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「死んでもいいわ」と「月が綺麗ですね」


二葉亭四迷が和訳した「死んでもいいわ」は原文と少し違う。ロシアの作家イワン・ツルゲーネフ氏の小説「片恋」の一節に出てくる箇所だ。

ペンネームの由来が「くたばってしめぇ」であることで有名な二葉亭四迷。小説家としても、また翻訳家としても、その名前を馳せている。東京外国語大学でロシア語を学び、いくつかのロシア文学を翻訳している。

その翻訳小説である「片恋」の、恋を伝えるシーン。原文ではロシア語で「私はあなたのもの」と言っている部分を、二葉亭四迷の訳では「死んでも可いわ」となっている。

確かに超訳だ。激しい恋に落ちた女性の深い心情を表そうとしての試みだけれど、この訳からうかがえるのは二葉亭四迷の情熱的な側面だろう。

一方、夏目漱石の「I love you」の超訳も情緒深い。英語教師時代のエピソードのひとつとして語り継がれているのは、ある生徒が「I love you」の訳として「我君を愛す」と答えたときのこと。

夏目漱石は、「日本人はそんな表現はしない」と指摘した上で、もっと奥ゆかしい表現がふさわしいとして、「月が綺麗ですね」と表現した方がよかろうと提案したという。

この情緒的な超訳は現代でも使えそうだ。

このエピソードを識っている相手には、好きと言う気持ちを伝えるのに、ただ、「月が綺麗ですね」と言うだけでいい。

あるいは、あなたのために死んでもいい、と言われたら、一言、さらりと「月が綺麗ですね」と返すのも粋かも。





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