物学界の宝・タキカワカイギュウ。約500万年前の北海道の海に生きていた全長7 mの大型海洋哺乳類です。現代のジュゴンやマナティーと同じカイギュウ類ですが、海草を食べる彼らとは異なり、柔らかい海藻を食べていたと考えられています。
タキカワカイギュウの化石は1980年に滝川市の空知川にて発見され、北海道の天然記念物となりました。滝川市の名を冠する本種の姿、しっかりと目に焼きつけましょう。

タキカワカイギュウの複製全身骨格。約500万年前に生きていた海洋哺乳類です。
タキカワカイギュウの実物大復元模型。全長7 mに達したと考えられており、ジュゴンやマナティーよりも、はるかに巨大です。
1980年に行われたタキカワカイギュウの発掘作業写真。多くの方々が力を合わせて、巨大な骨格化石を掘り出したことがわかります。
タキカワカイギュウを例にあげ、骨格標本のレプリカ作成の過程を解説。博物館で働きたい人にとっては、とってもためになる展示だと思います。

タキカワカイギュウを展示する本館は、カイギュウ類の進化についての権威です。1階展示ホールには古代・現代問わず多くのカイギュウ類の骨格や模型が展示されており、タキカワカイギュウとの違いを見比べることができます。彼らの雄々しさと優しい雰囲気には、思わずうっとりしてしまいます。

ヨルダニカイギュウ。約1000万年前のアメリカに生息していた大型カイギュウ類です。
ステラーカイギュウ。最大級のカイギュウでしたが、人類の過度な狩猟によって絶滅しました。
現生ジュゴンの模型。タキカワカイギュウとは体つきも頭部の形も異なっています。

多様な種類が存在した古代のカイギュウたち。生き物好きが知りたくなるのは、彼らがどのような進化の道を辿り、いつ頃タキカワカイギュウが誕生したのかということです。
本館では、謎に満ちたカイギュウの進化についても学ぶことができます。ジュゴンやマナティーとは異なる道を歩んだタキカワカイギュウとは、いったい何者なのでしょうか。

カイギュウ類の進化を模型展示で解説。分類群は異なりますが、ナウマンゾウやデスモスチルスについても言及されています。
約1000万年前のヨルダニカイギュウは、後代のタキカワカイギュウやステラーカイギュウに近縁だと考えられています。古代カイギュウの復元模型が見られるとは眼福!
見やすい進化の系統図。日本で見つかっている多くの古代カイギュウは、ヨルダニカイギュウの仲間の血を継いでいると言えます。

タキカワカイギュウが暮らしていた時代の北海道の海では、遠く浅い水域が広がっていたと考えられています。出土した貝類の化石はどれも冷たい海を好む種類であることから、当時の海の水は冷たかったことが判明しました。
約500万年前の海には、どのような海洋生物が棲んでいたのでしょうか。

約500万年前の地層から発見された化石たち。当時の海には、サメやクジラやセイウチなど多くの海洋生物が棲んでいました。
プセフォフォルスの肩甲骨。古代のウミガメであり、アジアでは初めての発見報告となります。タキカワカイギュウと同じく、のんびりと産みを泳いでいたことでしょう。
プセフォフォルスの復元模型。現生のオサガメに近い種類であったと考えられています。

北海道には化石の産地がたくさんあり、滝川市もその1つに数えられます。悠久の歴史を秘めた北の大地は、古生物マニアが何度も訪れたくなる魅力を秘めています。
滝川市にキャンプやスキーに訪れた際には、ぜひ本館を訪ねてみましょう。もしかすると、夢の中にタキカワカイギュウが出てくるかもしれませんね。

館内のミュージアムショップ。筆者のオススメは、カイギュウ類の進化についての学術資料。タキカワカイギュウのルーツを、さらに細かく理解しましょう。
トイレの案内表示にもタキカワカイギュウが使われています。ネクタイとシルクハット、様になっていますね。

滝川市美術自然史館 総合レビュー

所在地:北海道滝川市新町2-5-30

強み:昭和の雰囲気薫るレトロかつダイナミックな館内の空気感、王道の恐竜からマニアックな古生物まで幅広くフォローした展示内容、タキカワカイギュウ産出地ならではのカイギュウ類の進化に関する濃密な解説展示

アクセス面:北海道の地方博物館ということでお察しだと思いますが、車を運転して行くのが最適解です。滝川市は札幌市から約80 km離れており、札幌方面からレンタカーで向かうなら高速道路の利用を推奨します。一般道でも2時間ほどで辿り着けますが、北海道の国道275号は直線距離が長い道路であり、スピードを出しすぎてしまいがちなので注意しましょう。旅行者の方は、ぜひ別のレジャーも旅程に加えていただきたいと思います。キャンプやスキーなどの予定と組み合わせて来館すれば、滝川市での滞在時間をさらに素敵に過ごせます。

全ての古生物マニアに来館していただきたい博物館であり、中でも昭和世代の恐竜ファンの方々に強くオススメします。ゴジラ型姿勢で雄々しく仁王立ちするティラノサウルス、数十年前の恐竜図鑑を想起させる巨大な古環境復元図を目の当たりにすれば、きっと少年少女の頃の記憶が甦ってくるでしょう。
さらに、タキカワカイギュウという本地域を代表するスターの存在は大きな強みです。本種についての多角的な研究成果を学べるうえに、複数の大型カイギュウ類の骨格を拝めるので、古生物マニアにとって極めて特別な学習体験となるはずです。太古の北海道の海を巨大な謎の哺乳類が泳ぎ回っていたと考えると、とってもロマンを感じますね。
恐竜やタキカワカイギュウなどの大物に加えて、コアな古生物展示が豊富なところも推しポイントです。コティロリンクスの骨格レプリカ、アンフィビアムスとオフィルデルペトンの復元模型が見られる場所はかなり貴重です。マニアの皆様には、存分に熱く燃え上がっていただきたいと思います(笑)。

たくさんの滝川市民の笑顔を集める博物館。館内のレストランでは、ゆったりと食事を楽しめます。

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