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[小児科医ママが解説] 胃腸炎のときこそ、ジュースが大活躍?!


前回は、お子さんのジュースのとり方について、世界の学会や公式団体の見解をもとに、記事にしました(記事:子どもとジュース。1日にどれくらい飲んでいいの?便秘には効果ある?)。

ジュースは適切な量を守った上で、あまり飲むこと自体が習慣化しないように、というメッセージでした。

ところが胃腸炎のときは例外、私たち小児科医も、場合によっては「ジュースを飲んでください」ということがあります。

今日は「胃腸炎のときのジュースは、本当に効果があるのか」を見ていきたいと思います。


「軽症」の胃腸炎なら、りんごジュースも悪くない。

胃腸炎に、薄めたりんごジュースがいいんじゃないか。
2016年に発表された論文が少しニュースにもあり、ご存知の方もいるかもしれません。

"Effect of Dilute Apple Juice and Preferred Fluids vs Electrolyte Maintenance Solution on Treatment Failure Among Children With Mild Gastroenteritis: A Randomized Clinical Trial."
(JAMA. 2016 May 10;315(18):1966-74.)
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/10.1001/jama.2016.5352

6ヶ月~5歳の600人以上のお子さんを対象とした、カナダの研究です。

軽症の胃腸炎の子に対して、りんごジュースを飲んだお子さんと、経口補水液を飲んだお子さんを比べています。

すると、りんごジュースを飲んだお子さんのほうが、のちのち再受診や点滴などが必要になった割合が少なかった、という報告です。

※正確には【病院にいる間:2倍に希釈したリンゴジュース、退院後:好きな飲み物(ジュース、牛乳、スポーツドリンクなど)】のグループと、ずっと経口補水液だけのグループ、とを比較しています。


これは別に経口補水液がわるいとかそういうメッセージではありません。
「軽症の胃腸炎なら」むりやり経口補水液でなくても、ジュースをうまく少量・頻回にとることで、胃腸炎の悪化をふせげるのでは、というメッセージです。

そもそも経口補水液という概念がうまれたキッカケとして、コレラという重症の脱水をひきおこす病気だったり、そういった疾患がはやりやすい発展途上国だったり・・・といった背景があります。

経口補水液のほかにも、胃腸炎のときに役立つ飲み物があるのでは?という考えから、こうした趣旨の研究になったのかもしれません。


強みは、飲みやすさと糖分。


一般的な経口補水液とくらべて、ジュースの圧倒的な強みは、やはり飲みやすさでしょう。
実際に外来でも「(胃腸炎のお子さんに)イオン水や経口補水液をあげてみたけど、全然飲んでくれなかった。」という声をよく聞きます。

WHOや欧米・米国の小児科学会が推奨するナトリウムの濃度(Na 40~75 mEq/L)は結構しょっぱめです。飲みやすい味に工夫されていたり、ゼリー状にして塩の感じをやわらげていたりされていますが、やはりジュースの飲みやすさに比べると・・・というのが現状です。

胃腸炎で、普段より食事や水分をうけつけない状況で、少しでもお子さんがすすんで口にしてくれるものがある、というのは親御さんにとっても大きな安心材料になりますよね。


弱みは、ナトリウムの低さと、高い浸透圧(下痢)。


「飲みやすいナトリウムの低さ」を逆手に取ると、ジュースを飲んでもナトリウムは摂取しづらい、ということになります。これはつまり、脱水を補正しにくい、ということです。

体に水分をとりこむときは、ナトリウムが大切な働きをするので、水だけではなく、ナトリウムをしっかり一緒にとらなくてはいけません。

経口補水液として推奨されているナトリウムの濃度にくらべると(Na 40~75 mEq/L)、ジュースのナトリウムの濃度はかなり少ない(おおくても4mEq/Lくらい)、あるいはゼロの場合もあります。

※今回は乳幼児用のりんごジュースを参考にしています。(元気なリンゴ、ピジョンりんごジュース、それいけ!あんぱんまんの完熟りんご、幼児りんご)

※ちなみに乳幼児用のイオン水のナトリウムも、経口補水液に比べれば十分ではありません(Na 21~35 mEq/L)。が、ジュースよりは高い値です。(下記を参考にしたNa値です:すっきりアクア、アクアライト、アクアライトORS、ビーンスターク ポカリスエット、ピジョン イオン飲料)


