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【読書録】『つげ義春大全 第十六巻 ねじ式 ゲンセンカン主人』つげ義春

今日ご紹介するのは、『つげ義春大全 第十六巻 ねじ式 ゲンセンカン主人』。 

『つげ義春大全』とは、漫画家であり随筆家でもあるつげ義春氏の全漫画作品と、エッセイやイラスト、旅写真などを収録した作品集。総ページ数7000頁、全22巻の、壮大なコレクションだ。今日ご紹介するのは、そのうちの第16巻。

この巻には、つげ義春の代表作ともいえる『ねじ式』『ゲンセンカン主人』の2作品を含む15の漫画作品が収録されている。同2作品は、本巻のタイトルとしても表示されている。

この巻の15作品は、すべて、1968年(昭和43年)から1973年(昭和48年)までのものだ。Wikipediaによると、特に、1966年から2年間の著者の作品は傑作ぞろいで、「奇跡の2年間」であったという。表題作の『ねじ式』と『ゲンセンカン主人』は、いずれもその「奇跡の2年間」に登場した作品だ。

私がつげ義春の作品に出会ったのは、まだ分別のつかない子供の頃、1980年代だった。私の母の実家に、大きな書庫スペースがあった。そのなかに、叔父のものと思われる大量の漫画本があったのだ。つげ義春のほかに、手塚治虫、諸星大二郎、白土三平などの作品が山積みになっており、暇さえあれば、書庫に閉じこもって読んでいた。

つげ義春をご存知の方にはお分かりいただけるだろうが、同氏の最盛期の作品は、シュールで、前衛的で、重くて、暗くて、退廃的。幻想的とか、芸術的とか評されることもあるが、子供であった私は、その異世界ぶりに混乱し、大いにショックを受けた。特に、男女の交わりを肉感的に描くエロチックな場面も多く、まだその意味も分からないまま、親に隠れて、ドキドキしながら読んだのを覚えている。

それ以来、もう何十年も、つげ義春作品を手にする機会はなかった。ところが、最近、温泉巡りにハマり、温泉地を調べていくなかで、つげ義春の名前に何度も遭遇した。つげ義春が、温泉によく出かけていて、温泉宿や温泉街を舞台とする作品を多く発表していると分かった。

そこで、つげ義春の、特に温泉系の作品を、じっくりと読みたくなった。そして、群馬県の湯宿温泉を舞台にしている『ゲンセンカン主人』と、福島県の二岐(ふたまた)温泉を舞台にしている『二岐渓谷』を収録しているこちらの『つげ義春大全 第十六巻』に辿り着いた。

この巻には、レトロな湯治宿を舞台としている作品が多い。この巻から、温泉が描かれているページを少しだけアップさせていただきたい。

『二岐渓谷』
『オンドル小屋』
『ゲンセンカン主人』
『懐かしいひと』

これらの作品に描かれている温泉街や温泉宿の絵は、昔話のように幻想的で、旅情をそそる。鄙びた温泉宿の風情が、過去にタイムスリップさせてくれる。これらの作品を何度も読むうちに、私は、こういうレトロな温泉宿や温泉街の雰囲気が本当に好きなんだなあ、と、自分の嗜好に改めて気づかされた。

温泉の要素をさておいても、この巻の15作品中には、「奇跡の2年間」に登場した7作品も含め、読者をうならせる名作が多いと感じた。「つげ義春大全」の他の巻は入手していないのだが、「大全」のうちでも、特に優れた作品が詰まっている巻なのではないだろうか。

つげ義春ファンは、シニア世代に多いと思うが、このシュールなつげ義春ワールドにドギマギする体験を、是非多くの若い人にも味わってみてほしい。そして、もちろん、鄙び系温泉ファンの方々にもお薦めしたい。

ご参考になれば幸いです!

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