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歪な半月

 今年の晩秋は夜が長いな、と思った。
 寒々とした空気にストーヴでは届かない。
 しゅんしゅんとケトルが蒸気をあげているけど、それは窓の内側に水滴になっている。号泣している顔になっているので、カーテンでふさいだ。
 夜中なのに無性にピザをつまみたくなる。
 といっても・・・

 朝から地下鉄を乗り継いでいく。
 埃っぽい歩道をブーツで蹴っていく。
 マフラーを手放せない風が巻いていた。
 
 前菜を選びながら愉しんでいると、Half&Half仕立てのピザが届けられた。半分がマルゲリータ、半分がチーズのセレクトにした。
 青い目のボーイが目の前で切り分けてくれるときに、ウィンクをくれたけど気づかない振りをした。ひとりで入るには勇気のいるビストロ。
 昨年の秋までは二人で一枚ずつ頼んでシェアをした。
 こんな手間のかかるものを厨房に頼んでいない。

 わたしの赤の領域に、彼は土足で踏み入れようとした。
 わたしも白の領域を、赤に染め上げようともがいてた。

 黙々と千切りながら食べ進めるけど。
 初めから切れ込みがあったことも判るけど。
 出来上がったのは。
 やっぱり歪な形の半月。
 

 
 

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