見出し画像

縁をつむぎ、未来へつなぐ|大分(国東市・別府市)タイム設定ワークショップレポート(前篇)

「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」というコンセプトに基づき、デジタルカウンターを使った作品で知られる現代美術家・宮島達男が、東日本大震災の犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承を願い、東北に生きる人々、そして東北に想いを寄せる人々と共につくりあげる「時の海 - 東北」プロジェクト
「9〜1」とカウントする3,000個のLEDガジェットが巨大なプールに設置される想定の作品は、3,000人の人々が関わり、LEDの数字のカウントするスピードを参加者それぞれが希望する時間に設定できるというもので、各地でワークショップを重ねながら参加者と出会い、2027年の作品完成を目標に活動を展開しています。
現在、参加者は1,665人となりました(2022年11月30日時点)。

本記事では、11月に大分県国東市別府市で開催したワークショップの様子を前篇・後篇にてレポートします。前篇では、国東市成仏地区で開催したワークショップの様子をお届けします。
(執筆・編集:嘉原妙|「時の海 - 東北」プロジェクトディレクター)
(撮影:谷知英)

■国東半島芸術祭で生まれた縁の地、国東市成仏地区 

11月12日、秋晴れの広がる大分空港に宮島達男と私たち「時の海 - 東北」プロジェクトチームが到着。目指すは、国東市国東町にある「成仏地区」です。成仏地区には、この地で8年前に開催された「国東半島芸術祭(2014年)」で宮島が発表した作品『Hundred Life Houses』が恒久設置されています。実は、この作品も成仏地区の住民の方々などをはじめ、100名の参加者とともにつくった作品です。
成仏地区には、「成仏桜会」というボランティアグループがあります。芸術祭開催時にも各地から訪れるお客様を心温まる「おせったい」でおもてなしくださったりと、芸術祭運営をサポートしてくださいました。
今回、国東で「時の海 - 東北」プロジェクトタイム設定ワークショップを開催するに至ったのも、「成仏桜会」のみなさんが、「国東半島芸術祭」で生まれた宮島との、そして作品とのご縁を大切に育んてくださったことが大きいです。
成仏地区では、感染症対策の関係から、国東市在住の方に限定しワークショップを開催し、こどもから大人まで、計39名の方にご参加いただきました。

「おかえり〜」といつものように出迎えてくれる「成仏桜会」のみなさん

「おかえり〜」「お久しぶりです」と数年振りの再会に、頬も緩みます。
「おかえりなさい〜!ようこそ〜!」とあたたかくお出迎えくださったお母さんたち。
「まずはお昼でも食べよ〜」と、
地元の食材でお母さんがつくってくれたご飯でエネルギーチャージ!
こうした温かいおもてなしを受けていると、なんだか「国東半島芸術祭」のことを思い出します。

■いよいよ国東でのワークショップがスタート!

まずは、いつものように宮島から
「時の海 - 東北」プロジェクトを構想した経緯についてお話しました。
震災当時、まだ生まれていなかったこどもたちも
真剣な眼差しで宮島の話に聞き入っている姿が印象的でした。

自分に関わりのある数字を決める

「時の海 - 東北」プロジェクトの経緯やアーティストの想いを共有した後、ここから一人ひとりのタイム設定の時間です。いろいろな想いを巡らせながら、家族や兄弟、姉妹と話し合いながら、それぞれの「数字(秒数)」を決めていきます。 みなさんそれぞれに想いを込めてワークシートに記入される姿を見ていると、一人ひとりの物語の豊かさがじわっと溢れ出てくるようで、その姿と想いをしっかりと受け止めていかなくちゃという気持ちがより一層強くなります。

数字と一人ひとりの想いを通して、対話を重ねる

タイム設定ができた人のもとに行き、決められた数字とそれにまつわるエピソートや想いを傾聴します。

「どう?タイム設定決まった?そうか、そういう想いを込めたんだね」と
こどもたちが感じ取ったこと、想像したことのお話を聴けるのもとても良い時間です。
懐かしい思い出話にも花を咲かせながら、タイム設定は続きます。
LEDガジェットの実物を見ながら、
「3秒だとこういうリズムなんだね」「何秒にしようかな?」と自然と対話がはじまります。
お話してくださるときに、ぐっと想いが込み上げてくることも。

