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内田樹『そのうちなんとかなるだろう』

「自分らしさ」が際立つのは、「なんとなく」選択した場合においてだと、内田樹氏はその著書で述べる。とくに計画も計算もなく、意図もなくしたことにおいて「自分らしさ」は鮮やかな輪郭を刻むのだと。

内田氏の結婚観も興味深い。誰と結婚してもそこそこ楽しい、と言っている。結婚生活の成否はほとんどその人の器で決まるのであって、こだわりのきつい人は誰と結婚しても不満が募る。

かなり的を得た見方だと思う。結婚だけでなく、仕事や住む場所、他の人間関係についても同じことが言えるだろう。

12年間の父子家庭を始めたときに「仕事で成功することをもう求めない」と決め、家事育児を最優先することにしたという。家事ができたら自分に満点を与え、少し時間が残っていたら「ボーナス」だと思って論文を書く。そして娘さんが独立して家を出ていったあとは書きたいことが山のようにたまっていたというのも興味深い。

「なんとなく」という心の声を大切にして生きる。流れに身を任せる。多くを望まない、高い目標を設定しない。「やりたいこと」をやり、「やりたくないこと」はやらない。とてもシンプルだ。


そして徹底している。「用事のないところには行かない」「やりたくないことはやらない」「普通に自然の流れに沿って歩いていれば道を迷うことはない、決断とか選択はしないほうがいい」。すべて同感だ。

内田氏は、フランス文学者で武道家で思想家でもある。現在は神戸女学院大学名誉教授。その経歴はいじめが原因で小学校を登校拒否。受験勉強が嫌で日比谷高校中退。親の小言が聞きたくなくて家出。大検取って東大に入るも大学院3浪。男として全否定された離婚。なかなか面白い経歴だ。

武運の勘所

武道家でもあると紹介したが、内田氏の武運の勘所には興味深いものがある。それは機を見る力であり、座を見る力でもある。

どんなとき、どんな場所でも、僕たち一人ひとりには、自分にできること、“自分にしかできないこと”があります。とりあえず、その場にいる他の誰もできないことが、自分にだけはできるということがある。でも、普通はそれがなんだかはわからない。

修行を積むと、「今、ここでだと、私だけができること、他ならぬ私が最もそれに適した仕事がある」ということがわかるようになる。そのときに、ふっとそれが「自分が前からずっとしたいと願っていたこと」のように思えてくる。そして、ここが“武運の勘所”です。

それにしても『しなければならないことは「苦役」だと思わない』という考え方は素晴らしい。相手に期待せず、押しつけず、全部自分でやる。余った時間がボーナスだなんて、そういう『おまけ効果』のある生き方をしたいものだ。




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