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つかまえて、はなさない

愛する誰かとずっと一緒にいるということは、たとえあたりまえに感じてしまう日が訪れるとしても、やはり特別なことなのだと思う。

連休の土曜日に保育園からのお友だちと会った。

私は昨年の夏、彼女と彼女の恋人についてのnoteを書いたから、もしかしたら記事を覚えてくれている方もいるのではないかと思う。


ふたりは中学3年生の春から付き合っていたけれど今年の夏に別れてしまった。あるとき、彼女のSNSの投稿にいたはずの恋人の写真が消えていたからすぐに分かった。

私はこういうのを見つけるたび、SNS時代のこういうところが本当にかなしいと思うのだけど、わざわざ「別れたの?」と無神経に尋ねるのはどうかと思って何も言わずにいることを選択した。

本当に別れてしまったならば、そして私に話したいと思ってくれるならば、彼女の方から連絡をくれると思ったから。そうしたら、およそ2カ月ほど前に彼女が私に連絡をくれたのだ。

私は彼女と彼女の恋人と同じ中学校の出身だから、彼女が彼に恋している様子も、ふたりが距離を詰めて恋人同士になるのも全部近くで見ていた。だからふたりが別れたという話を聞くのは、他のカップルの別れ話を聞くのとは何かが決定的に違っていた。すごくかなしい、と私は思った。

どういう経緯でそういうふうになったのか、彼女は直接会って私に話したいと言ってくれたから、一昨日、彼女の口からその話を聞いた。詳しい内容をここに書くことは憚られるので、具体的に記述したりはしないけど、本当にいろいろなことが起きたようだった。

たくさん話して別れたから、今はもう未練たらたらってわけじゃないの、と彼女は微笑んでいた。話を聞きながら私は頭の中でぐるぐるといろんなことを考えた。彼女は思ったより元気そうで、私はそのことに胸をなでおろした。

どんなに長い年月付き合っていても別れる恋人たちはいる。距離が離れていても近くにいても別れるカップルは別れるし、続くカップルは続くのだ。そういう話を最近大学の同期としたのだが、本当にそうなのだと思う。

だから土曜日の晩、電話で恋人にも同じようなことを話した。

私と恋人は3年と少し遠距離恋愛をしている。私は恋人との関係性を穏やかで安定していると感じている。ガスで燃えている火みたいに。けれど私がそう思っていても彼が同じように感じているという証拠はない。だから私は彼にそれを話した。

彼は「俺も安定してると思ってるよ。お互い尊重できているし」と電話の向こう側で言った。「だって、もしお互いにそう思っていなければ、遠距離恋愛してる間に別れ話が出てるはずでしょ。俺たちは1回もそういう話になったことない。だからそれが証拠になるよ」と。

「たしかにね。悪いけど、私はあなたと別れようと思ったことは1回もないよ」と私が伝えたら、彼は「でしょ?だから大丈夫なんだよ」と得意げに言っていた。

私は恋人と会えずにさびしくて眠れない夜があることをうれしく思う。

大学生活や卒論が忙しく、そして愉快になってきたので、そういう夜は前より減っているけど、それでも彼の不在がたしかに私に孤独感を与えること、それが他の何でも埋められないものであることを思うと、それは幸せなことだと感じる。

彼が私の隣に立ち、笑ったり話したりしているのを見るたびに、私はこのひとのことが心底好きだと思う。彼の醸し出す空気が、私のそれにまるでパズルのピースのようにぴったりとはまるような感じ。

他の誰かでは決して埋められない。もしかするとがんばったら埋めることができてしまうのかもしれないけど、それでも「彼や彼女でしか自分を埋められない」と互いに思わせ合えること、互いが互いでしか埋められないことを望むことができること。

私は私の恋人と一緒に生きていきたい。

離ればなれの私たちは、文字通り「一緒に生きる」ということが今は叶わないけれど、それでも私は彼と生きているつもりでいるし、彼もきっとそうなのだと思う。私は彼の手しか握りたくはないのだ。そして彼だけに捕まえられていたいのだ。他の誰かじゃいやだ。彼と一緒に呼吸をしたいのだ。

誰かの手を握ることは、ある意味とても簡単だ。しかし一瞬握るだけではなく、ずっと離さずに手を握り続けることのなんと難しいことか。

「あたりまえ」の特別さを、見失わないように日々を送りたい。

そしていつか恋人とこの日々を笑って語るのだ。そのとき私たちは今よりもっと幸福になっていて、互いの存在をもっとあたりまえで特別なものに思えるだろう。


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