楽しい嬉しい想いも、悲しい寂しい想いも、なんとも言い表せない気持ちも、そうした一人ひとりの想いが重なっていく時間がタイム設定ワークショップには流れています。

■誰かの想いを声に出して読む。

実は今回、参加者のご了承を得て、みなさんが決めた秒数とエピソードを私が代読し、会場にいる参加者のみなさんと共有することに初めて取り組みました。その声に参加者が耳を傾け、読み終えると、自然と拍手が起こりました。
今、この会場で、自分と同じように他の誰かも大切な誰かのことを想ったり、かつての経験を思い起こしたりして一つの数字を決めたのだという想像力が、じんわりと会場全体に満ちていくような時間でした。
みなさんから受け取った秒数とエピソードの中から、いくつかご紹介します。

0.8秒。今の心臓のスピード。生きることを楽しみ 生きることに感謝 今を大事にしたい その気持ちを持ち続けたい。

(1987年生まれ)

1.4秒。ちょうどいいしふつうであわてないから。1.4びょうは、おぼえやすいしぼくもすきなすうじだから。

(2015年生まれ)

120秒。2011年5月、打ち上げられた大きな船が陸に残る中、岩手の水産養殖の復興プロジェクトで現地に入りました。あの時感じた人間の無力さは、今でも忘れられません。しかし、そんな絶望的な時でも前向きにたくましく生きる漁師さんをはじめ、被災地の人々の「力」を強く感じました。自然に対して無力でも、一歩ずつゆっくり進む東北の人たちのねばり強さに敬意を持って、じっくり進む120秒にしました。

(1985年生まれ)

10.7秒。自分が10歳の7月に祖父が他界し、初めて人の死を経験した時です。そこで覚えていたのが 人の本当の死は 全ての人に忘れられた時ということでした。自分が生きている間だけでも、亡くなった人を思い出しながら、日々を生きていきたいと思います。

(1999年生まれ)

12秒。12 数字が一番かっこいいと思うから。将来はウルトラマンになって困っている人を助けたい。東北の人たちへ みんながニコニコ笑っていられますように。

(2018年生まれ)

120秒。私は何か息づまった時や 心を落ち着かせたい時 答えを出したい時にこちらのアートの前に立ちに来ます。心がすっとおちついて 力をもらえる気がします いつも忙しかったり 息切れしたり カウントが早いので こちらのスピードをゆっくりにして 落ち着ける場にしたい

(1976年生まれ)

0.2秒。今後の残りの人生、少しかけ足でペースアップしたいな〜という思いを込めて。
<東北への想い>震災が起きた日、息子は生後7ヶ月でした。それがきっかけとなり、当時住んでいた東京を思い切って離れ、そこからまた色々と巡りながら、ここ国東に今住んでいるので、ある意味、東北が自分にとって1つのスタート地点でもあります。

(1977年生まれ)

10.2秒(とわに)。永遠(とわに)忘れずに寄り添う気持ちを持つことが大事だと思うからです。時間が経っても忘れずに、次の世代に受け継いでいくという意味です。参加できてよかったです。

(1993年生まれ)

※エピソードの記載は、書き手の表現を尊重し、句読点、余白などを記している。

■ワークショップを終えて、『Hundred Life Houses』を鑑賞

その後、参加者のみなさんと集合写真を撮影し、希望者と一緒に成仏にある作品を見にいきました。

少し山道を歩きます。
だんだんと奥の方に明かりが見えてきました。
そびえ立つ大きな岩場に設置された100個の「小さな家」と
さまざまなリズムで瞬くLED数字の光が眼前に広がります。
8年前に完成した成仏の作品を眺めながら、作品の状態を確認。とても良いコンディションで、
成仏地区や国東市に大事にしていただいているのが伝わってきます。
『Hundred Life Houses』について、当時の制作の様子を宮島が解説。
成仏の作品を初めて見るこどもたちも。
ワークショップ1回目参加者のみなさんと。
ワークショップ2回目の参加者と成仏桜会のみなさんと一緒に。

ご参加いただいたみなさま、ご協力いただきました成仏桜会のみなさま、NPO法人BEPPU PROJECTのみなさま、本当にありがとうございました!!

次の日は、場所を別府に移してワークショップを開催しました。その様子は、レポート後篇に続きます。

《関連記事》




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?