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ポストにお花が投函されるファンタジーアパートでギリシャ人オネエと茶しばくアフタヌーン

グラスゴー、今日は久しぶりに天気がよく、黄色い花や桜がふさふさと揺れていた。川沿いの公園で、たいしてうまくもないデッサンをする。
ブロンドの高校生たちがせっせと自撮りをして笑いあっている。
とうとう家を決めた。
微妙な立地にある微妙なアパートであったが、抜群の安さと、そしてルームメイトのオマールの雰囲気がすきになった。

ジョージ宅でのんびり暮らすだけの擬似新妻モードから早く抜け出さなければ、本当にそろそろ地に足をつけようとネットのルームメイト募集掲示板をギンギンにスクロールしていたら、相場よりもだいぶ安い物件を見つける。
部屋の写真をみる、ベッドカバーがなんともいえないニューヨーク柄だし、壁はこれまた微妙な手書きのイギリス地図が貼ってある。
とにかく見に行ってみよう話はそれからだと早速連絡をする、と今から見に来てもいいよとのこと。
窓の外は天気もいいし、早速いってみることにした。

地下鉄に揺られ15分、降り立つとそこはウン、まあ…といった感じの雰囲気の、(ものすごく)よくいえば親しみやすい雰囲気の町であった。
ケバブ屋と花屋、果物屋が点在し、あとはただおおきな道路がある。
道の脇にはコカコーラやセブンアップの缶がカラカラと転がっている。
インド人の爺さんが、外にイスを出して虚空を見つめている。
無数の小さなカフェや古着屋、バーやなんやとカラフルでおしゃれなジョージ宅周辺と比べると、まるで国まで変わってしまったようである。
クールな白人の若者たちのかわりに、張り裂けんばかりにイキのいい褐色の肌の子供達がところせましと走り回っている。

子供の波をかいくぐり、これまたウン、まぁ……と行った雰囲気のアパートのベルを鳴らすと、この家の主オマールが、ハ・ロ〜とあの、ゲイ特有のフレンドリーボイスでもって盛大に迎えてくれた。
写真でみた通りの特に特筆することもないアパートだったが、ツーブロックでプラチナブロンドのオネエのギリシャ人が私のルームメイトになるのかと思うと、なんだかしっくりきた。

上の部屋では無数の子供たちが走り回っている。
玄関のドアポストがカタカタ鳴っている――と、オマールがまただわ、と呟いて玄関へ、ドアポストの細長い隙間から四つの瞳がきらきら輝いている。

「この家は、いつも子供達の侵略の危機にあるの。それでもよければ是非あなたに住んで欲しい」

私とオマールはリビングに戻り、ターメリックジンジャーレモンという不思議な味のお茶を飲みながら、窓のそとに広がる集合住宅を見ていた。
洗濯物を干している子供達、ベランダでタバコを吸っているお母さん、爆音でラテンミュージックを聞いている若者。

お部屋見せてくれてありがとう、お邪魔しましたと玄関へ向かう――と、そこには数枚の葉っぱと、黄色い花がドアポストから垂れ下がっていた。
私たち二人、顔を見合わせて笑ってしまった。
ここに住もう、と決めた。

週末に引越しの日が決まり、やっと家賃という現実に直面し急いで職務履歴書をこしらえている。
早く仕事を見つけなければ、貯金はほとんどスズメの涙である。

今週中になんでもいいからとにかく働くべし。


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