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[小児科医ママが解説] SIDS【vol.1】”うつぶせ寝”は本当に悪いのか。すぐ寝返っちゃうんだけど、どうしたらいい?


SIDSのリスクだから、うつぶせではなく、あおむけに寝かせましょう!というのは、親御さんたちもよくご存知のとおり。

でも早いと、生後3ヶ月くらいから寝返りを覚えてしまう赤ちゃんもいます。「寝ている間にすぐ寝返っちゃうんですけど、どうしたらいいですか?」「一晩中、寝返って窒息するんじゃないかって心配で・・・親が寝られません。」という声をよく聞きます。

寝返りが、SIDSにどこまで関係しているのか。すぐ寝返っちゃうお子さんに対しては、どうしたらいいか。こんなことを、科学的根拠をもとに書いていきたいと思います。


SIDS連載すべてにおいて、共通の参考文献はこちら。

●AAP(米国小児科学会)
"SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Updated 2016 Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment"
(Pediatrics. 2016 Nov;138(5). )

●UptoDate
"Sudden infant death syndrome: risk factors and risk reduction strategies"
https://www.uptodate.com/contents/search

●厚生労働省
「乳幼児突然死症候群(SIDS)について」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/sids.html



たしかに、うつぶせ→SIDSのリスクは高い。横向きも同じくらい危険。


アメリカで1990年代に「back to sleep キャンペーン」つまり、あおむけで寝よう!というキャンペーンが行われました。

すると、SIDSでお亡くなりになる赤ちゃんの数が、1993年には4700人だったのが、2010年には2063人まで減少しました。
うつぶせが、SIDSに大いに影響がありそう、というのはここからスターとしています。

こうした背景をふまえ、AAP米国小児科学会では、少なくとも1歳までは「昼も夜も、あおむけ寝で!」と推奨しています。


※以下、様々な論文を引用しています。SIDSという疾患概念や、研究の特性上、基本的に「odds ratio(オッズ比)」という値で、リスクを検討しています。これは単純に、「オッズ比が8=SIDSになりやすいリスクが8倍」というものではありません。オッズ比が1をこえていれば、その時点で、その要因が「何らかの割合で」リスクになりうるということしか解釈できません。そのため、回りくどい言い方になっていますが、これは統計学的な情報上、致し方ないものと思ってご了承ください。


実際に、うつぶせ寝をしているお子さんは、うつぶせ寝をしていないお子さんに比べて、オッズ比が2.3~13.1といわれています。
(①Pediatrics. 2003;111(5pt 2):1207–1214 ②Am J Epidemiol.2003;157(5):446–455 ③BMJ. 1999;319(7223):1457–1461 ④BMJ.1996;313(7051):191–195 ⑤Lancet. 2004;363(9404):185–191)。

(つまり①うつぶせ寝をしているお子さんがSIDSになってしまった割合②うつぶせ寝じゃないお子さんがSIDSになってしまった割合。
①÷②の値が、2.3~13.1ということです。)

じゃあうつぶせ寝じゃなくて、横向き寝はどうか。実は、横向き寝も、うつぶせと同じくらいSIDSに関連しているといわれています。
1つの研究報告では、横向きの場合はオッズ比が2.0、うつぶせの場合はオッズ比が2.6で、いずれもSIDSのリスクがあるという結果でした。
(Am J Epidemiol.2003;157(5):446–455)

(つまり①横向き寝をしているお子さんがSIDSになってしまった割合②横向き寝じゃないお子さんがSIDSになってしまった割合。①÷②の値が、2.0ということです。うつぶせ寝の場合も同様。)


しかも「寝かしつけの時は横向きにしたけど、次にみた時にはうつぶせだった」という状態が、特段にSIDSのリスクを上げるのでは、という報告もあります。
この場合は、最初からあお向け寝だった場合と比較して、オッズ比が8.7で、やはりSIDSのリスクだろうという結果です。
(Am J Epidemiol.2003;157(5):446–455)

(つまり①横向きで寝かしつけた子がSIDSになってしまった割合②最初からあお向け寝だった子がSIDSになってしまった割合。①÷②の値が、8.7ということです。)


うーん、やはり、うつぶせ寝は、避けられたら避けたほうがいい。
しかも、横向き寝は、うつぶせ寝と同じくらい・あるいはもっと危ない危険性がある。

そんなデータが出ているんですね。


うつぶせ→SIDSのメカニズムは不明な点が多い。


ではなぜ、うつぶせがSIDSにつながるのか。

結論からいうと「まだ不明な点が多いので、絶対的なメカニズムはまだわからない」というところです。

ただし、うつぶせは”overheating”、つまり必要以上の過剰な体温上昇をもたらすことが考えられています。
体温が上昇しすぎることで、副交感神経が優位になるなどして、心拍数が低下することが、SIDSにつながる一つの要因では?といわれています。
(①Early Hum Dev.1995;43(2):109–116 ②Early Hum Dev.2009;85(8):497–501)

