見出し画像

【毎日note145日目】『ブラインドから君の歌が聴こえる』感想

こんばんは。さゆです。

本日は、昨日少しだけ触れた、HOME MADE 家族のKUROさんこと、サミュエル・サトシ先生の新刊の感想を書かせて頂ければと思います(*^_^*)

調子に乗ってめっっっっちゃ長く書いてしまった上に、シミルボンという書評サイトでも全く同じ文章を載せてしまったので、まあいないとは思いますが(さゆさゆに人気がないため…)二回同じものを読まされた人はごめんなさい。

では、感想に行きます😂


青春小説なんて大嫌いだったけど…。

個人的な話で恐縮ですが、私は本が大好きですが、“青春小説”と銘打たれたものはとても苦手です。それは、“リア充”という言葉から、かけ離れた学生時代を送ったことによる、完全な嫉妬からきています。高校の卒業式、誰よりも早く、一度も振り返らずに校舎から去った記憶は、10年以上経とうと忘れることはできません。

そんなこんなで、断固として避けていた青春小説。しかし、シミルボンの読書人でもある「HOME MADE 家族」のラッパー・KUROさんこと、サミュエル・サトシ先生の新刊『ブラインドから君の歌が聴こえる』(河出書房新社)は、帯に「感動の青春ストーリー!」と記載されているものの、どうしても読みたかったのです。

なぜなら、前作の『マン・イン・ザ・ミラー「僕」はマイケル・ジャクソンに殺された』がとても面白かったから。

たとえ全く興味のない分野でも、グイグイ読者を惹き付け、まるで音楽を奏でるように、心地良いテンポで文字を綴るKUROさんの文章はどこか中毒性があり、読者をあっという間に虜にします。

本作の『ブラインドから君の歌が聴こえる』も、そうでした。私のちっぽけな「青春」という概念を早々にぶっ飛ばし、己の人生と真剣に向き合う者たちの闘う姿を魅せてくれたのです――。

画像1


「人生とは、何かを計画しているときに起きてしまう別の出来事のことなんです」


物語の主人公は、天才的な耳を持ち、人気ヒップホップグループ“大江戸ランページ”で活躍していたDJゴッドハンドこと神谷啓史。

彼は、高校のサッカー部で知り合ったMC三太夫と小鉄とともに、DJとして音楽の世界で奮闘し、メジャーデビュー直前まで登り詰めました。
しかし、デビュー直前、大手メジャーレーベルからは、グループのリーダーでもある啓史を排除した、三太夫と小鉄だけがほしいと言われてしまいます。しかも、啓史は、普段からメンバーの気持ちを考えずに暴走したり、自分のミスを他のメンバーのせいにしたり、二人のことを信用しているようには見えない…と、事務所の人間から指摘されてしまいます。

「ゴッドハンドくんは、これまでなんでも自分の計算通りになると思ってきたでしょう。ところが人生とは、何かを計画しているときに起きてしまう別の出来事のことなんです。(一部省略)」

とても痛切な言葉で忠告され、デビューの道を閉ざされた啓史。また、それと同時に、前々から調子が良くなかった目の症状が一気に悪化。緊急手術が行われたものの、とうとう視力を失ってしまいます。

 デビューへの道は閉ざされ、メンバーからは裏切られ、一人で生きて行く道も閉ざされた啓史は、実家へ戻り、自室に籠り、死も考えます。ですがそんな時、幼い頃からの付き合いの同級生・彩が「ブラインドサッカーをやろう」と啓史を外へ連れだします。

「ブラインドサッカーを見たとき、私、障害者とかそんなことまったく浮かばなかった」

と彩が言うほど、ブラインドサッカーは新感覚の解釈とルールのスポーツなのだそうです!

晴眼者もいれば、弱視者もいて、同じ条件にするためにアイマスクが必須。音が鳴るボールを使います。ボールをとりに行く時には必ず「ボイ」と言い、ゴールキーパーは弱視者か晴眼者が勤める。また、選手にゴールの位置を教え、安全を守る役割をする「ガイド」と呼ばれる人もいて、彩は、後にこのガイドの役割を完璧にこなすようになっていきます。

啓史はブラインドサッカーを通して、生まれながらに視覚障害があるにも関わらず、ボールをわざと宙に浮かせて音を消して相手を攪乱したり、抜いたりする技術を持つエース・祐二や、ブラインドサッカー女子日本代表の得点王・ソラ選手、他にも様々な人との出会いを通して、自分がこれまでどれだけ傲慢だったか、障害者に対して、いかに多くの偏見を持っていたかを気づくことになります。また、ずっと啓史を明るく支え続け、彼が道を踏み外しそうになるといつだって連れ戻しに行くヒロイン・彩の魅力も、本作ではとても光っていました。


誰かと共に不可能を可能にしていく物語

私は本作で、「ブラインドサッカー」なるものをはじめて知り、動画サイトでその様子を少しだけ観たのですが、驚きました。目が見えている人たちのスポーツにしか思えなかったし、「音」が大切なので、試合中も観客は静かで、ゴールを入れた時などに盛り上がる様子は、選手・観客共にブラインドサッカーを正しく理解して、一体になって盛り上げて行こうという意思が感じられました。

この物語は、自分の人生と何度も必死に向き合い、不可能を可能にして、でも、誰かに頼ることも「悪」とみなすことなく、徐々に受け入れていく人たちが登場します。

誰だって、人生は計算通りにいかないことばかりだと思います。本当に疲れるし、嫌になるし、悩んでばっかり。
でもだったら次は違う道で、どうやって楽しんでやろうか、貪欲に生きようか、考えて行動に移すことはできるのだな…と気づくことができました。

ヒロインの彩ちゃんが「人の助けを借りずに一人で生きてる人なんてどこにもいないよ!」と、啓史に迫るシーンがあるのですが、ハッとしました。誰の力も借りずに生きるなんて全くもって不可能だし、困った時に一人きりで頑張るのではなく、己の弱さを認め、誰かに上手く頼ることのできる人が、本当は大人なのかもしれません。それに、誰かに頼ってもらえたら、自分の存在意義が感じられて、何だかちょっと嬉しかったりします。

耳の良さなら誰にも負けない元DJゴッドハンドがブラインドサッカーを通して、自らの人生を力強く切り開いていく物語。読後、心に爽やかな風と切ない涙、そのどちらもが吹きぬけていきました。


さゆ


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?