時雨れる心の在りか #5<終>

今となっては もう

時雨降って
空も銀杏も紅葉も色を失い
枯れ落ちるように

わたしの想いも
古くなってしまったの

だから
あなたの言の葉も
すっかり色変わりして
しまったのでしょうね

<古今和歌集782参考>



***



彼は帰国をすると
サークルのオフ会や
幕張で行われるゲームイベントなどにも
たびたび都合を合わせて来てくれた


「この間、凛華とUSJ行った時に300万使ってさぁ」

「うちは成人のお祝いで1000万貰えるんだけど、
 弟はそれで外車買いやがってな」

耳を疑うような話が
軽そうな口からポンポン飛び出してくる

別に彼がホラ吹きなわけではなく
これは本当の話


彼の麻布にある一人暮らしのアパートの
六畳の寝室の壁二面には
最近購入したという
大きな大きな天野喜孝のリトグラフが各面1枚ずつ
計2枚飾られていた

展示会でしか見られなかった作品に
大興奮して彼のベッドに上がり
張り付いて穴があくほど鑑賞させてもらったこと
今思い出す


やっぱり彼は普通の学生じゃない
彼にとって世間一般の常識は
常識じゃなかった


一方、凛華さんは
高知県で農業を営むご実家から大学院に通う
ごく普通の女の子
その天才的な語学能力を除いては

出会った頃に比べたら
会うたびに垢抜けて洗練され
美しくなっていくのがわかった

女が綺麗になる理由なんて
男のためだけ

相変わらず
ふたりは仲睦まじい様子だった



みんな社会に出ると
仮想世界に戻る時間さえも作れず
現実に縛られるようになった

海外生活が長くなってきた彼とは
全く連絡が取れなくなった

それでも年に数回は
わたしは凛華さんと手紙のやりとりをしていた


ーー彼が帰国したらまた会いましょう。

ーー次はいつ帰国するのかしら?教えてください。

ーー彼と連絡を取りたいから、メアドを伝えて欲しいのだけれど良いかしら。


彼に関する話について
凛華さんからの返答は一切なかった


ーーお二人はお元気ですか? 暑くなりますからご自愛くださいね。

ーーご無沙汰しています。私はまだ実家のある四国から抜け出せません。

ーーまたお会いしたいです。相変わらず独り身ですが。


しばらくして凛華さんとの文通も
滞ってしまった


素性がわからないまま
コミュニケーションが始まり
惹かれ合って好きになる

好きになってから
お互いの素性がわかると
普通に出会っていたら
決して結ばれることの無い立場の人だったわけで

そんなアバター恋愛の
落とし穴もある


結ばれるって何?
結婚って何?

好き合った先には結婚があるものだと
信じて疑わなかった

色褪せてゆく 理想と現実
鮮やかに心残る 仮想世界

苦しい思いして
相手への気持ちを消すことしか
本当に方法は無かったのかしら


今になって
ようやく彼の気持ちを
理解してみたいと
思えるようになった



今、彼の心はどこに在るの?

凛華さんなの?
愛人なの?
先生なの?


それとも

もうこの世のどこを探しても
見つからないのかもしれない


勇者ならば最期まで救おうと
必死に呼びかけたと思う


でも
わたしは


今ほどけはじめている
褪せてしまった想いを

もう少しだけ

ここ<現実>で探してみたいと
思っているの




「時雨れる心の在りか」


〜END



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