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週末の軽井沢散歩 リヒター・ラウムと『出会い - 物語のはじまり』

 ようやく涼しくなってきたので、週末に日帰りで軽井沢を訪れました。一番の目的はリヒター・ラウムを見に行く!でした。リヒター・ラウムはWAKO ART OF WORKSがこの夏に軽井沢にオープンしたギャラリーで、ゲルハルト・リヒターの作品を常時展示しています。長年にわたりリヒターを扱ってきたWAKOらしく、建物から周辺の景観まで全て含めてリヒターの世界が展開されています。

 公式サイトで11時に予約を入れました。10時30分には軽井沢駅に到着。バスの時間が合わなかったので、徒歩で向かいます。駅から約25分、緑の中を歩くのは気持ちが良いです。

 軽井沢駅北口を左に出て線路沿いに進みます。軽井沢チョコレートファクトリーの先を右に曲がり、そのまま旧中山道に出るまで道なりに進み、街道に出たら左へ曲がります。そのまま少し歩くと到着です。木に囲まれた白い建物は、以前に映画『ゲルハルト・リヒター ペインティング』で見た、ケルンにあるリヒターのアトリエを強く想起します。

リヒター・ラウム入口

 エントランスホール(ラウム1)の左手に展示室(ラウム2)とオフィス(ラウム3)。ホールの正面奥にも展示室(ラウム4)があります。オフィスは立ち入りできませんが、ドアの外から見ると、リヒターのオフィスに似た雰囲気を持っています。ここでも壁にビルケナウの写真が貼ってあったりするのかな。このラウムというのはドイツ語のRaumで、部屋、空間、宇宙などの意味があります。単に部屋といえばZimmerという単語も思いつきますが、リヒター・ラウムになると、部屋であり、仕事場であり、建物を含むこの空間が作品世界であるという広がりを感じます。

 ラウム2にはリヒター展でも展示のあった8枚のガラスが中央に据えられ、壁際にアブストラクト・ペインティングとストリップ。手前にはグレイ・ミラー。重なり合った8枚のガラスは向こう側がくっきり見透せず、横から見ると反対側に飾られた絵が映り、人間の目に入る視覚の不確かさを感じます。赤と黄色が目に付くアブストラクト・ペインティングの4枚目が気に入って、しばらく眺めていました。なんだか発炎筒を手にしたサッカーのウルトラスが、川岸に等間隔に並んでいるように見えてしまう。フォルトゥナ・デュッセルドルフが120周年のとき、ウルトラスが行った発炎筒のショーみたい、なんて言うと怒られそう。でもこういう好き勝手な想像ができるのも抽象画の好きなところです。

 ラウム4の正面にも大きなグレイ・ミラー。その下には球形の作品もあります。球体に映り込む自分の姿と、映り込まない不透明部分との組み合わせがなんだか面白い。

Strip Sculpture Karuizawa

 建物の外に出て裏手に回ると、高さにして5メートルほどのStrip Sculpture Karuizawa (ストリップ・スカルプチャー軽井沢)が目に飛び込んできます。美しい縦の線が際限なく分割されてストリップとなり、ぐるりと周回するたびに違う組み合わせの面が現れます。ここは室内と違って写真撮影ができます。以前に十和田美術館に行った時も、数組のカップルが仲良く撮影をしていましたが、ここでも一組がスカルプチャーをぐるっと回りながら写真を取っていました。なんだか微笑ましい。アートと気軽な接し方ができる場所は個人的にとても好きです。

 受付で買ったカタログに詳しい解説が出ています。このスカルプチャーはリヒター・ラウムのために制作されたもので、立体形のストリップは上から見ると十字の形になっています。組み合わさった色が織りなす美しさ、ガラスに映り込む樹々の模様をずっと見ていたい。季節が変わればきっとまた違う顔を見せるのでしょう。

 お昼は旧軽井沢までバスで向かい、国の登録有形文化財に指定されているカフェを訪れました。タコライスが美味しすぎて感動。深煎りの珈琲を飲みながらぼーっと過ごしていると、日々のストレスが洗い流されて行く気がします。

Cafe 涼の音

 午後は軽井沢ニューアートミュージアムにも寄ってみました。1階はミュージアムショップとギャラリーがあり、入場無料なので自由に見て回ることができます。長野県出身の草間彌生の作品も展示販売されています。あー、これ好きと思った絵があったけど、さすがに手に入る額ではなく、写真を撮るのも忘れてしまいました。

軽井沢ニューアートミュージアム

 企画展は2階。こちらは有料です。12月までは『出会いー物語のはじまり』と題し、アーティストの出会いとそこから始まる物語をテーマに作品が展示されています。

 草間彌生とジョセフ・コーネルの出会いと別れも取り上げられ、ジョセフ・コーネル本人が映っているラリー・ジョーダンの映像作品をしばらく見ていました。草間彌生は作品のイメージが強烈なので、そこで思考が止まってしまい、どういう背景があるのか知らなかったのですが、キャプションを読んで興味がわき、1階で彼女の小説『沼に迷いて』を購入。ジョセフ・コーネルと彼女の関係がモデルになっています。日本人形のようなマーコに病的なほどに執着する芸術家ロイと、マーコを邪魔者扱いにして激しい憎悪を向けるロイの母親。全ての時間を彼に取られ、離れたいと思いながらも束縛されて行くマーコ。これは実際にジョセフ・コーネルと草間彌生の関係でもあったようです。『美術手帖』のインタビューでも小説と同様の内容が体験談として語られていました。

 ジョセフ・コーネルの箱に収められたコラージュ作品は可愛くも見えるのですが、小説からはアーティストの業の深さを感じ、同時に草間彌生の他の小説も読んでみたくなりました。

室生犀星旧邸

 緑に囲まれた軽井沢を散歩していると、忙しく過ごしている日常が遠景に退き、五感が鋭敏になっていくような気がします。週末の一日で気持ちがリフレッシュ。また頑張ろうという力がわいてきました。

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