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ジェットコースター☆マリッジ〈第3回〉

「真夜中に働いている人」チャット内で意気投合した《なお》と、初めて実際に会うことになった。
出版社での仕事を終えたあと、待ち合わせ場所だった《なお》の職場近くにあった某テレビ局の前へ。ドキドキしながら待っていると、そこに現れた《なお》はとにかくファーストインパクトが強烈だった。20年以上経った現在でも、割とよく覚えている。

初対面の《なお》はいろいろスゴかった!

今風に言えば出会い系アプリでマッチした人に初めて会うような感じなのだろうが、俺は当時も今もその手のやつが苦手だ。だから今、振り返ってもネット上での文字のやり取りだけで「この子とは気が合うな」と思った上に、いくらお互い都内で仕事をしているからとはいえ、実際に会うなんて我ながら大胆な行為だと思う。

しかし、なぜか《なお》は大丈夫だと確信していた気がする。だって、初対面した《なお》はビックリするほどイメージ通りだった。
説明が難しいのだが、一番しっくりくるのはめっちゃ若くて、少しポッチャリした水森亜土だろうか。水森亜土は各自検索してくれい。

当時《なお》は20歳なので充分若い。だが、見たことないけど赤ちゃんの《なお》が、1ミリも顔が変わらないまま大きくなったんだろうかと思ってしまうほど、《なお》は“赤ちゃん顔”なのだ。あどけないというか、見るからに天真爛漫というか。しかも着ている服に、明らかにペンキが飛び散っている。近年ならそういうデザインもあるが、当時はそんなのなかったし、見ればその飛び散りがデザインなのか、そうじゃないのかは分かる。

別にお見合いじゃないし、そもそもいわゆる“出会い系”的な「会おう」ではないので、気合い入れて着飾る必要はないが、ペンキが飛び散った格好で現れた赤ちゃん顔の《なお》は、20年以上経った今でも思い出せるくらいインパクト大だった。

第一印象からまったく変わらない

ひとまずそのテレビ局近くにあるレストランで食事をすることに。話せば話すほど《なお》は、チャット上で文字のやり取りをしたときのイメージ通りのコだった。明るく、思ったことはバシバシ言うが、決して嫌な感じがしない。のちにいろいろと《なお》の内面や独特過ぎる考え方なども分かっていくのだが、いろいろなことが分かっていっても「最初に抱いたイメージと全然違う」ということがない。

どんなに第一印象で「明るくていい人」という好印象の人でも、その人のことを知っていくうちに闇を抱えていたり、負の感情を抱いていたりしていうことが分かり、多かれ少なかれ印象が変わっていく。当然印象が悪くなる人もいるが、まあ人間いろいろ抱えてて当たり前だし、第一印象とは違うけど全然受け入れられる、より人間味を感じられるっていうのが大概だ。

だが、《なお》の場合はほぼほぼ第一印象から変わっていない。「天真爛漫だなぁ」と思った部分は、ずっと天真爛漫だ。「不思議なコだなぁ」と思った部分は、その後もずっと不思議なままだ。
後にも先にも俺が出会った人間で、そんな第一印象からまったく変わらない人間なんて《なお》だけかもしれない。

楽しい時間が過ぎるのは早いもので…

その服に飛び散ったペンキは、会社で小道具を作っていたからだということが分かった。小道具を作っている最中に「あ、待ち合わせの時間だ」となって、待ち合わせ場所に来たのだという。
ということは、まだ小道具を作っている最中だし、食事が終わったら会社に戻らないとだなと思った。当時のことを思い出してみると、何せチャット上での文字のやり取りと実際に会って会話するのと、印象はまったく変わらないので、そりゃ無機質なテキストのやり取りよりも面と向かい合ってのおしゃべりのほうが楽しいと思うのは当然だろう。

楽しいおしゃべりはあっという間に時間が過ぎていった。本音を言えばまだ話していたかったが、まあ初対面だし、仕事も残っているならこの辺りで今日のところはお開きにしよう。
確か22時前後くらいだったと思うのだが、お開きの流れになったところで《なお》はあっと驚くような提案をしてきた。

〈続く〉

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