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ダンゴムシ追悼記

 保育園に迎えに行くと、息子がニコニコしながらやってきました。靴を履くところで逡巡し、不意に怪訝な顔になって保育士さんを見上げます。

「ダンゴムシは?」

 息子は生物を愛しています。小さいものは虫から大きなものは恐竜まで。特に大型動物や恐竜を好み、最近では解説付きで教えてくれるようになりました。
 例えば「これはタルボサウルスといって、もりのそとにいたんだ。するどいつめと、おおきいキバで、ギャオオオウって、にくをたべる。」のように。あらゆる動物や恐竜の説明に「森の外にいたんだ」が付くため、森の中に一体何が棲んでいるのか気になって仕方ありません。

 さて、ダンゴムシの所在を訊かれた保育士さんは、あー…それはこれのことかな、という風に息子が捕獲したと思われるダンゴムシを差し出しました。

「コレだよコレ。」

といって喜ぶ息子はダンゴムシを捕らえようとしましたが、中途半端に丸まったダンゴムシはピクリとも動きません。動かないねぇ、と言いながらツンツンした後、息子は私を見上げて言いました。

「ダンゴムシ、死んじゃったねぇ。…かなしいねぇ。」

 そうみたいだね、供養してあげようか。と提案すると、息子は意を決したようにダンゴムシをそっと掴んで「そうするか」と言いながら保育士さんにバイバイして園庭に繰り出します。一緒に小さいお墓を作って埋めた後、息子はスッと立ち上がって胸の前でパァァァンと手を合わせ、それから90度のお辞儀をして満足気に立ち去りました。

 息子は齢2歳にして死の概念を概ね理解しているように見え、追悼の作法は義父の葬儀に参加したことでなんとなく憶えたようです。

 帰り道、少し寂しそうにしている息子に声をかけます。
「命あるものは全ていつか必ず死を迎えるんだ。そしてまた新しい命が生まれる。the circle of lifeだね。」

 息子は小さく「そうだね」と呟いて、日の傾いた空を見上げました。家に帰った息子はダンゴムシの最期を軍曹(妻)に報告し、それから追悼の絵をぐるぐると描きました。

「またね」

といって絵を撫でる息子の表情は、輪廻転生を約束するようでした。


 一寸の虫にも五分の魂。生きとし生けるものすべてに命の輝きがあります。たかが虫一匹、されど虫一匹。息子の感情を汲み取って丁寧に命の供養をするのは、きっと無駄なことではないはず。
 無益な殺生をしてはいけません。しかし人は命を奪いながら生きています。全ての生命が大きな輪の中に生きています。

 生命への畏敬を以て、生きる。
 そういう在り方を伝えられたらと思います。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、誰かの命が無益に奪われることのない世界になりますように。



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