上記の研究・論文でも、あくまで「軽症の」胃腸炎を対象にしていたことに注意しましょう。

医学的に「軽症」の胃腸炎というと、尿もまだそこまで減っていなくて、体重の減りも3~5%未満、なので点滴の治療もいらなそうだな、と判断する状況です。
まぁそもそも水分を(吐かずに)飲める、という時点で、軽症の胃腸炎なんですよね。

なので、ジュースで脱水を補正する!という考えはしないほうがいいです。まだそこまで脱水になっていない状態だから、せめてここから脱水や全身状態がわるくならないような手助けとして、ジュースが1つあるよ、というニュアンスです。


もうひとつの弱みは、高い浸透圧です。

前回の記事でもお伝えしたとおり(記事:子どもとジュース。1日にどれくらい飲んでいいの?便秘には効果ある?)、ジュースには高い糖分が含まれており、これが下痢の原因にもなります。

実際に、経口補水液として推奨されている糖分の量(ブドウ糖13~25 g/L)に比べて、ジュースに含まれる糖分は非常に多いです(100~148 g/L)

糖分が急にお腹に届くと、浸透圧の高さから、下痢を起こします。ただでさえ胃腸炎で下痢をしている中で、余計にお腹に負担が掛かる可能性があるのです。



胃腸炎のときのジュースは、2~3倍に薄めて


そのまま飲むと下痢をしやすいし、めちゃくちゃ脱水が補正できるわけではない。
でも飲みやすいから、体調がわるいときにちょっとでも飲んでくれたら嬉しいし、点滴が必要になる可能性を下げられるかもしれない。

そんなジレンマを解消する方法が、ジュースを2~3倍に薄めることです。

多すぎる糖・そこからくる下痢を防ぐために、ジュースを薄めます。
経口補水液として推奨されている糖の濃度や、浸透圧に近づけるためには、一般的なジュースを2~3倍薄めるとまずまずの値になります。

先ほどの研究でも、お子さんが病院にいる間に飲んでいるりんごジュースは、2倍に薄めていましたね。



ガブガブ飲めないにしても、やはり何かしらの方法で糖分がチビチビとれるのは、軽症の胃腸炎の時に非常に大事なアプローチです。

お子さんは血糖の予備能がすくないので、大人に比べて、低血糖になりやすいです。
低血糖になると、体が飢餓状態のエネルギー産生モードになり(ケトン体を生み出すようなモードです)、それでまた余計に気持ち悪くなり・・・の悪循環になります。低血糖も重症になると、意識障害になることもあります。

救急外来で、胃腸炎でぐったりして来院されたお子さんで、血糖をはかってみたら20~30mg/dLくらいしかない(正常なら60~70 mg/dL 以上はあります)、ということもしばしばあります。

聞くとほぼみなさん、食事が取れない状況で、水やお茶がいいと思って飲ませていたけど、それ以外の飲み物は飲ませていなかったというケースが多いです。

水やお茶が悪いわけではないのですが、こういうときは少しでも血糖を保つことが大事です。
イオン水や経口補水液が飲めたらこしたことはないですが、受けつけてくれないようなら、薄めたジュースを積極的に取らせてあげてください。

ほかには野菜スープや味噌汁といった、塩分を含むものもとれると、なお良いです。
これは胃腸炎のときだけでなく、風邪などで体調がわるくて、食事がすすまないとき全般に通じる考え方です。



いかがでしょうか。

私たち小児科医も、外来で吐いているお子さんを見るのは本当に心苦しいです。また、親御さんが家でさぞ大変だっただろうと思うと、なんとかしてあげたい気持ちでいます。
子どものゲロ処理・ゲロ浴び、まじで地獄ですよね。

ただ現実問題として、胃腸炎の症状のあるお子さんすべてに点滴をしてあげられる物理的な状況にはないですし、なかなか気軽に受診できないものですよね。


正しく使えば救世主になりうるジュースと、普段からうまく付き合っていくヒントになれば幸いです。

(この記事は、2023年1月26日に改訂しました。)

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