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医者の本懐 【漢方医放浪記】

 呼吸器内科医も漢方内科医も、全国的に稀少種です。その両者を専門にする医者は激レアです。もしご存知の方がいましたら是非お声かけください。仲間がいると鴨が喜びます。

 呼吸器内科学は生粋の現代科学ですから、伝統医学を非科学的だと敬遠しがちです。この傾向に拍車をかけたのは「小柴胡湯の事件」でしょう。これは慢性肝炎に小柴胡湯が有効だという報告から全国的に(漢方専門でない医師により証を無視して)小柴胡湯が濫用された結果、副作用として間質性肺炎が相次いで、遂には亡くなる方も出てしまったという事件です。

 これ以外にも漢方薬の副作用として間質性肺炎を発症することは時々あって、そうなると漢方医には治療できませんから、受診先の呼吸器内科医からしてみたら「よく分からない漢方薬で死にそうな肺炎になって受診」ということが起こるのです。そう、間質性肺炎は難治性で時に致死的転帰を辿ります。呼吸器内科医に漢方医学が嫌いな医者が多いのは、無理のないことかもしれません。

 漢方医の側からみると、呼吸器内科は「抗癌剤」と「抗菌薬」と「ステロイド」を使う診療科です。いずれも数千年前には存在しなかった西洋医学の結晶で、絶大な治療効果と悲劇的な副作用を併せ持つ諸刃の剣です。これらの薬物療法の真髄を漢方医学的知識のみで理解することは不可能で、目に見える副作用への懸念から、呼吸器内科学を敵視する動きが起きても不思議なことではありません。

 このような理由によって呼吸器内科学と漢方医学は犬猿の仲ですから、互いに認め合うことで生まれるであろう理想的な医療は夢のまた夢です。


 大学入学前から漢方医を志していた私が西洋医学の専門分野に呼吸器内科学を選択した理由の一部は、此処にあります。

 相容れないものの仲を取り持って調和に至らしめる試みは、物事を括ることを生業とする菊理媛神の加護を発揮するのに丁度良い。

 斯して私は自分の中で、西洋医学と東洋医学の融合を始めました。私は必要に応じて西洋薬と漢方薬を使い分けます。一方のみ使うこともあれば、両方同時に用いることも頻繁にあります。そうして分かってきたのは、現代医学で難治性と云われる疾患群に対しても、極めて有効な治療を創出することができるということです。万能薬とはいきませんが、この領域を発展させていくことが未来の医療に繋がると、私は確信しています。


 新しい職場に異動して半年が経ちました。

 ゼロから始まった外来患者の人数は、一般内科外来の2〜5倍ほどに増え、口コミで患者さんの家族や友人知人が訪れたり、院内スタッフが受診したり、噂を聞きつけた医師から西洋医学的に難解な症例の紹介を受けるようになりました。

 医者の本懐は、病を治すことです。

 自分の専門じゃないとか、自分の患者じゃないとか、ウチでは診れないとか検査に異常がないから気のせいだとか、そういう言葉を哀しく思います。

 権力闘争から離脱した私にできることは限られますが、私は私を続けます。病むことの苦しみを理解し、共に治癒を目指す医者でいられるように。



 拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、病に苦しむ人に希望の光と、健康で平和な社会の実現を。




#私のパートナー #すべての患者さんは共に病に対峙する私のパートナーです
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