見出し画像

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(138)畑時能の動物ネタが気になりすぎて……ほか、古典『太平記』で一番陣・二番陣を確認してみる

 南北朝時代を楽しむ会の会員の間でも話題騒然の週刊少年ジャンプ新連載『逃げ上手の若君』ーー主人公が北条時行、メインキャラクターに諏訪頼重! 私は松井優征先生の慧眼(けいがん=物事をよく見抜くすぐれた眼力。鋭い洞察力。)に初回から度肝を抜かれました。
 鎌倉時代末期から南北朝時代というのは、これまでの支配体制や価値観が崩壊し、旧時代と新時代のせめぎあいの中で、人々がそれぞれに生き方の模索を生きながらにしていた時代だと思います。死をも恐れぬ潔さをよしとした武士が〝逃げる〟という選択をすることの意義とは……?
〔以下の本文は、2023年12月24日に某小説投稿サイトに投稿した作品です。〕


 『逃げ上手の若君』第138話、ついに青野原の戦いが始まりましたが、しょっぱなから新田徳寿丸くん、飛ばしていますね。

 「新田徳寿丸(義興)は少し後に後醍醐天皇に会い 「誠に武勇に優れた者」と絶賛された

 「義興」という名前は、その際に後醍醐天皇から「新田家を盛り立ててもたいたい」ということで頂いた名前ということです。実はこの義興、エレキテルで有名な平賀源内がプロデュースした芝居が大当たりして、江戸の庶民に大人気だったのだとか。こうしたことは、以下の新田神社(東京都大田区)の公式HPで知りました。

破魔矢発祥の地 新田神社

 (いろいろネタバレにはなってしまいますが、義興のことを知ることができる短いアニメーション動画もあります。)

 そして、堀口貞満と畑時能&犬獅子がかっこいいですね! 犬獅子は畑の犬なのですが、本シリーズの第132回で紹介しています。

 畑は話に動物のたとえ(「真の獅子」「猛虎」「若鷹」「真の鷹」)が多くて、〝動物使い系の悪党なのかな?〟などとくだらない考えが浮かんだところで、〝あ!〟と気づきました。ーー〝畑だから、……ムツゴロウさん!?〟

(「チャトラ~ン」)

 世代的にはムツゴロウさんを知らない方もいるかもしれませんので簡単に説明すると、「ムツゴロウ動物王国」と映画『子猫物語』と言えば、私と同世代の昭和生まれは誰もが知っているのではないかというくらい有名です。ムツゴロウさんは現代人なのでWikipediaも参照したところ、肩書きがたくさんあってどう言えばいいのかわからないのですが、動物大好きでどんな動物も愛と友情で飼いならしてしまうおっちゃんです(昭和キッズだった私の感覚で恐縮です)。

ムツゴロウ動物王国

 そして、ムツゴロウさんの本名は「畑正憲(はたまさのり)」です。ーーやられたわ、こりゃ!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 さて、くじで決まった布陣について、今回の展開に沿って古典『太平記』の記載を確認してみたいと思います。

 先ず一番に、小笠原信濃守おがさわらしななのかみ芳賀清兵衛入道禅可はがせいひょうえにゅうどうぜんか、二千余騎にて、自貴じぎわたりへ馳せ向かへば、奥州の伊達、信夫しのぶの者ども、三千余騎にて川を渡して、……(以下略)
 ※自貴…食(じき)とも。羽鳥郡岐南町の旧地名。
 ※信夫…福島県の旧郡名。はじめ石背(いわせ)国、のち陸奥国の一部。今の福島市南部に当たる。

 二番に、高大和守こうのやまとのかみ、三千余騎にて墨俣川すのまたがわを(渡る処に)、渡しも立てず、相模次郎時行、五千余騎にて乱れ合ひ、互ひに笠符かさじるしをしるべにて、組んで落ち、(落ち)重なつて首を取る。半時はんときばかり戦うたるに、大和守、たのみ切つたる兵三百余騎討たれにければ、東西にあらけなびいて、山を便りに引き退く。
 ※笠符…敵味方を区別する布きれ。兜や鎧の袖につける。
 ※半時…約一時間。
 ※あらけ靡いて…ばらばらになって逃げて。

 「うわ… 俺の相手は北条か 奴等必死そうで嫌だなあ」 

 高重茂と陣を交換したのはどうやら松井先生のアレンジのようですが、前回の第137話の高重茂の上記のセリフは『太平記』に照らしてみると、かなり秀逸な解釈なのかなと思いました。「最近の兄者達オラつきすぎて温度差あるし」には笑いました。師直と師泰も目元は同じで兄弟だなという顔付なのに、重茂は線の細い印象ですね。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 戦場にもかかわらず興奮気味に貞宗の技を盗もうとする時行が、ジャンププラスの『接客無双』に登場したQQ(相手の技を盗むのみならず、その能力を増幅させることができる)を思い出してしまいました(すみません……)。
 カオスな戦場で描かれる密かな〝礼節〟は、時行と貞宗の他にも、弧次郎と長尾景忠との勝負にも見出すことができます。一方で、個人的には桃井直常や結城宗広はどうくるのかな、といった興味も尽きません。

〔『太平記』(岩波文庫)、日本古典文学全集『太平記』(小学館)を参照しています。〕


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?