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探究における「振り返り」は将来の自分へのプレゼント。


1.振り返りとは

今日は、「振り返り」について考えてみたいと思います。探究学習を生徒の学びにつなげるためには、振り返りが欠かせません。

探究学習は、課題を設定してから、情報収集、整理分析し、まとめ・表現までおこない、最終的にいったんの解にたどり着くことがゴールではありません。前回の記事にも書きましたが、探究学習それ自体は目的ではなく手段だと私は考えます。探究の目的には、例えば「将来に活きる学びや気づきを得ること」、「自分自身の成長や可能性を実感すること」、「様々な資質・能力を身につけること」が挙げられます。探究の目的についてはこちら。

ただ活動をやりきればOKという訳ではなく、上記の目的を達成するためには、そのプロセス一つ一つにおける経験の中から、丁寧に学びや気づきを抽出していかなければなりません。そのために「振り返り」は欠かすことができないのです。振り返りが不足した探究は、無味乾燥な作業の連続であり、探究を終えたはいいものの、未来につながる学びや教訓につながらないと考えます。それこそ「活動あって学びなし」「はいまわる経験主義」と言われてしまう懸念がでてくるでしょう。

実際に、生徒に振り返りをおこなわせると、できなかったことについて反省する子が非常に多いです。しかし、振り返りは反省ではありません。

本来の「振り返り」とは、経験から未来につながる学びや教訓を得ることです。将来の自分へのプレゼントです。

つまり、単なる反省会をする訳でなく、取り組んできた経験を知恵にかえて、未来につなげるのです。自分の成長した点や可能性を実感し、残された課題を確認することで、次のアクションにつなげることが肝心です。


2.振り返りを促す具体的な問いかけとは

それでは、経験を知恵に変える、つまり、将来につながる学びや教訓を抽出するためには、どういった問いかけが相応しいのでしょうか。下記の東京学芸大学先端教育人材育成推進機構が出している「総合的探究の時間のツールキット」にある「探究を振り返ろう」を参照するのはいかがでしょうか。立命館宇治中学校・高等学校の酒井淳平先生による記事です。

ここでは、下記の6つの質問が紹介されています。

① 今回の探究活動でおもしろかったこと、興味を持ったのはどんなことで 
 すか?

② 今回の探究活動を通じて、わかったことや達成したことはなんですか?

③ 今回の探究活動を通じてうまくいったこと、うまくいかなかったこと
 は、それぞれどんなことですか?

④ うまくいったことについて、なぜうまくいったのだと思いますか?また
 うまくいかなかったことについて、過去に戻れるならどうしますか?

⑤ 探究活動を通してもっと知りたい、もっと深めたいと思ったのはどんな
 ことですか?

⑥ 今回の探究活動からどんなことを学びましたか?

 立命館宇治中学校・高等学校の酒井先生 総合的探究の時間ツールキット「探究を振り返ろう」

酒井先生によると、振り返りで経験を知恵にするには、4つの視点が重要だという。

〇どんな経験(成功や失敗も含む)をしたのか。
③がこれに該当します。経験から学びや教訓を引き出す最初の問いかけとして欠かせません。

〇経験から何を学んだのか。
こちらは、探究活動の内容そのものに焦点を当てて、例えば、②のような質問をするとよいでしょう。

〇経験からどんな教訓や法則を見つけたのか。
ここが重要です。探究学習以外の場面で今後使える気づきや教訓を見つけることができるか。③や④、⑥の質問を通して考えさせたい。個人の次はグループで振り返りをするとよい。

〇次のアクションをどうするのか。
これを引き出すには、⑤の質問が有効です。

3.経験学習モデルから振り返りを捉える

振り返り方について、別の視点からもアプローチしてみたいと思います。

ディビット・コルブの経験学習モデルにそって、振り返りを促す問いについて考えます。コルブは、ビジネスマンが利用可能なものにするために、デューイの学習理論を循環した形で示し、単純化したものです。

