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恋愛感情なんて八割がた呪いみたいなもんじゃんね


恋愛感情なんて、八割がた呪いみたいなものだと思うんです。

だって恋の「好き」って、すごく客観的に分析すると、「自分が相手を想っているのと同じくらい好きになってほしい」「相手にこれだけ尽くしているのだから報われてほしい」「こんだけ好きなんだから嫌われるわけがない」っていう、いわば自己愛を他人を通して実現させようという、至極自己中心的で強烈な願いなのだから。まぁ、渦中にいるときにはそこには自己愛なんて一ミリも存在しなくて100%の絶対的な他者愛だ!と思い込んでしまうのが恋愛感情の怖いところだなぁとも思うのですが。実際、相手を好きになる気持ちは本物であるしね。

だから失恋をすると、その自己愛をポッキリと折られてしまい、底なしの自己否定の沼に身を沈めてしまう。そしてその闇の中でどうにか自分への愛情を肯定するには、「呪い」をかけるしかない。想いが強ければ強いほど、その「呪い」は強烈に自分の中に打ち込まれて、ますます忘れがたいものになっていく。

そしてその「呪い」を絶対的に肯定してくれるアーティスト、それがaikoだと思うのだ。


そんな風に考えたのは、こちらのバズったツイートを拝見したのがきっかけ。実は私、ファンクラブに入っているレベルのaikoジャンキーでして。これらの歌詞を「呪いみたい」と表現してそれに魅力を感じているこのユーザーさんの気持ちが激しくわかってしまうのでした。

こちらで紹介されている歌詞は、

たまに私を思い出してね
そして小さな溜め息と肩を落とし切なくなってね
「赤いランプ」
いつも元気だなんて決して思ったりしないでね
「September」
仕事だって嘘ついてね あの時手を繋いだよね
「透明ドロップ」
それあたしがあげた服だよ
「恋人」

の四つ。わかるーーーー!!!わたしもこれらの歌詞、大好きです。

でもaikoの歌詞の魅力はこれだけではないんです、というわけでaikoジャンキーの私が大好きな歌詞をそのシチュエーションも含めてたくさん紹介していこうと思います。


まず、aikoの歌詞に通底している「あなた」についての一つの観念。それはあなたが「痛い」存在で「心の傷」のような存在であるということ。

下唇痛いほど噛んで覚えておこう あなたに触れたときは心の擦り傷のよう
「キスの息」
眠っていた心の中に些細な些細な小さな傷いつの間に
その隙間から溢れて来るのはあなたの名 優しく強い目 指 すべてに気づかされる
「横顔」

誰かを好きだと思ってしまったが最後、その人はただ単に一緒にいて楽しい存在ではなくなって、思い出したときに、甘い感傷とともに微かな痛みが同時に蘇る存在になってしまう。そしてその痛みこそが恋の始まりのしるしであるのだ。

そして恋の最初の段階では、「あたし」は「あなた」の一つ一つの言動に胸を高鳴らせ、その甘酸っぱいときめきを存分に味わう。

言いたいことが言えなくてもあなたの言葉に頷くだけで嬉しかったの
「明日の歌」
恋をすると声を聞くだけで幸せなのね
「二時頃」


しかし、時を重ねていくにつれて「あたし」にとって「あなた」は神様のような絶対的な存在へと膨らんでいき、「あたし」の心を絶え間なく締め付け不安で埋め尽くすようになる。焦がしすぎたカラメルは苦くなるし、熟しすぎた果実は腐って落ちるしかないのだ。

あなたがあたしのことをどう思っているのかそれはそれは毎日不安です
あたしが今日を楽しく生きていく匙加減もあなたが握っている
「Aka」
病んだこの小さな胸はさようならと言われないかと
我慢してるこの瞳は涙流さずにいられなくて
「水とシャンパン」
さようならあなたに言われたらって涙で静かに月が溶けた
「月が溶ける」
崩れる音聞いてあなたがやって来てくれるのなら
大きな音立てて心を一度無しにしてもいい
「サイダー」
心があなたのことで全部埋まってしまった 夢見る隙間も残ってない
「夢見る隙間」
出会えたことで使いきったんだよ
「格好いいな」


さようならを想像しただけで涙が滲み、心の中で夢見る隙間すらなくなってしまうような、そしてその心すら壊してもいい、出会えたことで使い切ったと思わせて来るような、こんなにも強烈な「好き」、やはり呪いだ。というか、呪いだからこそ恋愛感情なのだろう。呪いじゃない「好き」なんて、友情で十分事足りるじゃないか。

