見出し画像

名前のない物語〜この恋は永遠だと信じてた〜②

「オイラ、初めてのキスは10歳!酔ったおじさんだったよ!」
「...アクシデントだろ」
「そうなの!おじさんがすっごく酔っ払ってて、立ち上がるの手伝おうとしたら、バランス崩して倒れて、ぶっちゅーって!」
「やだー!キモイー!」

ジャサナは10年ほど前に経験した忘れられない恋物語について話していた。
皆暖炉の前に集まり、アカリはウィスキーを飲み、アカリの膝を枕にして寝転がるクルト、ルイとサクラは結界魔法で仲間を守りながら、魔法で作った雲のようなベッドの上で果物をかじりながら寛いでいた。
ジャサナは仲間たちを見回し、思った。フラウとの出会いを語れる程、打ち解けた人がいるとは、なんと幸せなことだろう、と。

格式高い家系と有名だったゴシック家は今や昔の話。リキシ・ゴシックの弟で強欲なファト・ゴシックがドームに入りたいが為に財産を使い果たし、ゴシック家に関わるほとんどの者たちは殺されたか、ドーム内に収容された。この事件が起きた時、17歳だったジャサナは幸いにも参謀官の見習いとして国境まで遠征していた為、難を逃れた。

早馬でゴシック家に起きた不幸を知ったジャサナの行動は早かった。
リキシ・ゴシックから教えられた、家族だけが知っている山奥の隠れ家に向かった。
隠れ家を提供してくれるのは、リキシと長い付き合いのある山賊のクロウ一団。
ジャサナは姉妹の中で一番サバイバル生活に慣れたお嬢様だった為、優雅な生活を捨てることになんの躊躇もなかった。
常に男性の求める淑女を演じることよりも、ありのままの自分でいられる山賊達との暮らしの方が性に合っていたのかもしれない。

「それで、それで!ジャサナさんとフラウさんはどうなったの?!」
「あ、あぁ...」

フラウとの恋の記憶から、家族がバラバラになってしまったことについて思い出していると、クルトに続きを話すようにせがまれ、ジャサナは現実に戻ってきた。
目を閉じて一つ深呼吸をし、甘い記憶を言葉にしていく。

*****

「なんて美味しいんだろう、君の唇は...」

激しいキスを終えたフラウは、ジャサナの顔を手で包み込み、熱い瞳で見つめた。
ジャサナの心も高ぶったまま、フラウを見返した。

「えっ...?」
「濡れてる...分かるかい?」

気がつくとフラウの左腕に腰を抱かれ、右手はするりとドレスを超えて女性の大切な所に触れていた。
初めて他人に触られたことに驚き、ジャサナにとっては何が起きているのか理解出来なかったが、イケナイ世界への扉を開けようとしている...そんな感覚は12歳でもあった。

「んっ...はぁっ...」

再び塞がれた唇は、フラウに襲われるまま食べられ、そして下着の上から大切な所をいじられ、こねくりまわされ、お茶会をサボっていること、初めてのイケナイこと、女性同志のキス...
子どもの作り方をあまりよく理解していない12歳のジャサナにとって、あまりにも過激すぎる状況だった。

「あぁ...なんて可愛いんだ、ジャサナ...こんなにも濡らして淫らだ...」
「やっ...あぁ!」

下着をずらされ、直に触られると、まるで全身に電撃が走り抜けていくような感覚になった。自分の意思ではなく、何かに突き動かされるように体がビクン、ビクンッと跳ね上がった。

「あぁ...達したんだね、ジャサナ...僕がもっと気持ち良くしてあげる」
「...えっ...?」
「ジャサナ!ねぇジャサナ!どこにいるの!」

初めて性の高ぶりによって達したジャサナを見たフラウは獣のように息を荒立て、自身のモノを挿入しようと下半身を露わにさせた。
小ぶりだけど柔らかな胸がある。
そして、男性と同じ性器がある。
今まで生きてきた世界では考えられない目の前の光景にショックを受けると同時に、妹のマリナの声が聞こえてきた。
サボっているのがバレてしまったようだ。

「...行きなよ、ジャサナ...僕のことなんか忘れて...」

ジャサナの両手首をガッシリと掴んだフラウの手は柔らかな女性のものなのに、男性のような力強さを感じた。
一体、目の前にいる存在はどういう者なのか、疑問が止まらない。

「離して、フラウ...また後で続きをしましょう?真夜中の鐘がなったら、ここで会いましょう?」
「...うん!」

マリナが呼んでいる間にお茶会に戻らないと、ヤライのスモアも食べれない、いやもうサボったことがマリナを通して伝わるはずだから食べさせてくれないかも...そんなことを考えながら、フラウから離れ、茂みの中から立ち上がった。