図1  経験学習モデル (Kolb1984)

具体的経験とは、言葉の通り、個人が置かれた状況下で具体的な経験をすることです。その状況を理論化せずにひとまず感覚的に捉えたり、ただの事実として客観的に捉えたりする。

内省的観察とは、具体的経験を多様な観点から内省することです。経験した状況について、意味づけをし、気づいたり、理解したりする過程です。

抽象的概念化とは、内省的観察によって得られた気づきをもとに、経験を一般化、抽象化、概念化します。他の状況にも応用可能な形として自分なりの法則や教訓に落とし込むことです。

能動的実験とは、経験から導き出した自分なりの法則や教訓を新しい状況に適用することです。

このように、ヒトは具体的な経験について内省することで、自分なりの教訓を紡ぎだし、それをまた新しい状況で試してみるというサイクルを繰り返してきます。ちなみにこれは、大ヒットした前田裕二さん著「メモの魔力」における【ファクト→抽象化→転用】にも通ずるものですね。

探究学習についても経験学習モデルを当てはめることができ、この4つの場面において、具体的に下記のような問いを投げかけることが有効な振り返りにつながるでしょう。

佐藤浩章(2021) 高校教員のための探究学習入門 ナカニシヤ出版 表10-1 をもとに作成



4.振り返りの記述を評価する方法

そして、この振り返りの記述を評価する方法としては、ハットンとスミスが提唱した下記の表が有用です。振り返りの記述内容を4段階に分けています。

  振り返りの4段階 (Hatton & Smith) 
佐藤浩章(2021) 高校教員のための探究学習入門 ナカニシヤ出版 表10-2 をもとに作成



5.振り返りに探究PLカードを活用しよう


とはいえ、探究学習における振り返りは、正直、簡単なものではありません。そういった時、私は株式会社クリエイティブシフトの「探究PLカード」を活用しています。探究に関するコツが36パターンにまとめられており、探究を通して何が出来るようになったかを振り返ることで、自分の成長を実感することが可能です。

振り返りが苦手で手が止まっていた生徒も「この観点から書こう!」といった方針が見えて、スラスラ書けるようになりました。各探究プロセスにおける振り返りをグループでおこなう際にも、非常に有効です。他にも、探究の初回の授業にて「探究で大事なことって何だろう」というテーマで、生徒に大切だと思うカードを3種類選んでもらっても面白いかもしれません。

探究パターンランゲージ(コツ)36種

例えば、このカードは課題設定に関するコツカード。「好き」ではなく「許せない」からスタートするのも有効だと気がつかせてくれる。

それぞれ意識的に実践できているか、それともできていないか、もしくは、今後取り入れたいか等に、カードを振り分けていくことで、「課題設定」「情報収集」「整理分析」「まとめ・表現」のうち、自分が足りていない要素を確認することもできちゃいます。

各探究プロセスにおける自分の成長をレーダーチャートにして把握することも可能です。中間発表と最終発表の二回にわたって変化を見るのも良さそうです。

他にもプレゼンテーションパターンカードや、コラボレーションパターンカードもおすすめです!表現・発表する力や協働する力についての気づきを促し、様々な場面で振り返りに活用することができます。


6.振り返りにおいても、まずCommunication&Collaboration

探究PLカードを使った振り返りについて話してきましたが、振り返るを充実させるには、やはり一に行動、二に行動です。とりあえず行動して、具体的な体験、経験を積み重ねることが重要です。プロジェクトの由来はpro(前へ)+ject(投げる)。とりあえず、前へ投げてみる(具体的な経験をする)のです。「なんとなく」「とりあえず」「ひたすら」皆で何かしらたくらみ、コミュニケーションして、コラボレーションしながら具体的経験と省察的観察を繰り返していく中で、オリジナルの法則や教訓が浮かび上がってくるはずです。

