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3分小説『脱力系男子』

今朝、LINEを開いたら、画面の背景に雪が降っていました。このご時勢、アプリの中でも雪が降るようです。ふいに、遠い日の記憶が蘇ります。

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子どもの頃、密かに思いを寄せていた男の子がいました。彼はクラス対抗の合唱コンクールや体育祭に参加するのをとても嫌がりました。何かに夢中になったり、熱くなったりするのが性に合わないらしいのです。クラスの女の子たちは、彼のことを、「脱力系のクールな俺」を演じている勘違い男だと決めつけました。陰ではシカマルと呼んで笑い者にしていたほどです。シカマルというのは、その頃テレビで放送されていた忍者アニメに登場する脱力系男子です。でも私は、他の子たちの評価なんて気にしたりしません。彼の持つ、土曜日の午後のような気怠い雰囲気がたまらなく好きだったのです。

とある冬の日のことです。窓の外に真っ白な雪が降り出す瞬間を目撃した私は、彼とおしゃべりするチャンスだと思いました。

「ねぇ、見て。外に雪が降ってるよ」

勇気を振り絞って話しかけたのですが、彼にとって女子との会話ほど面倒なものはなかったのでしょう。

「馬鹿だな。寒くなるだけだろ」

雪のようにひんやりとした返事に、私はたまらず顔を赤らめてしまいました。

***

あれから十年という長い年月が流れ、私も大人になりました。今日は、メッセージアプリの中で雪が降る光景を見ながら、素敵な思い出にうっとりしています。でも、と私は思いました。これは彼とお喋りするチャンスではありませんか。

打ち込んだ文字を口ずさみながら、私は送信ボタンを押しました。

[ねぇ、見て。ラインに雪が降ってるよ]

続けて送るスタンプを選ぶ間もなく既読がついて、返事が来ます。

[馬鹿だな。 アプリが重くなるだけだろ]

彼はあの頃のままでした。

どう返事をしようか迷っているうちに、続けてメッセージが届きました。

[ていうか、去年も降ってただろ]

無機質な人型アイコンにそう言われ、私はやっぱり顔を赤らめてしまったのでした。