ジェットコースター☆マリッジ〈第4回〉
「真夜中に働いている人」チャット内で意気投合した《なお》と実際に会ったのだが、そこに現れた《なお》はイメージ通りの“赤ちゃん顔”の女の子だった。
なんの話をしたとかはさすがに覚えていないが、それなりに盛り上がった気はする。で、食事をしてそろそろお開きの時間かなと思った頃、《なお》がこんな提案をしてきた。
「うちの会社、見に来ます?」
テレビ制作会社ってどんなところなんだ?
あ、ちなみに《なお》の一人称は「うち」だ。京都出身ではない。
《なお》の会社はこの日の待ち合わせ場所にした某テレビ局の近くにあるテレビ制作会社だ。当時の私は24、5歳。出版社で働いて4〜5年。出版業界のことは何となく分かってきた頃だ。
人気テレビ番組がいわゆる“番組本”を出すことになり、そのテレビ局とつながりの深い出版社から発売されるのだが、制作は下請けの編集プロダクションだったりする。当時、私も何冊かその手の番組本を作ったことがあったが、出版業界の人間からするとテレビ業界は近いようで遠い存在。
ぶっちゃけ《なお》ともう少し話したい気持ちはもちろんあったが、テレビ制作会社というものに興味があったのも間違いない。
《なお》が言うには、この日はみんな帰ってしまっていて、一人で小道具を作っていたのだそうだ。それならと《なお》が働いているテレビ制作会社を“見学”させてもらうことにした。
この段階では、まさかその後、この会社にちょいちょい通うことになるとは想像もしていなかったが……
もう電車がない!
《なお》が働くテレビ制作会社は、デスクがあってパソコンがあってと、雰囲気は私が当時働いていた出版社に近いものがあった。Appleバカの私にとっては、当時超高額だったハイスペックなG4 Macが置いてあって、テンションが上がったのを覚えている。
テレビ番組を作っている現場なんて、開局当時のサム●イTVを見に行って以来なので新鮮だった。《なお》から会社を一通り案内してもらい、すごく楽しい会社見学だった。そして、さすがにもう見るところがないなとなった時点で時計を見たら、もう終電がない時間だった。
キー局のテレビ局が近いという時点で、《なお》が働く会社が都心にあるのは分かると思うが、当時私が住んでいたのは極めて千葉寄りの都内。深夜料金で少々値は張るが、タクシーで帰るしかあるまい。
問題は《なお》だ。仕事的にはほかの社員が全員帰っているからも分かるように、この時期はそんなに忙しくない時期。出来れば家に帰ってゆっくりしたいが、当時《なお》は実家暮らし。実家は関東だが、都内ではない。
ぶっちゃけ自分が自宅まで帰るのにもタクシー代がなかなかかかるので、《なお》で「これで帰りなよ」とタクシー代を渡せるほど金も持っていない。
いま思い返してもなかなか大胆だったなあと思うが、当時の私は本当に何のてらいもなくというか、自然とこれが一番いい方法なんじゃないかと思って、《なお》に対してこう言ったのだ。
「じゃあ、うち来る?」
〈続く〉
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