またうつぶせ寝は、とくに生後2~3ヶ月のお子さんにおいて、こうした睡眠中の心臓・血管系に影響を及ぼすということも言われています。(Sleep.2008;31(8):1139–1146)

詳細なメカニズムは不明だけれども、SIDSが多い生後2~3ヶ月は、うつぶせがSIDSのリスクによりなりやすい時期でもあることはわかっているようです。


・・・でもみんな、うつぶせ寝が好き。


寝かしつけた時には、あおむけだったはずなのに、次にふと見たら、うつぶせになっている

多くの親御さんが経験していると思われますが、実際、多くの赤ちゃんが「うつぶせが好きそう」というデータがあります。

最初はあお向けや横向きに置いたのに、次に見たときにはうつぶせになっているという割合は、生後16~23週(およそ4~6ヶ月)の赤ちゃんで6%(あお向け→うつぶせ)や12%(横向き→うつぶせ)。
さらに、生後6ヶ月以上になると14%や18%とさらに増える


という報告があります。(JAMA. 1998;280(4):329–335)


「しかも、うつぶせだと良く寝てくれるんですよね~・・・。」というお悩みの声、非常によく聞きます。
実際に世界のお子さんたちも、うつぶせ寝が好きそう、という報告は結構あるんです。

「背中を寝床につける姿勢は、赤ちゃんにとっては不愉快で、よく眠れないんじゃないか」と世界のママさんたちが認識していることは、複数の論文でふれられています。
(①J Natl Med Assoc. 2010;102(10):870–872,875–880 ②Am J Health Behav. 2007;31(6):573–582 ③Arch Pediatr Adolesc Med.2010;164(4):363–369 など)

うつぶせ寝にすると、起きにくいな、という感覚も、世界共通のよう。(①Pediatrics.2006;118(1):101–107 ②J Perinatol.2006;26(5):306–312 ③Sleep. 2006;29(6):785–7901 など)。


が、実は「起きる」能力は、生き抜くために非常に大事ともいわれています。
ストレスに打ち勝って、睡眠中であっても自発的に起きて、そのストレスをリセットする生物学的な能力が大事なようです
(①Sleep.1992;15(4):287–292 ②Am J Respir Crit Care Med.2003;168(11):1298–1303 など)。


赤ちゃんにとって、睡眠は大事。なるべくぐっすり寝かせてあげたいし、親としても寝てくれたほうが助かる!赤ちゃんも、うつぶせ好きそうじゃない?
でも起きる能力も大事みたいだし、やっぱりうつぶせ危ないんだよね。もうどうしよう。そんなジレンマがでてくるわけです。


「寝返り返り」ができたら、うつぶせ寝も許容範囲内。


そこで「寝返り返りができるようになったら、赤ちゃんが自然になった体位のままにしてもいいかもね」という見解があります。
(Pediatrics. 2014;134(2).)

またこれは医療者へのアドバイスですが、「(睡眠中の寝返りによるSIDSをおそれる保護者にたいして)SIDSは一般的には、生後4ヶ月以後から減少してくることを伝えることが大事」という見解もあります。


寝返り返りがいつできるようになるかは、神経学の清書をみても、あまりはっきりしたマイルストーンはありません。
寝返り返りは、(首がすわる、などとは違って)、正常に育つ上で絶対に必須な発達ではないからです。つまり生後何ヶ月からできるようになるかは、かなり個人差が大きいです。

生後3ヶ月くらいから寝返りはし始めたけど、結局、寝返り返りしないまま1歳でもうつかまり立ちしてそのまま歩き始めた。
みたいなお子さんもいれば、生後9~10ヶ月くらいになって、急に寝返りと・寝返り返りを同時くらいにし始めた、みたいなお子さんもいます。

実際に外来では「寝返りができるようになったけど、寝返り返りがまだできない。」だから「寝ている間にうつぶせになってしまって、泣いてしまう」あるいは「そのままうつぶせで寝てしまって、親が心配で寝られない。」というようなご相談が多いです。

基本的には、寝返りができていて、ほかの発達も定型どおり、そのほかものすごい早産とか、SIDSのほかのリスクがあるお子さんでなければ、「寝返ってもお子さんがそのまま寝ていれば、良しとしましょう」と伝えています。

