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縁をつむぎ、未来へつなぐ|大分(国東市・別府市)タイム設定ワークショップレポート(後篇)

「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」というコンセプトに基づき、デジタルカウンターを使った作品で知られる現代美術家・宮島達男が、東日本大震災の犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承を願い、東北に生きる人々、そして東北に想いを寄せる人々と共につくりあげる「時の海 - 東北」プロジェクト
「9〜1」とカウントする3,000個のLEDガジェットが巨大なプールに設置される想定の作品は、3,000人の人々が関わり、LEDの数字のカウントするスピードを参加者それぞれが希望する時間に設定できるというもので、各地でワークショップを重ねながら参加者と出会い、2027年の作品完成を目標に活動を展開しています。
現在、参加者は1,665人となりました(2022年11月30日時点)。

本記事では、11月に大分県国東市別府市で開催したワークショップの様子を前篇・後篇にてレポートします。後篇では、大分県別府市で開催したタイム設定ワークショップの様子をお届けします。
(執筆・編集:嘉原妙|「時の海 - 東北」プロジェクトディレクター)
(撮影:「時の海 - 東北」プロジェクト実行委員会事務局)

■宮島達男に縁のある地、別府でワークショップを開催 

大分県は、宮島達男と縁の深い場所です。NPO法人BEPPU PROJECTに招聘いただき、2006年に別府市で『Counter Voice in the Earth』の滞在制作・発表を行い、国東市成仏地区には住民のみなさんとワークショップを通して制作した『Hundred Life Houses』が恒久設置されています。

今回、別府での「タイム設定ワークショップ」は、『ベップ・アート・マンス2022』のプログラムのひとつとして開催しました。『ベップ・アート・マンス』とは、別府の町じゅうを舞台に、文化・芸術に関わるたくさんのイベントを集めた市民文化祭です。今年で13回目を迎えます。
11月13日、B-Con Plaza(別府国際コンベンションセンター)にて、午前・午後の2回ワークショップを開催しました。ご家族三世代にわたってご参加くださった方や、ご友人やご夫婦での参加など、計60名の方にご参加いただきました。

別府でのワークショップがスタート!

過去作品の紹介もしながら、生と死、命の永遠性などLEDガジェットの数字の表現について説明。
東日本大震災が起こった当時、宮島自身が泥かきのボランティアに行った時に撮影した写真を交えながら、当時の様子や、自分自身がそこで何を感じていたのかなど、
「時の海 - 東北」プロジェクトの構想の背景を共有しました。

一人でじっくり、家族や友人と話し合いながら考えるタイム設定の時間

「時の海 - 東北」プロジェクトについて、宮島からの解説が終わった後は、いよいよ秒数を決める時間です。

「何秒にするの?」と相談する姿も。
一人でじっくり、じっくり書き留めていく方。
書き始めると、また色々と思い出して、うーん......と手が止まることもありますよね。
携帯電話のストップウォッチ機能を使って考える人も。
「何秒にしようか?」と親子で相談しながら決めるのもいいですね。

対話から、また呼び起こされる記憶や想い

タイム設定が終わった方、一人ひとりと宮島が対話し、お話を聴いていきます。この時間が、アーティストにとっても大事な時間です。対話のなかから、改めて想うことやふと思い出すことなどがあり、記憶が連鎖していくような感覚になることも。

■誰かの想いを声に出して読む。

別府のワークショップでも、参加者のご了承を得て、みなさんが決めた秒数とエピソードを私が代読し、会場にいる参加者のみなさんと共有しました。その中から、こちらでもいくつかご紹介します。

31.1秒。3.11は東北大震災の日でもあり、私の母の誕生日でもあります。私自身も母になった今、3.11は命のバトンをつなぐことの尊さを考える大切な日です。

(1979年生まれ)

111.5秒。震災から半年経った9月、初めて女川へ行き仮設住宅で暮らす少年に出会った。二人でレゴでつくった町を壊し、人も町も津波でぜんぶなくなるよと話す少年にうまく言葉がでなかった。その後定期的に彼に会いに行っている。その少年は今は高校2年生になり、最近彼女ができたと紹介してくれた。今でも少年にどう声をかけたら良かったかと考える。11月15日はその彼の誕生日である。

(1970年生まれ)

28.2秒。娘が生まれた時の体重(2880g)なので。出産前、1ヶ月ほど寝たきりで動けなく、命が生まれる事の大変さを感じました。

(1982年生まれ)

86秒。亡くなったおばあちゃんの誕生日であり、広島に爆弾が落とされた日。私自身の誕生日が長崎に爆弾が落とされた日。日本には、忘れてはならない日があり くりかえし起こるべきではない、起こらないでほしいから。あと、忙しなくすぎる1日を、ゆっくり感じていきたいからです。

(1996年生まれ)

88秒。おもしろそうなので参加しました。8という数字が好きで、また小さい頃から、お遍路さんなどの姿を見ていて、88という数字に親近感がわくから、この数字にしました。東北には行ったことがなく、テレビで津波の様子などを見ていて、実感はわかなかったです。このワークショップを通して、東北を訪れてみたいと思いました。

(1994年生まれ)

25.7秒。自分の生まれた年とラッキーナンバーを組み合わせたかったから。

(2005年生まれ)

1.5秒。3.11洪水のTV放送を見て、時間の流れがとても遅く感じたことを覚えています。自分の体感と客観的な時の流れの違いを感じました。以来宮島さんの作品が好きになりました。今の心拍数は89/分でした。これは1.5/秒の心拍数です。

(1955年生まれ)

5.8秒。5月8日に大切な人と出会いました。その人が幸せになりますように。東北には、私が教えた生徒さん第1号が住んでいて、何年も会っていませんでしたが、あの日、思わず電話をして無事を知りました。元気でいますように。

(1958年生まれ)

※エピソードの記載は、書き手の表現を尊重し、句読点、余白などを記している。

■デモンストレーション作品『時の海 - 東北』を鑑賞

別府では、ワークショップ終了後に、会場内に仮設展示した『時の海 - 東北』のデモンストレーション作品をみなさんと鑑賞しました。
一つひとつ異なる数字の瞬きを見つめながら、今さっき、自分が決めた秒数も、いつかこのように作品の一部となっていくのを感じていただけたなら嬉しいです。

参加者のみなさんと記念撮影

ワークショップ1回目参加者のみなさんと。
ワークショップ2回目の参加者のみなさんと。

ご参加いただいたみなさま、ご協力いただきましたYamaide Art Office株式会社、NPO法人BEPPU PROJECTのみなさま、本当にありがとうございました!!

■これからも各地でワークショップに取り組みます

来年2023年は、震災から12年を迎えます。「時の海 - 東北」プロジェクトでは、これからも一人ひとりの東北への想い、命への想いに耳を傾けながら、これまでの経験や記憶、そして、これからの未来について想いを馳せる時間と場を積み重ねてまいります。そうした体験の共有が、参加者一人ひとりにとって、『時の海 - 東北』の作品が「私の作品」だと思う、大切に育んでいっていただける一歩になると信じています。
震災の記憶と経験と思いを紡ぎ、他者への想像力を育んでいけるような場を目指して、これからも全国各地でワークショップに取り組みます。

▼「タイム設定ワークショップ」の開催にご関心をお持ちのかたへ

「時の海 - 東北」プロジェクトの活動に賛同いただき、一緒にワークショップに取り組んでくださる組織・団体・個人の方がおられましたら、お気軽に以下のご連絡先までお問合せください。

「時の海 – 東北」プロジェクト実行委員会 (有限会社宮島達男 内)
メールアドレス:contact@seaoftime.org

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