リスキリングで何を学ぶべきか

先日、僕が開催している有志勉強会を、名古屋を中心とした雑誌、「時局」の3月号で取り上げて頂きました。

http://www.jikyokusya.com/

この記事を書いていて下さった方とお話ししながら、日経新聞の記事で取り上げられていた問題について意見を求められ、僕の考えを述べさせて頂きました。
この方は法科大学院を卒業されているそうで、「やはり学問として大学院へ行った人は知識や見地が違う」と、感心されてしまいました。

このとき、「リスキリングで何を学んだらよいか」という質問を受けました。

厚生労働省では、リスキリングで身につけるべきスキルとして、「テクニカルスキル」と「ポータブルスキル」の2つを挙げています。
テクニカルスキルとは、例えばDXなどといった、これからの職業に必要な新たな技術などです。これに対してポータブルスキルとは、ポータブル、つまりどんな場でも必要となる基本的な知識などです。
テクニカルスキルは「技術」ですから、当然技術の進歩と共に陳腐化するため、常に向上し続けなければなりません。一方ポータブルスキルは、人としての基本的な考える力で、普遍的なものと言えるでしょう。
このとき僕が重視するのはポータブルスキルで、リベラルアーツが大切だと考えています。そして、リベラルアーツを学ぶためには、哲学の基礎やさらに言うなら、やはり「国語」が大切だと考えています。

こうした意見を述べると、記者の方が興味深い話をしてくれました。

法科大学院では司法試験合格が目的で、実務的な科目が多く、例えば法哲学のような基礎学問に費やす時間があまりないそうです。これに対して、僕は最初から研究者志望だったので、税理士志望の方とは違った課題が多く、カントやヘーゲルなどもしっかり読みました。
今思えば、こうした違いは、ものの見方や理解力に大きな差をもたらしたと思います。

哲学は全ての学問の基礎ですから、高い理解力を身につけ、何かをまなぶためには不可欠です。しかし哲学を学ぶためには、高い国語力が不可欠です。特に大人の学びについては、国語が先か哲学が先かと問われるとなかなか難しい問題なのですが、僕は1つの例として、こんな話をしました。

とある方が岩波文庫の古典を読んだそうなのですが、感想として「筆者の文章力の問題なのか、文章が難解だった」という意見を述べていました。
普段から本を読む方ならご存知かと思いますが、岩波文庫はそもそも古典の原文などにかなり近いので、誰でも簡単に読めるわけではありません。むしろ下地の知識や読解力を必要とします。
岩波文庫の文章を難解と述べた方は、残念ながらその分野の文章を読むための知識や読解力が不足していたのではないでしょうか。

そうした意味で考えると、普段どんな媒体を情報源としているのかも、一人一人の知識や読解力によって異なります。
僕は普段から、何かをしっかり調べたいときは、まず論文を探します。しかし一般の方には、論文はかなり難しく、知識が足りないと全く理解できません。
これと同じで、2000年頃までは、僕はまあまあパソコンに詳しいと思われていて、よく初心者から相談されました。この頃は『日経クリック』というパソコン雑誌を読んでいました。ところがプログラマーの友人いわく、この雑誌は超初心者向けで全く役に立たなかったそうです。
そして今、大学に勤務して、大学のSEさんや業者さん任せにしてからは、コンピューターの知識も止まってしまい、今では小学生にも全く歯が立たないでしょう。

ここまで話したところで、ふと思い立って、記者の方とgoogleのニュース表示を比較してみることにしました。
それぞれの好きなこと、僕であればカメラやバイク、料理の記事などの違いは当然なのですが、ニュースの内容や取り上げられている話題、情報媒体などもにもかなりの差がありました。
記者の方のスマートフォンには表示されない記事などを見ながら、またまた「視点が違う」と感心されてしまいました。(笑)

そこで最後にこんな話をしました。

それはこれからの資本主義の形についてです。
この10年ほどの、いわゆるGAFAと呼ばれる企業の発展は目覚ましく、今や世界のインフラを支えていると言っても過言ではないでしょう。こうした企業が、隆盛からたった10年ほどで、AIを巡って熾烈な競争を始め、生き残りの争いになろうとしていることは、これまでの資本主義競争の歴史から見ても驚くべきことです。
一方、社会の動向を見ると、ベーシックインカムといった、あらゆる人が平等に暮らせる仕組みの議論が行われています。
しかし、ベーシックインカム制度が導入されたとしても、資本主義が無くなるわけではありません。そうすると、資本主義の基本矛盾である支配構造はどうなるのでしょうか。

人々が納税しなくなったら、その分の税金は企業が支払わなければなりません。その分の費用を、企業はどこから得る(搾取する)のでしょうか。
インターネット企業は、それぞれのアルゴリズムでダイレクトな広告を可能にする仕組みを売ることで利益を得ています。このことは、裏を返せば私達が、無料で検索サービスやSNSを使うことで、私達の嗜好や選択といった基準、言い換えればプライバシーや私生活を「情報」という形で売っていることになります。
最近、Twitterが有料化するという記事が見受けられますが、近い将来、インターネットサービスの全てを有料で使用する収入を得られない人は、本人の意思に関わらず、インターネット企業に個人の選択や感情を「情報」という形で搾取され続けることになるでしょう。

こうした中で、AI(人工知能)を上回る、「知性」の労働ができることが、搾取から逃れる手段だとすると、、、

やはり国語から始まるように思います。

リスキリングの話題から、こんな流れになりました。さて、皆さんはどのように考えるのでしょうか。

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