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こぼれ星についての散文


人生というのは流れ星のようなものだと思う。夜空を眺めながらぼんやりとそんなことを考える、ふたご座流星群が一番よく見える日。とは言ったものの、やはり都会の夜空は無数の電灯でその黒の濃度を落とし、そのせいか10分間も寒空の下で立ち続けているのにひとつしか流れ星を観測できていない。ひとつ見えたら帰ろうと思っていたのに、一度見たらその場から離れられなくなってしまい、身体を冷やさないようにと持ってきたホットミルクもとうに冷えきって、液化した冬の風が胃の壁に浸み込んでいくのがよくわかる。耳元でaikoが"星のない世界なら目を閉じて証明するのに"と歌い、はて星のない世界とはどんな世界だろうと星をみながら考える。でも普段夜空なんて見上げないし星なんてなくたってきっと変わらないよな、たまたま見上げて綺麗だなんだ評価するの、なんて傲慢。そうこう思いあぐねているうちにまた一つ、今度は満月の左下のあたりを星がひとつ通過、"流れ星"というが実際は流れるというより"こぼれる"感じだ。涙がぽろっとこぼれて床に落ちる、山積みになった透明のキャンディの粒がバランスを崩しこぼれて床に落ちる、今日から流れ星じゃなくてこぼれ星って呼ぼうかな。星がこぼれる時間は約2秒。願いが叶うとか言い出した人はきっとそもそも叶える気がなかったのだろう、それでも願わずにはいられないほどの何かを抱えていたのだろうか。あんな一瞬こぼれゆく水の粒のようなものに抱く、弾けるような胸の泡それは希望。そして願い。そう泡は弾け消える。星もこぼれ消える。その一瞬がどうにも心地良くて手に残るのはいつももどかしさ。気がついた瞬間に消えるもの、そうして手放したあれやこれに想いを巡らせて、でもそれらに引き摺られるようにして人生が作られてきたことを知る。手に入らずに後ろを向いてばかりそうそれがきっと生、だからきっと死は前向き。

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