「ごめん、マリナ。サボってた」
「ジャサナ!ようやく見つけた...え?」
「え、何かおかしい?」

こちらを見て驚いた顔を見せるマリナの姿に、ジャサナの心臓はドクドク鳴り始めた。もしかして、フラウの存在がバレて、親へ報告され、お仕置きされるのではないかと早くも怯え始めた。
だが、ジャサナの予想とは違った展開があった。

「ジャサナ様、やっぱりこんな所に隠れてたんですね!あら...あらあらまぁまぁ!大丈夫ですからね、心配なさらなくても!痛くはないですか?歩けますか?」

マリナと一緒にジャサナを探していたヤライは、ジャサナを見つけた瞬間怒ったものの、すぐ優しい表情を見せた。
そしてガウンを着るように言われ、言う通りにする。‘痛くはないですか’と聞かれたのが引っかかた後、下着が濡れてしまったことを思い出した。
そして、腹部を押されるような鈍痛が始まった。

「っ...」
「あら、痛みがあるんですね、ジャサナ様。大丈夫ですよ、生理の時期だけですからね、その痛みは」
「せい、り...?」

突然湧きあがった腹痛に足元が崩れそうになったが、ヤライの逞しい腕に体を支えられ、倒れることは防いだ。
12歳の冬、ジャサナは初潮と性の喜びを同時に経験することになった。

「ダメっ...、ぁっ、やぁ!」

初めてフラウと出会った日から、夜な夜な体を求め合う日が続いた。
皆が寝静まった後、部屋を抜け出して庭園で逢瀬を重ねる。
両性具有の体を持つフラウ。女性らしい気遣いもあり、男性らしい腕力や性欲の強さもあり、ジャサナはただただ溺れていった。

「ジャサナ...イきすぎじゃない?」
「だって...フラウが触るからっ...あぁ!」

お互いに飽きることなく、体力が続く限り体を重ね続けた。フラウに抱かれる度、ジャサナは女として急成長し、貴族の位を超え、一国の王からも求婚される程になっていた。
男を操る方法を習得したジャサナはまさに、美しく魔性、参謀官...敵に回すのは危険な存在へと成長していった16歳の冬、ジャサナは恋の苦しみを知ることになる。

「フラウ!ごめんね、待たせて!フラウ...?」

いつものようにお客様をもてなす宴を終え、庭園に向かうと...そこにフラウはいなかった。代わりに、手紙が置かれていた。

〜愛するジャサナへ〜
君がこの手紙を読んでいると言うことは、僕はもう役目を終わらせていると思う。
妖精族とゴシック家はその昔、約束をしたんだ。ゴシック家に生まれる美しい女性を食べさせて頂く代わりに、その女性の人生を好転させて欲しい、って。
今回のターゲットはジャサナだったけど、僕はジャサナと一緒に過ごせて本当に幸せだったよ。
富も権力も持った王様さえ口説けないのに、ただの妖精の僕がジャサナを独り占めしてたなんて、凄いことだよね。
まだ愛らしかった12歳から、本当に素敵なレディになったね。君は僕の誇りだよ。
この4年間、本当にありがとう。これからの人生、ずっと幸せでありますように...

この手紙を読み終わった時のジャサナは、何かの冗談だと思った。昨日までほぼ毎日のように側にいて、愛し合っていたのに...理解出来なかった。
何故、突然去るのか...
愛し合った4年間は嘘だったのか...
私は夢を見ていたのか...
ジャサナは、この日から泣き崩れる日々を過ごし、失恋の痛みを知った。

*****

「ジャサナさん、可哀想...オイラ、突然好きな人がいなくなったら死んじゃうかも...」

ジャサナの恋物語を涙ながらに聞いていたクルトは、号泣していた。
心優しいルイも涙目になり、サクラはそんなルイの頭をよしよしと撫でていた。
アカリは新しいウィスキーをグラスに注ぎ、

「どうやって立ち直ったんだ?」

素朴な疑問を投げかけた。

「ヤライさんや仕事のお陰かな。参謀官として協定国からも依頼を受けていたから...一番癒されたのは、クロウ一団に入ってから。彼らが私を見上げも見下げもせず、一人の人間として接してくれた。私の守りたい家族!」

アカリの質問に素直に答えたジャサナは、満面の笑みで答えた。もうゴシック家は滅び、生まれ育った場所には戻れない。
だけど、新たに出来た家族がある。血のつながりはなくても、共に死戦を乗り越え、泥臭く生きてきた絆がある。大切な人と出会えたことに、生き抜く強さを教わったことに、ジャサナは改めて感謝した。
アカリ一行は血生臭い道すがら、束の間の談笑を楽しみ、安らかな夜を過ごした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?