「ひと晩中、親御さんが起きていて、お子さんが寝返るたびに、あお向けに戻してくださいね」というのは、もちろんSIDSの観点からいえば完璧な対応ですが、そんなこと毎日してたら、親御さん倒れます。

なお、保育所や、ベビーシッターなどでお子さんを預かるような機会では、徹底的に、うつぶせ寝は厳禁とされています。(厚生労働省「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン

もちろん親御さんや先生・シッターさんとの間で、上記のリスクをふまえたうえで、うつぶせ寝をさせるのであれば、私たちにとめることはできません。

しかし子どもをうつぶせ寝にさせることに、何の抵抗なく「はいはい、いいですよ~」というような保育所やシッター会社がもしあれば、お子さんを預けることを考え直したほうが良いです。その他の安全対策にも大いに懸念が残ります。


とにかく、ほかのSIDS対策をしっかりする。


寝返っちゃったら、もうしょうがない。そう自信をもって割り切るためには、SIDSのために他にできる対策を、とことん徹底することです。

SIDS防止のためにできることリストは、前回の記事にもアップしましたので、参考にしていただけたら嬉しいです。
(記事:【SIDS(乳幼児突然死症候群)の連載をはじめます】知ることは、安心につながる。

とくに、寝返りができるようになってくるであろう、生後4~12ヶ月において、「睡眠関連死」のリスクに何があるかを検証した研究があります(これはSIDSに限らず、窒息なども含めた、一般的な「睡眠関連死」についての研究です)。
この報告では、お子さんが寝がえったあげく、さらに睡眠環境にあったほかのもの(おもちゃなど)に転がり込んでしまうことが、睡眠中の死亡につながりやすいことがわかっています(Am J Epidemiol. 2006;163(8):762–769)。

言われればそりゃそうだろ、って感じですが、ベビーベッドに、遊んだあとに片付け忘れたオモチャ、残っていませんか?おしゃぶり、入ったままになっていませんか?赤ちゃんのお布団、おもすぎませんか?

そもそもSIDS対策としては、布団も枕も、ベビーベッドには入れないことが推奨されています。

あらためてチェックすることで、うつぶせで寝ることへの不安を少しでも和らげていきましょう。



「起きている間の」うつぶせ練習は、立派なSIDS対策。


前回の記事でもふれましたが、「起きている間の」うつぶせ練習は、SIDS防止策の一つに挙げられていましたね。赤ちゃんがしっかり起きていて、保護者もしっかり見ている状態で”tummy time”(うつぶせ)の時間をしっかりとる。これは立派なSIDS対策です。

実際に、普段からどれだけ「うつぶせ」の姿勢そのものに慣れているか、という点は、SIDSにおいて実は大事なようです。
普段からうつぶせに慣れていない児が、偶然がかさなって急にうつぶせになってしまったときが、SIDSのリスクが非常に高いと言われています。

実際に、うつぶせに慣れていない子が、寝ている間にうつぶせになってしまった時は、オッズ比が8.7~45.4で、やはりSIDSのリスクであるという報告があります。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK513386/)

(つまり①うつぶせに慣れていない子でSIDSになってしまった割合②うつぶせに慣れている子でSIDSになってしまった割合。①÷②が8.7~45.4ということです。)


また、うつぶせ時間をとることは、絶壁などといった頭のカタチの対策にも良い、というのは以前にも書きました。
(記事:頭のカタチ【Vol.3】”様子を見て”と言われた時、ひとまず家でできること。ドーナツ枕は使わないで。

SIDSの対策として、どれくらいうつぶせの時間をとったらいいかは、決まった見解がありません。
が、頭のカタチ対策としては、1日3~30分くらい、うつぶせの時間がとれたらいいのでは、という見解があるので、一つの参考になるかもしれません。(Dtsch Arztebl Int. 2017 Aug 7;114(31-32):535-542)


いかがでしょうか。


やはりうつぶせや横向きといった姿勢は、あお向け寝とくらべると、SIDSのリスクが高そうです。しかし、赤ちゃんが寝返ってしまう。

そんなときは、ほかの睡眠環境をしっかり安全に整えてあげて、寝返っても仕方ない!良しとしよう!という見解でした。
(もちろんできれば1歳までは、あお向けでなるべく寝られれば、それにこしたことはないです。)

いつ呼吸が死ぬか・止まるか・・・とビクビクしながら寝ている赤ちゃんを見続けて寝不足になるよりも、起きている間に、ママやパパのお腹の上に、赤ちゃんをうつぶせにしながら、tummy timeを楽しむ=SIDS対策としてできることをする

そんな時間の使い方を、無理なくしていただけたらうれしいです。

(この記事は、2023年1月30日に改訂しました。)


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