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作品

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主に短歌人に発表した作品をまとめています。
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記事一覧

「夜ノ森」(第二十回髙瀬賞佳作)

「夜ノ森」(第二十回髙瀬賞佳作)

駅名を綴る柳美里のツイートに衝かれるように北へ向かった

土浦のホームに啜る あたたかいうどん できるだけ声をひそめて

港をのぞむプレハブ小屋にかけられた孫請け曾孫請けの家系図

復旧をまたず自粛を決めていた廃炉資料館には入れずに

路地裏の林道をあるく 饐えた土が帰宅困難区域を分かつ

満開の桜は生徒をむかえずに線量計とともにたたずむ

夜ノ森は闇の入口 名のごとく駅舎のみ場違いにかがやいて

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短歌人2022年12月号

6首掲載されました。平穏な日常を取りもどすために、何とか日々を過ごしています。今後ともよろしくお願いいたします。

短歌人2019年8月号

今月の月例作品です。

職務経歴書(しょくれき)を順に記せばそれぞれの会社の色が浮かびゆくなり
社長とは降りてくるもの 新卒の会社の習い消えることなし
えんえんと隣りの数を足しあわす検査に飽きて窓をながめる
優先すべきは環境なのだ わけもなく怒鳴られないとか無視されないとか
ブルックナー七番を大きめに掛けて無心に皿を洗いつづける
平成の二文字を二重線で消す機密は守りますとの念書に

8月号は20代

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「風のメロディ」卓上噴水 短歌人2015年10月号

卓上噴水に掲載していただいた連作です。

「風のメロディ」
せせらぎの流れ等々力渓谷にシュポンと響くラムネの硝子
たくさんの浴衣の群れとすれ違う水族館のような交差点
悠久の宇宙の流れの一瞬を望遠鏡で捉える奇跡
ことばでは伝えられないものがありプラネタリウムに映る七夕
蝶々が音なく集う真夜中の街の外れの灯りの下に
芦ノ湖の風のメロディ聞きたくて遊覧船のデッキにのぼる
夕焼けのグラデーションを切り裂い

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短歌人2015年9月号

2015年9月の月例作品です。

雨粒はマシンガンにて折りたたみ傘は防御の役目果たせず
砂浜で日が落ちるのを眺めてるあるじをなくした麦わら帽子
クラッカー片手に持って部屋中の明かりを消して待つ
ひそやかに珈琲と文庫二冊を友としてひとりで過ごす金曜の夜
しなる手でダーツを投げてわが目指す世界の地図の一点を刺す
新月の夜の気配が染みこみて肌感覚が鋭敏になる

ご感想などありましたらお寄せいただけると嬉

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「ラムネの硝子」短歌人2015年8月号

20代・30代競詠に出した連作です。
この特集への参加は最初で最後となりました。

「ラムネの硝子」
横浜の廃線跡に仰ぎみる葉桜越しのコスモクロック
雨上がり雫のひかり身に帯びてひときわ映える若葉のみどり
水に浮き逆さに空を眺めてる雲のグレイと余白の青を
八月の海が見たいと言う君と自転車飛ばす江ノ島ハーバー
日の沈むまぎわの色の移ろいを並んで見てる十八の夏
大空に咲く大輪をあとにして二人見つめる線

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短歌人2015年7月号

2015年7月の月例作品です。

髪を切り衣替えしてまた一つシール柱に貼るせいくらべ
顔あげれば目にやわらかな葉桜の緑のエールまた歩き出す
蹴伸びしてプールに潜む5メートル解き放たれた自分に戻る
誘われて三階下へ降りゆけば同じ間取りの違う空間
飲まないと決めたからにはアルコールフリーを選ぶ サンペレグリノ
赤レンガ倉庫の窓から乗り出して世間を写す(落ちるなの声)

ご感想などありましたらお寄せいた

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短歌人2015年6月号

2015年6月の月例作品です。

自転車の前かごに乗る幼子は春のいぶきを全身に受く
カーテンを明るい色に替えました十年続けて住んだ記念に
返された本のみどりの付箋から恋が始まる午後の図書館
泣き顔は見せたくなくて眠っているふりをしている(このまま帰れ)
電話から社名部署名略さないフレッシャーズのやや高き声
雨音は頭蓋(とうがい)砕く槌に似る打ちひしがれてひとり伏すとき

ご感想などありましたらお寄

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短歌人2015年5月号

2015年5月の月例作品です。

点眼薬内角高めにそれてゆき鼻筋伝う涙のごとし
一列に黙礼しており各々が手に持つ白くひかる画面に
朝食のリンゴかじりて音たてるこの一日の目覚ましとして
非行という冤罪負いて推薦を消されし少年ただ自裁せり
原発を再稼働します 防災は各自治体にお任せします

ご感想などありましたらお寄せいただけると嬉しいです。

短歌人2015年4月号

2015年4月の月例作品です。

君の髪に自由に触れる美容師のあの指先に軽く嫉妬す
耳元でささやくような風が吹き春の気配がわたしを包む
如月や雲ひとつなき空あおぎ澄んだ空気を深く吸いこむ
「寒いなあ」ひとり小さくつぶやいてつないだ手ごとポケットに入れる
Uターンラッシュの渋滞見て思う都会生まれも悪くはないか
秒針がまわるくらいのスピードでインターネットの波におぼれる

ご感想などありましたらお寄せ

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短歌人2015年3月号

2015年3月の月例作品です。

フレームに切り取るように空を見る美術教師の視線を辿る
オリオンが南の空に映える夜君を天体観測に誘(いざな)う
静寂に向かう余韻に身を浸す終楽章の指揮棒止まり
包装をほどく手の指もどかしく一気に破るクリスマスの朝
声もなく二人それぞれ本を手にページ繰る音ときに重なる
ゆったりと木々が呼吸をするように吾もゆったり歩き続ける

ご感想などありましたらお寄せいただけると嬉

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短歌人2015年2月号

2015年2月の月例作品です。 

ワイン手に『渡辺のわたし』音読す吟行の日の打ち上げとして
音もなくくびれを落ちる砂時計わたしの時を刻み落ちゆく
舞台には脚光浴びる人あればスポットライトで照らす人あり
砂ぼこり舞うグラウンドに声ひそめ敵陣睨む十五騎の馬
風を切りハチマキたちが駆け抜けるチームの思いバトンに託して
通過する時に運河の水揺らす首都高速のトラックの列

ご感想などありましたらお寄せいた

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短歌人2015年1月号

2015年1月の月例作品です。

神戻る雨の霜月一日に咲く傘の花大神宮へ
自転車を腕と脚とで引きつけて紅葉横目で登るいろは坂
一度ずつ気温が落ちてゆくような曇り空から朝が始まる
駒音をひときわ高く響かせる子らにひたすら負け続ける午後
迫りくる王手王手を振り切って逃亡犯の気持ちがわかる
湾岸のダクトタワーに灯をともし夜も眠らぬ化学プラント

短歌人に入会して3回目の月例作品です。
ご感想などありまし

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短歌人2014年12月号

2014年12月の月例作品です。

大空をカンバスにしてまっすぐにひこうき雲が書く一の文字
あかねさす葡萄酒少し飲み過ぎて葡萄酒色に頬染める君
あかねさす紫色のワイシャツが今年の色と背中を押され
少しだけよそゆきの声聞きたくて自宅の固定電話を鳴らす
名前のみ大きく書いた自由帳そこに無限の世界ひろがる
昨日へと戻るボタンを押したなら明日の僕は何処へ行くのか

短歌人に入会して2回目の月例作品です。

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