君の近くであたしはつい居眠りをしてたのかなぁ
だから気付かなかった 海の終わり
「海の終わり」


それでもどんな「好き」にも、終わりはやって来る。果てのないと思えた海にも、彼岸が存在したみたいに。そして消化されないまま体の中にヘドロのように残った想いは、吐き出せないまま呪いとなって私たちを縛り付ける。

降った雨と一緒に流れたあなたの味と匂いはあたしの気持ちだけ置いていってさ
手を入れて掴んで持って帰ってよ
「舌打ち」



でもaikoの歌詞を読んでいて思うのが、結局この「呪い」っていうのは、相手に対する呪いのように見せかけて、自分で自分を呪ってしまっているのだろうな、ということ。「こんなにも相手を好きだった私」への呪い。

痛い背中覚えてたい 絶対に忘れたくない
「瞬き」
悲しみから逃れるために噛んだ腕に赤い散らばったこんぺいとう
「こんぺいとう」


恋をしたときに相手を通して自己愛を実現しようとしたのと同様に、失恋をすると相手を通して自分に呪いをかける。だって、相手をどんなに「嫌い」と思い込んでも、結局嫌いになんてなれないのだから。

まだ空が綺麗すぎて涙が出るくらい
あたしはまだあなたのことを好きで好きで好きで
「蝶の羽飾り」
これはあなたの歌 好きなあなたの歌
「明日の歌」
だけど一生想うだろう 本当は大好きなの
「明日もいつも通りに」
雲は晴れないあたしの真上 風は止まないあたしの胸 
まだ好きで…どうしよう
「September」

ぱちんと電気を消すみたいに、気持ちをゼロにできるスイッチが存在すればいいのだけど、そんなものはこの世界に存在しない。そんな世界で相手の代わりに憎むのは、相手に愛されなかった自分だ。自分で自分を否定して生きていく地獄へと突き落とす存在、それが失恋なのだ。


それでも、ゆっくりゆっくり時間をかけて、規則正しい当たり前の日常を静かに積み重ねて、その中でだれか他の人を愛したり、夢を密かに叶えたり、そうしたら自然と「呪い」は解けていく。

あたしの消えぬ想いは宝物の石に変わる
「深海冷蔵庫」
あなたはもう知らない人で一人で歩いてる あたしも前を向き笑っている
今夜宇宙で息をして
「宇宙で息をして」

いつか心の底から愛した「あなた」は知らない人になって、「あたし」も笑って、温度を変えた気持ちは心の中で輝く石となって、その色を楽しめるような、そんな宇宙で息をするくらい不可能だと思っていたことができるようになる日が、いつか、きっと来る。

そう信じられるようになったという点から、私にとってこの「宇宙で息をして」は光のような曲だ。


5年後あなたを見つけたら背筋を伸ばして声をかけるね
一度たりとも忘れたことはない 少し伸びたえりあしを あなたの下手な笑顔を
「えりあし」
声を聞いて泣きそうになるけど何故だかわからない
もう戻れない悲しみなのか出会えた喜びなのか
気付かないように 気付かれないように
「気付かれないように」

それでもきっとそんな相手に何年か後に再会してしまったら、背筋を伸ばして声をかけた上で、きっと泣きたくなってしまうのだろう。結局気持ちなんてものは、分散するだけで0%まで消滅するなんてことはないのだ。そうやってどうしようもない気持ちを飲み込んで、それでも前を向いて生きていくのが、人生というものなのだろう。


というわけで、「呪い」なんて言い方をしたけれど、これはいわば恋愛におけるありとあらゆるどうしようもない強烈な想いのことを指していて、aikoはそんな気持ちを掬い取ってくれる唯一無二のアーティストなんだ、ということです。私も自身を呪いたくなってしまったとき、幾度となくaikoの歌に救われてきました。

個人的には、恋愛感情というものはれっきとした呪いのような存在だと思っています。想いに対する考え方は人それぞれですが、このaikoの詩を「メンヘラw」と笑える人は、なんとなく友情の延長で恋愛をする人で、私やaikoとはタイプが違うんだろうなぁ、とも。

ちなみに私の一押しアルバムは『泡のような愛だった』で、一曲目から容赦のない失恋ソングの詰まったアルバムになっています。

そして来月、aikoのベストアルバム『aikoの詩。』発売です!私は留学中ですが家族に買っといてもらうつもりなので、皆さんもぜひ手にとってみてくださいねー!(宣伝したよ、aiko!)



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