今や名を知らぬ人はいない日本を代表するアニメ監督、新海誠監督ですが
「君の名は。」が発表される以前からファンだった層の割合は昨今では最早相当少なくなっていってる感がありますね。
わたしは「君の名は。」が「新海監督新作長編映画制作決定！」レベルの粒度の情報だった頃は既にファンでした(マウント)。
3月4日19時の岩舟駅に、作中のお弁当を再現して作ったやつ持って行ったこともあります。おにぎりもあの大きさで作った。

そんな新海監督の2013年公開作品「言の葉の庭」がこのほど舞台化されたとのことで見てきました。新海監督作品の中でいちばん好きなのでめちゃくちゃ嬉しい……

個人の感想なので本来の演出意図と乖離した発言しているかもしれませんがご了承を。
あと一応、今回も感想にはめちゃくちゃにネタバレを含みます。

いや素晴らしかった本当に見てよかった……！！

新海監督作品、絵の綺麗さが殊更注目されがちだし実際綺麗なんですが
監督の作品の特徴として、人間の孤独、喪失、淋しさ、遣る瀬無さみたいなのを描かれてるところにあるのですよね。
アニメでは割とタカオとユキノの2人にわかりやすくフォーカスしてますが
監督著の小説版言の葉の庭では、各々が抱える孤独や屈折を登場人物全員分を個別の章に分けて書かれております。それこそまさに、この話はタカオとユキノのシンプルなラブストーリーというより、各々が孤独に悲しむ模様を描いた話なのです。
なので今回、タカオのお兄ちゃんや、アニメでは割と記号的なイヤなキャラになってた相澤や伊藤先生も小説版に沿ってメイン所として取り上げられてて嬉しかったです。
相澤は本当にアニメと小説で見方が変わる子なので……全体の元凶なのは間違いないけど、本当にただ拠り所を求めて右往左往してただけの可哀想な子なんだよ……

原作のある舞台作品は往々にして、原作の要素を如何に取り入れて原作ファンにもご納得頂けるように作るかみたいなことになりますが
新海監督作品だからって単純に風景描写の美しさを徒に論いはせず、作品の中のストーリーというか物語の本質的な点にフォーカスして
且つ舞台作品として最高の形で適切に昇華するにはどう演出したらいいかが追求されたすばらしい舞台だった。
見る前は正直、本編の背景画をそのままスクリーンに映されたらどうしようと思ってたので……別にそれが悪いわけではないですが……

今回面白かった演出として、上手側の手前にミシン風の形に固定されたライブカメラが置かれてたんですが
その場で、所謂墨流しというか、数cm程度水を貼ったトレイに絵の具を垂らして息を吹きかけて水面の上に模様を作る作業をしてる人がいて
水面の上でインクが広がり揺れる様子の映像を背景のスクリーンに映していたんですよ。
私の語彙だと状況が全然伝わらないな。
言の葉の庭に於いて重要なファクターとなるのは当然雨ですが
舞台では雨をはじめとする水そのものを、全般に心理描写の媒体に据えて演出されておられた印象ですね。
この墨流しも、それぞれが浅い水の中を足を取られながら進む様子が各々違う色のインクで表されて、水の中に広がる模様は各々の心中に渦巻く混沌としてスクリーンに映されてたことでしょうねきっと。
こんな演出初めて見た、感動しました……

あとはエモ舞台演出に欠かせないのはやっぱり布ですよね～
揺蕩わせて良し覆って良し絡まらせて良し包んで良し。
布と一緒くたにしていいかわかりませんが、豪雨のシーンは凄かった。
薄い半透明のビニールぽい幕を、手前に主演2人を残して緞帳よろしく下ろすのですが
後ろから風を当てて大きく膨らませることで、自分を取り巻く環境たちが豪雨を降らせる暗雲になって自分達の居場所を侵してきて、2人で小さな東屋に逃げてきた雰囲気をすごい感じました。
「わたしたち、川を泳いで渡ってきたみたいね」って台詞もそういうことですからねきっと。確かそういう意図だって何かで見た気がする。

墨流しとか布の他にも、人物の心境や時間の経過や新宿の雑踏が色んな方法で表現されてて
見る前に想定してた以上にアンサンブルキャストさんもいて
舞台という別メディア展開をした意義のある、
絵の美しさだけじゃない、新海監督の描かれる人物描写というか世界観の解像度が上がるすばらしい舞台でした。

大楽は生配信もあるらしいです！！
でも現地でもう1回ぐらい見たいな。

※ 舞台『言の葉の庭～The Garden of Words～』