イノベーションを考える 日本企業はなぜイノベーションを起こせないのか

今年の5月になりますが、パナソニックHDは、来年3月までの売上で、過去最高益をあげるという予測を立てました。
新型コロナウイルスの影響も収まり、世の中の活気が戻ってきたからかと思いきや、、、

実はパナソニックが過去最高益を記録したのは1984年のこと、約40年にわたって、最高益を打ち立てることができていません。
1984年といえばバブル景気前夜の頃。経営の神様と言われた松下幸之助が設立した、日本屈指の企業がこれほど苦戦しているのはちょっと驚きです。

この理由については、実は意見としていつくもの点が挙げられますが、今回のテーマについては、最後に記すこととしましょう。

企業に限らず、日本では長らく、社会全体を改善するようなイノベーションがなかなか起こせない状態にあります。今回はその理由を考えたいと思います。

・間違った大義名分
ところで、日本には「大義名分」という言葉があります。これは辞書によると、以下のように説明されています。

[1] 人として、また臣として守るべき道義と節度。「大義名分にもとる」
[2] 行動のよりどころとなる道理。また、事を起こすにあたっての根拠。「大義名分が立つ」
               (大辞泉)

ここにあるように、本来の意味は「道義」や「道理」です。しかし一方で、普段よく使われている意味で、「タテマエ」のような意味があります。例えば「仕事帰りに1杯飲む大義名分」のような使い方ですね。
僕は、実はこの大義名分が、イノベーションを起こせない要因の1つだと考えています。

いわゆる「失われた30年」から脱却するうえで、日本はイノベーションを起こす必要があると言われています。しかしこのイノベーションという言葉自体が、大義名分になっているように感じます。

前回も書きましたが、日本では、イノベーションは「技術革新」と勘違いされていることが多いです。そのため新しい技術や手法に飛びつくことが多いのですが、本来のイノベーションは「革新」や「新機軸」ですから、必ずしも新しい技術や手法を必要とするわけではありません。
言い換えれば、仕事のやり方や構造、既存の概念を覆す新たな概念を確立しなければならないのですが、そのためには、やはり前回記した「トレードオフを実現する」ことで「何をもたらしたいか」という「目的」が不可欠です。

ですからある意味では、今多くの場で語られるイノベーションは、既に大義名分になっているように感じます。

・目的のない仕組みは機能しない
僕が企業経営のお手伝いをさせて頂く中で、時々はなすことがあります。それは安易に新しい仕組みを導入しないこと。
例えばマイナンバーカードやDXの問題もおなじです。

今年の春叔母が亡くなり、母が色々な手続きをしました。
亡くなった叔母はマイナンバーカードを作っていたので、母は色々な手続きをマイナンバーカードで可能だと思っていましたが、実際に行えた手続きは、マイナンバーの解除手続きだけでした。(笑)
ちょうどマイナンバー登録の駆け込みの時期で、窓口がごった返しており、どうも押されてしまったようで、母は役所で転んでしまいました。

今、マイナンバーカードのトラブルが相次ぎ、大きな問題になっていますが、僕から言わせれば、そもそもマイナンバー制度自体が確立し円滑に運用されていないのに、デジタル化を進めたのですから、トラブルが起きて当然です。
どのような業者が担当したかは知りませんが、目的のないデジタル化ですから、さぞ困ったことでしょう。

企業のDXも同様で、明確な目的、つまり「何のために」デジタル化するのか、また企業内のどのような「機能」をデジタル化によって効率化するのか、そうしたことが明確でなければ全く機能しないどころか、現場に混乱を招くだけです。

これはWindows95を思い出して頂ければ分かりやすいでしょう。

Windows95は、パソコンに大変革をもたらしました。しかし当時、パソコンを持っていないのにソフトだけ買った人がいたり、社員のデスクに1人1台パソコンを導入して、机を狭くしただけという、冗談のような出来事が頻発しました。

今から考えればあまりにバカバカしい話ですが、、、DXやイノベーション、酷似していると思いませんか?

・日本企業は何が優れていたのかさて、最初の話、パナソニックの話題に戻りましょう。

松下幸之助は、よく「経営の神様」と言われますが、僕はそうは思いません。御本人も「私は学がないから経営は解らない、周りの人がやってくれた」という意味のことを言っています。

それでは松下幸之助は何が優れていたのでしょうか。
僕は一言で言うなら、「思いやりの天才」だったと考えます。

松下幸之助、本田宗一郎、井深大、盛田昭夫、、、戦後日本を代表する経営者達は、皆「思いやりの天才」だったのではないでしょうか。

例えば松下幸之助の二股ソケット、本田宗一郎のスーパーカブ、これはどちらも奥さまのために作ったもので、思いやりの集大成です。

彼らのような偉人たちは、「誰のために何をするのか」ということを突き詰めたからこそ、日本を発展させました。そしてこの考え方は、マーケティングの本質です。

今、あらためて、タテマエの「大義名分」に惑わされない、それぞれの本質的な「目的」を真剣に考えるべきではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?