LCL 第2回「探究をジェネレートする」 市川さんのスライド資料(2022.4.17)

ロバータ・ゴリンコフとキャシー・ハーシュ=パセックが提唱した、これからの社会を生きるのに必要な21世紀スキル「6Cs」があります。ポイントは、コンテンツ(知識を得る)とクリティカルシンキング(思考する)より、コラボレーション、コミュニケーションが先にあることです。つまり、他者と交流、協働してこそ、その先の気づきや学びは生まれると考えます。

より良い振り返りも「まずはCommunication&Collaboration!!」です。このあたりの話について気になる方は、こちらの記事の目次⑥をご覧ください。


7.振り返りには、4つの段階がある。

経験の振り返りには4つのレベルがあります。自分や生徒がどのレベルの振り返りをしているか、常に意識しておく必要があると考えます。

熊平美香さんの著書「リフレクション」をもとに図を作成しました。


熊平美香さん 「リフレクション」 ディスカヴァー21をもとに作成

レベル1は「出来事・結果」のふりかえりです。
出来事や結果について客観的にふりかえります。経験学習サイクルにおける具体的経験の振り返りで止まってしまっています。これでは経験を知恵に変えることはできません。

レベル2は「他者・環境」の振り返りです。
他責の振り返りでもあります。出来事を超えてそれを構成している環境や他者に視点がうつります。探究活動において、失敗の原因を他者や環境に求めてしまうことがありますが、それでは、振り返りが未来につながる学びにはなり得ません。

レベル3は「自分の行動」の振り返りです。
このレベルから自分自身にベクトルが向きます。自分の行動を振り返り、結果と結びつけることで、次にとるべき行動が見えてきます。行動を振り返っても状況を改善できない場合は、次のステップに進む必要があります。

レベル4は「内面の振り返りです」
自分の行動の前提にある意見、感情、価値観、経験の4つの視点から振り返ります。アンコンシャスバイアスや無意識のうちに前例踏襲していないか、自分を俯瞰的に視ることが可能です。レベル4に到達することは、簡単ではありませんが、訓練することで近づくことができるはずです。

これは、私の大好きなイマココラボさんのコンセプトに通ずるものだなあとも。

「対象物をみる自分という関係性」から、「対象物と自分(価値観、当たり前、信念)をも含むシステム」として全体を捉えなおす。木を見て森を見ずを超えて、森の中の自分の内面に集中する。

レベル4の内面の振り返りまで到達することは、社会変革につながるものだと信じています。エージェンシーを育てる鍵にもなるはず。

イマココラボホームページより
イマココラボHPより


8.AARサイクルでも振り返りが重要

振り返り(Reflection)は、Education2030プロジェクトでも注目されています。VUCA時代に対応するためPDCAサイクルの代わりとしてAARサイクルが取り上げられている。AARサイクルとは、Anticipation(見通し)、Action(行動)、Reflection(振り返り)の略です。予測不能な変化の激しい社会では、人が生涯にわたって自律的に学び続けるための学習プロセスとして、AARサイクルは極めて重要です。AARサイクルは、ざっくり見通しを立て、行動してみて、振り返りながら修正していく。アプリが公開してから、適宜、ユーザーの反応をみながらバグを修正し、アップデートして完成度を高めていくことに似ているかもしれない。

9.最後に


振り返りが習慣化すれば、これまでの方法や考え方をそのまま踏襲するのではなく、自ら思考し、行動し、オリジナルの答えを創り上げることができるようになり、VUCA時代を生き抜くことができます。また、昨今アンラーン(過去に学んだことを手放す、または再構築する)の必要性が叫ばれていますが、これも振り返りの習慣により可能になるでしょう。

振り返りは、未来の自分と社会を創り上げる力であり、将来の自分へのプレゼントです。

振り返りについて、振り返ろうと思いこの記事を書いてみました。お読みいただきありがとうございました。

芽もりー



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